第12話(1)


 みよりちゃんから部活を紹介された翌日、私は再びテニス部……と名乗っている創作遊び部の部室内に、足を踏み入れていました。


「見城さん、実はね、わしの部活、新入生オリエンテーリングで部活紹介しなきゃなんないんよ」


 新入生オリエンテーリング。それは全部活動の中で、メンバー数人が代表として出て、新入生の皆さんに活動内容を紹介する会。


 毎年五月の頭に、体育館内で行われていて、部活ごとにパフォーマンスを披露したり、作品を紹介するなど、このオリエンテーリングで新入生は部活を決めると言われるほどの重要イベントです。帰宅部員の私には関係ありませんが。


「それで、そのオリエンテーリングがどうかしたんですか?」

「だから、わし部長やん? どんなことをするとか、誰が代表として出るかとか、いろいろ取りまとめないといけないんよね」

「はい」


「んでね、見城さんにお願いがあるんよ。……ちょっと部室に来て、わしのサポートしてくれへん?」

「……仕方ないですね」


 というやり取りの末、私は今、テニス部(創作遊び部)の部室である三年四組にいるわけなのですが……。


「おいお前、何ゲームソフト持ってきてんだよ」「いーけないんだーいけないんだー」「没収没収」「ちょっと! それは大事なゲームなんだよ!」


 ゲームソフトを持ってきている人が居ました。そう、この前もこみちごっこをして机をオリーブまみれにした木下君です。流石バカといったところでしょうか。


「うわあああん今誰か俺のことバカって思ったでしょおおおおお!」


 心の声にまで反応するとは。


「部長! 木下がゲーム持ってきた挙句アレルギーで泣いちゃった!」

「はいはいわかったわかった。大丈夫だよ木下君。〝今〟思っている人なんて誰も居ないから」

「ありがとおおおぶちょおおおおお!」


 木下君、それは今ではなくずっとみんな思っているという意味ですよ。


 例のごとく、私の隣で教壇に立つみよりちゃんは、ため息を吐きます。


「で、ゲーム持ってきたって言ったけど、何を持ってきたの?」


 そして、落ち着いた口調で木下君に話しかけます。没収だなんだと騒いでいましたが、この場に教師は居ないので、誰か告げ口でもしない限りは没収はされません。


 みよりちゃんは木下君の傍に近寄ります。


「聞いて驚け、部長。男のロマンが詰まったゲーム……そう、ギャルゲーさ!」

「「ギャ、ギャルゲーだって?」」


 自慢げにソフトを見せてくる木下君に、部員全員は驚きます。


「ま、まさかギャルゲーを持ってくるなんて……」「流石木下、ギャルゲーを学校に持ってくるなんて、勇者すぎる……」「うわっ、ギャルゲー持ってるなんてキモっ」「きーちゃん口悪いよ」


 男子は感嘆、女子はちょい引き気味、といったところでしょうか。ちなみに私は女子のくせに感嘆の部類に入ります。


 しかし、ギャルゲーを持ってくるなんて、なかなかに豪胆ですね……何せギャルゲーは、ゲームの中の女の子と恋愛をするゲーム。女子にキモがられる可能性を考慮すると、とてもできそうにない、というのが中学生男子の一般的な思考でしょう。


「部長。もしよければ、ギャルゲーをこの部活の全員でやらない?」

「えー……そうはいってもなあ。うちの部活は創作遊び部だし……」

「やりましょう! みよりちゃん!」


 木下君からの提案に悩むみよりちゃんの言葉を遮って、私はそう言っていました。部外者なのに。


「見城さん? ちょっと、目がキラキラしてるけど」

「さあ、早速ゲームをテレビにつなぎましょう! もちろん、ゲーム本体は持ってきているんでしょうね?」


 木下君に視線を送ります。すると彼は頷いて、鞄の中からP〇3を出しました。彼の鞄の中は異空間なのでしょうか。


「「ゲーム! ゲーム! ゲーム! ゲーム!」」


 学校でゲームをすることに興奮し、揃いも揃って声を上げる男たち。それをBGMに私は木下君のゲームを、教室備え付けのテレビにつなぎます。


「見城さん。あんね、わし、見城さんにわしのサポートをしてほしくてここに呼んだんよ。なのになんでわしの邪魔をするかね?」


 そんな私に話しかけてくるみよりちゃん。眉根を寄せて困った表情をしています。


「すみません、みよりちゃん。でも、ギャルゲーときたら私はもう無視することなんてできないんですよ」


 そう、私はギャルゲーについて一家言ある女……これまで様々なギャルゲーをプレイし、数多の女を落としてきました。


 そんな私に、ギャルゲーを無視することができようか。


 みよりちゃんに申し訳ないと思いながらも、ゲームをつなげ終えます。


「つなぎ終えましたよ。とりあえず、誰がコントローラーを持ちますか?」


 私は皆さんにこう呼びかけます。すると、部員の皆さんはざわざわし始めましたが、最終的に、『部長が良いんじゃない?』という声が多く挙がったので、みよりちゃんがコントローラーを持つことになりました。


 まず最初に、ゲーム内蔵の説明書を皆さんと読みました。テレビ画面に映し出された幾人ものヒロインたち。そしてゲームの概要、操作方法。じっくりと吟味して、まとめました。


「このゲームはノベルゲームですし、パラメーターを上げなくても、選択肢を選んでいくだけで女の子を落とせます。皆さん、これから女の子に真摯に向き合って、イチャイチャラブラブしましょう!」

『『うおおおおおおっ』』


 私の演説(?)に咆哮する男子の皆さん。女子の皆さんもまた、男子程ではありませんが少しだけ楽しそうにされていました。


 さて、私たちのギャルゲーを、始めましょう!


 というわけで、タイトル画面にでかでかと映し出されたギャルゲータイトル。『フォーエバーメモリーズ』と、パステルカラーで表示されています。聞いたことがないタイトルですが、どうやら普通の学園もののようです。


 みよりちゃんは、『はじめから』を選んでゲームをスタートさせました。


 チュートリアル的に、プロローグが始まりました。画面に出てくるのは様々なヒロインたちの立ち絵。幼なじみヒロインだったり、委員長ヒロインだったりが、主人公の武雄(たけお)を起こしたり、叱ったりしています。


「あの子とか良いんじゃね?」「いやいや俺はあのお嬢様ヒロインの方が……」


 次々と出てくるヒロインたちを見て、誰を狙うか考える男子たち。中学生らしいですね。


「お、新しいヒロイン出てきたぞ。バスケ部のボーイッシュ系ヒロインだって。可愛いな」「いやあ、俺はちょっと……元カノに似てるし」「「この腐れリア充がっ!」」「……ちなみに付き合って二日後、彼女が『バスケ部の女子に告られたから』って言ってきて、フラれたんだけどさ」「元気出せよ」「今日肉まん奢ってやるよ」「まさか彼女を女子に寝取られるなんてなあ……」


 ……一部衝撃的なカミングアウトをしている人もいますが。


 なんて言っているうちに、説明書に記載されていた全てのヒロインが出そろいました。


 さて、ここで、誰に狙いを定めるか、採決を取っておいた方が良いかと考えましたが、


「みよりちゃん、このヒロイン、説明書に出てきていませんでしたよね?」


 最後の一人……隠しキャラなのでしょうか。ヒロインが一人、出てきました。もし攻略できるとしても二週目からになりそうなキャラクターです。


『竹子(たけこ)「二代木(によき)竹子よ。あんたのことなんて全然好きじゃないんだからね!」』


 画面に映し出されているのは、金髪ツインテールで、舌足らずな声をしたテンプレツンデレヒロイン。とてもロリーな見た目をしていて、心の奥底をくすぐられているような感じがします。可愛いです。可愛いです。好きです。


 そんな竹子ちゃんが、主人公と会話しています。すると、


『竹子「ねえ、あんた……ところで、タケノコニョッキゲーム、あたしとしてくれない? はい いいえ」』


 こんな選択肢が出てきました。先ほどまで主人公に対してツンケンしていたのに、いきなりちょっとデレた表情になって、タケノコニョッキゲームを迫っています。


「見城さん、どっち選べばいい?」


 コントローラーを握りながらみよりちゃんは尋ねてきます。部員の皆さんも、私の判断をしかと待ち構えています。


「はい、で良いんじゃないでしょうか……」


 今までにないパターンだったので、とりあえず無難な方を選んでおくことにしました。


 私の言葉に従って、みよりちゃんが『はい』を押した途端……


『takenoko nyokki sutato konthinyu』


 『タケノコニョッキ』をローマ字にしたと思しきタイトルが画面に現れ、その下に小さく『スタート』『コンティニュー』をローマ字にしたものが小さく表示されていました。なんで全部ローマ字なんですか。せめてスタートとコンティニューは英語で書いて下さいよ。


 そして背景が急に荒れ野になっていて、BGMとして軍歌が流れています。


「なんだなんだ?」「急にゲームが変わったぞ?」「タケノコニョッキゲームってこんなんだったっけ?」「でもタケノコニョッキゲームって言われればそれっぽいような気がする」


 それっぽいような気がしちゃダメでしょう。荒野を舞台に、軍歌を歌いながらするものじゃありませんよ、タケノコニョッキゲームは。


「うーんと、やってみるしかないよね?」


 みよりちゃんはそう言って、『sutato』ボタンを押しました。

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