創世なんとか2
世界が形を成し、命が芽吹いてから、いくつもの“時代”が流れた。
空には雲が流れ、大地には草木が揺れ、海には魚が跳ねる。
人々は笑い、泣き、歌い、言葉を交わす。
それを見て、冥の神はひとり、ぽつりとつぶやいた。
「……いいなぁ、名前って。」
その言葉に、残りの三神が振り返る。
「名前?」
と、想意の神が問い返した。
「うん。人間たち、誰かの名前を呼ぶときって、すごく優しい顔するんだ。
なんだか、あたたかくて、大切そうに聞こえるの。僕たちにも、そういうの……あってもいいと思うんだ」
少しの沈黙のあと――
冥の神は、恥ずかしそうに手を胸元で握った。
「……ねぇ、みんなで名前、つけ合わない? 家族として、もっとちゃんと……呼びたいな」
一番最初に笑ったのは、法則の神だった。
その理性的な目元が、ほんの少しだけ柔らかくほころぶ。
「珍しく、良い提案だな。……では、まず私から始めよう。冥、お前の名は――」
彼女は目を閉じ、弟の在り方を見つめ、言葉を紡いだ。
「――ツクヨ。夜を照らす優しき月の意を込めて」
「……ツクヨ……」
冥の神は、言葉の響きを確かめるようにゆっくりと繰り返し、目を細めて微笑んだ。
「嬉しい……ありがとう、おねえちゃん」
次に口を開いたのは、ツクヨこと冥の神だった。
自分に名前が与えられた感動を胸に、今度は家族へと想いを込めて名前を贈る。
「じゃあ僕が、お父さんに――」
彼は表の神に向き直った。
「いつも世界の底を支えてくれてる。大地も、空も。すごく、どっしりしてて安心する。だから……
カグツチってどうかな。力強い炎と、地の芯にある熱の名前」
「……うむ、気に入った」
カグツチ――表の神は静かに微笑み、ツクヨの頭を優しく撫でた。
そのあと、想意の神が口を開く。
「ならば私は、姉さんに……。いつも整然として、でも本当は誰よりも優しい。姉さんは、流れと構造そのものだ。
だから――ミナカ。万物の中心を統べる名をあげよう」
法則の神――ミナカは、少しだけ目を伏せて頷いた。
「……悪くない」
最後に、ミナカが残る一人へと視線を向ける。
「想意を持ち、感情を巡らせ、そして破滅すら呼び寄せる可能性を秘めた、我らの長兄――
あなたには……セイリュウという名がふさわしい」
「ふふ……ずいぶんと、豪奢な名だな」
想意の神――セイリュウは気取ったように笑い、空に向かって名を呼んだ。
「セイリュウ、セイリュウか……悪くない。
ありがとう、ミナカ。ツクヨ、カグツチ……。これで、私たちも“人間たち”のように呼び合えるな」
四柱の神々に、名前が生まれた。
それは、神々にとって最も人間に近づいた瞬間であり
やがて訪れる悲劇の序章でもあった――
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