始まり
記録者
瓦礫と鉄骨に覆われた大地を、少年は歩いていた。
風が巻き上げる灰の中、成瀬トウはぼんやりと空を見上げる。空は鈍色、太陽は曇天の向こうに霞んでいた。かつて繁栄を誇った都市は、いまや異能による戦争の名残りをとどめるだけの廃墟と化していた。
「……夢にしては、やけに寒いな」
呟いた声は風にさらわれて消える。自分がどこにいるのか、なぜここにいるのかも分からない。ただ足元に転がる金属片、崩れ落ちたビル群――それらが不思議な既視感を誘っていた。
「ここ……まさか、『ディザスターコード』の世界……?」
それは、かつて病室で出会った漫画の名前だった。
トウは17歳でこの世を去った。生まれつき体が弱く、人生の大半を病室で過ごした彼の小さな楽しみが、あの漫画だった。異能による戦争、崩壊する文明、そして最後には世界が再構築されるバッドエンドの物語。
病院の待合室で、偶然隣に座った青年が読んでいたその漫画――それが、彼の世界を変えた。
(……あのとき、俺の隣にいた人……やけに綺麗な目をしてたな)
「転生した……のか、俺は」
視線を落とすと、見慣れない手がそこにある。子供のように細く、白い指先。やはりこれは、夢ではない。自分は漫画の世界に転生したのだと、身体の感覚が告げていた。
トウは周囲を見渡す。確信があった。この世界はバッドエンドへ向かう。漫画の最終話、主人公が暴走し、神が顕現して、世界は一度壊れて作り直された――悲劇で終わる物語だ。
「だったら、俺が……止めるしかない」
ふと、胸の奥に微かな違和感が走った。
まるで、そこにもうひとつの心が宿っているかのような、静かな温もり。
それは声ではない。思考でもない。ただ、“そばにいる”という感覚。
――ツクヨ。
かつて冥の神と呼ばれた存在。今は、自分の中に寄り添うように眠っている。
(……君、誰?)
問いかけても返事はない。ただ、温かく寄り添う。
そのとき、トウの脳裏に白いページと黒いインクが浮かび上がる。何も書かれていないノート。それが彼の能力の媒体だと、なぜか分かった。
《記録(レコード)》
それが、自分の異能。異能を“記録”し、“再現”する能力。だがそれは、単なるコピーではない。神の力の根源を持つ者の異能だけを記録できる、特異な力。
彼はまだ知らない。この力の起源が、ツクヨがかつて持っていた“記録の書”であり、人間という存在への想いから生まれたものであることを。
そして、再び胸に温もり。
心の奥で、誰かが囁いたような気がした。
『僕の名前は、ツクヨ。かつて冥の神と呼ばれた存在――でも、今は君と一緒にいるただの“魂”だよ』
優しい、どこか寂しげな声。
『もし、君が前に進むなら……僕は、君と一緒に歩いていく』
言葉ではない想いが、まっすぐ胸に響いた。
「……ありがとう」
トウは小さく呟き、ノートを手に取った。ページにはまだ何も書かれていない。だがこれから、彼の“記録”が始まる。
――世界の終焉を記すために。
――そして、その未来を変えるために。
物語は、今、再び動き出す。
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