第4話(2)
それからしばらくして。
私とみよりちゃんは、どういうわけか霧の家、それも霧の部屋に、二人並んで仲良く座っていました。
「みよりちゃんは霧の知り合いなんですか?」
「うんうん。見城さんのことストーキングしているところをとっ捕まえたの」
胡坐をかきながら説明をするみよりちゃん。不思議と彼女の胡坐は男らしくも荒々しくもなく、ぴったりと彼女の陽気さにはまっていました。
ここは前述のとおり霧の部屋ですが、二つある霧の部屋のうちの一つです。今、霧はもう一つの部屋の方で着替えています。霧の家は普通の大きさですが、二つも自室があるというのはとても珍しいです。
お父さんは居られるようですが、自営業なのか、部屋の中で仕事をしているそうです。お母さんは外に仕事に行っているとか。
「それで、みよりちゃんは、私のストーカーをしていた霧のことを怒ったりしたんですか? ストーカーするな! とか」
「ううん。『ストーキングのことならきっと一条って人が詳しいよ』って言っておいた」
「みよりちゃんのこと友達だと思っていた私が馬鹿でした」
まさかストーカーにストーキングのアドバイスをするとは。というか知っていたんですね、一条先輩がストーカーだっていうこと。
「それじゃあ、知り合ったのは結構最近なんじゃないですか?」
「うん。あの子一年生だし」
霧は一年生でしたか……まあ、そんな気はしていました。千波ちゃんが被害に遭わないように祈ります。
「というか見城さんこそ鎌足といつ知り合ったの? 見城さんが他人のこと下の名前で呼び捨てなんてすごい珍しいじゃん」
「今さっき知り合いました。そして霧っていうのは半分呼ばされてるんです。一体何なんでしょう、あの方」
不思議人物だ、と思いましたが、みよりちゃんの行動もかなり不思議です。
「みよりちゃんはどうしてコスプレを見ようなんて思ったんですか」
「面白そうじゃん」
あっけらかんと言い放つみよりちゃん。タフです。すごくタフです。
「だって霧のことですよ。きっと巫女服とかメイド服とか見せてきますよ。良いんですか」
「別に良いんよ」
当然のことのようにみよりちゃんは言います。むしろ身構える私を不思議に思っているようです。男かもしれない人の女装を見るのはとても勇気がいります。それをいとも簡単に……みよりちゃん、恐ろしい子です。
と、話していると、霧の部屋のドアノブから、ガチャッという音がしました。着替えが終わったのでしょうか。私とみよりちゃんは一斉にドアを見ます。一体、どんな格好の霧が出てくるんでしょうか……。大丈夫、大丈夫、私は意外にタフなんです。異常な絵面が待っていてもちょっとぐらい耐えられます。
ドアが、開きました。
「お待たせ」
そこには、笑顔の霧が立っていました。
スクール水着姿の。
「あぁぁぁ……ちょっとじゃない、これは全然ちょっとじゃない……」
スクール水着。そう、何故か女子用の。ワンピース型になっていて、胸に自分の名前のゼッケンが縫い付けられているアレです。よく私の秘蔵書物にもスク水姿の女の子たちが載っているのですが……。
それを男(多分)が着るとは。いや、女がプールや海以外で着ている――しかも他人に見せるために――というのもかなり危ないですが。
「うおお、似合ってるね、鎌足。写真撮っていい?」
「駄目に決まってるでしょみよりちゃん!」
そしてそれを何の違和感もなく受け入れているみよりちゃんが一番おかしいです。怖いです。
「というか、何で女子用のスクール水着を持っているんですか、霧! ま、まさか盗んだんじゃ」
「買ったんだよ。メ〇カリで中古のやつ」
「中古って言いましたね今中古って」
他人が使った奴じゃないですか。というか出品者も相当図太いですねそれ。
霧はなんでもないことの様に頷き、
「ちなみに使っていたのは小学生時代。つまり小学生女児が使ったスクール水着だよ」
「言い値で買います」
いつもの癖でつい。
「えっ、本当? じゃあ見城さん使い終わったらわしに貸して!」
そしてみよりちゃんがさりげなく変態です。もしくは天性のアホです。お目めきらきらさせてすごいこと言ってます。
霧はさらに説明を続けます。
「ちなみに今その出品者は三十代。中古だって」
「……なんだ。出品者、幼女じゃないんですね」
思わずがっかりしてしまいます。でも冷静に考えてみて小学生時代のって言っていましたし、そうでしょうね。そして問題はそこじゃありませんね。どうして出品者の貞操情報を知っているのかがすごく不可解です。
「で、霧。その中古スク水がコスプレなんですか?」
「うん。コメントお願い」
どうコメントしたらいいのかわかりませんよ。
げんなりする私とは対照的に、みよりちゃんは元気に手をあげます。
「ハイハイ! コメントします! 鎌足、胸真っ平だね!」
当たり前でしょう男なんだから。いや、女だったとしてもわりかし失礼な発言ですが。
「それがボクのアイデンティティ! 貧乳はステータスだ! なんてね!」
※※※
「ん、今、わたし軽くバカにされた気がするのだ」
「どうした瀬田。大丈夫、我は貧乳が好きだぞ」
「失礼な奴なのだ!」
※※※
……今、変なカットインがありませんでしたか。気のせいですか。気のせいですね。
ともあれ、今の私たちはあまりにも異常です。スクール水着を着る男子と、それを見てぐったりしている女子と喜んでいる女子。しかも密閉空間で。窓はありますが、カーテンは外から見えるタイプのレースカーテンです。ご近所さんに見られようモノなら、通報されてしまいかねません。早くこの悪夢のような状況を止めなければ。
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