呪われ銀狐の観察記録
そらまめまん
第1話 口を開けるは谷の底
ジリジリと太陽が台地を照らし、セミの声が響くとある夏の日。
都会から電車で1時間半くらいの田舎...とも言えないなんとも言えない発展度の町と、そのまた隣町を分けるちょっとした規模の山を横断する山道を1台の車が登っていた。
何の変哲もない...いやちょっと恵まれた家庭に生まれて、なんにも変哲なく平凡な大学まで進学を果たした普通...よりちょっと友達作りの下手な早生まれの18歳男子 久遠
あだ名は小学生の時友達が読み間違えてからずっと「くおん」でたまに変なやつが「シルバー」って呼ぶくらい。
今日は大学に入って一年目の夏休み初日、こんな日に何をしているのかと言うと、単純に隣町への買い出しである。
実家暮らしの銀にとって親の手伝いは当たり前、こういうちょっとしたことで日々の感謝を伝えつつ、ちょっとした親孝行のつもりなのだ。
大学入学前は頻繁に親と共に買い出しに通った道を、取り立ての免許で運転練習がてら1人行くことにした。
それが幸いしたのか災いしたのかはまだよく分からないけど、今は少なくとも他人への被害を出さずに済んだ...と思っている。
「あれ?霧...?」
いつも見る景色の道をお気に入りの音楽を流しながら運転していた僕の車は唐突に視界を奪う霧に包まれた。
一体何事?かろうじて道路が見えるくらいの濃霧になる天気じゃなかったはずだけど...
スピードを落とし、安全のため、定期的にクラクションを鳴らしながらゆっくりと進む。
運転初心者にこんな事させないで欲しい...!
ゆっくり慎重に進むことしばらく、するとまた変化が訪れた。
「えっ...?」
道路の両側が崖になった。
いつも通ってる道を真っ直ぐ通っていたはず、それなら山肌とガードレールで落ちないようにされている崖の道のはずだ。
しかし今、車の両サイドはタイヤが落ちてしまえば転がり落ちてしまいそうな崖に変わっていた。
「道を間違えた...?いやそんなはずは...」
嫌な予感がする。
不気味な気配を感じる。
...そういえばさっきから妙に寒い...今日は真夏日だったはずだけど...
引く訳にも行かず、これまで以上に警戒しながら霧の道を進む。
この時既にちょっとしたパニックでクラクションを鳴らすことは忘れていた。
そして、しばらく真っ直ぐに進むとまた...いや、これまで以上の変化、異変が起きた。
両側が崖の道が終わり、両側が山肌なのか土の壁に変わり、ホッとするとおかしなものが視界に入った。
「狐の...石像...いや、お地蔵様?お稲荷さんとは...違うよね?」
道の横、山肌への緩やかな坂に道路に向かって1体の狐のお地蔵さんが置いてあった。
なぜこんなところに?と思いつつも先に進むとさらに異変が起きる。
「また...増えてる?」
道を進む事に狐のお地蔵さんが増えていく。
初めは右側にしかなかったはずなのに気がつけば両側を道を挟むようにして狐のお地蔵さんが埋め尽くすように設置されていた。
「...。」
これはまずい、そう僕の理性と直感が警笛を鳴らし続けている。
...引き返そうか?
そう考えた時、さらに異変が起きた。
正面の霧が薄れ、姿を現したのは車ごとくぐれそうな大きな鳥居と神社の境内らしき空間だった。
「神社...?こんなところに?」
なぜこんなところに?いつから?そんな疑問は絶えないが、ここに人がいるのか、どちらにせよ境内に1度入らせてもらってUターンしようとそう考え鳥居に近づいた時、僕の脳内でこれまでよりずっとずっとけたたましく警笛がなる。
唐突に迷い込んだ霧の中、全く記憶にない道、不気味な狐のお地蔵さん、そして袋小路にある神社。
これはくぐっていいのか?
「...だめだ...この先はだめだ...!」
僕は自分の直感と理性の警笛に従うことにして、すぐに車のシフトレバーをRにいれた。
...これからこれまで来た道を、すぐ横を狐が見張る道を、両側が崖になった道を、長い霧の中をバック走行で抜けなければならない。
「やるしかない...!」
自信はないが覚悟は決め、アクセルペダルをゆっくり踏み、後退し始めるその時、ちりっと何かが擦ったような音がした。
「...!」
慌ててサイドミラーで後方を確認すると、バックライトのすぐ横がもう狐のお地蔵さんだった。
擦った...?そんなはずは...
...。
今出て確認することは出来ない。
車というこの小さな結界から外に出ることは。
「...無事に帰れるかも分からないんだ、後で確認しよう」
今は気にしないことにして、それでもこれ以上は擦らないように気をつけて後退を続けた。
しばらく進んでお地蔵さんを超え、崖の道まで戻ってきた。
細心の注意を払いつつ後退する。
落ちれば一巻の終わり、緊張感が全身を包む中、バックミラーとサイドミラー、さらにバックモニターも全部を確認しながら慎重に身長を重ねて進む。
さらにしばらく進むと後方に何かが見えてきた。
「ガードレール!帰ってこれた!?」
多分、気が緩んだんだと思う。
張り詰めた緊張が切れると同時に少し、ほんの少しだけハンドルを横に傾けてしまった。
ぐらり、世界が...いや、車が傾く。
ずっと緊張していた反動か、体が咄嗟に動かない。
「しまっ...!?」
落ちる、落ちる。
タイヤが斜面を滑り、車体が転がり、崖に当たった弾みながら下へ下へと落ちていく。
そして...
「がっ...!?」
何度目かの崖との衝突の中、エアバッグが作動した。
だが皮肉にもその衝撃で、僕の意識は暗闇の中に沈んで行った...
...
.....
.......
...
光がまぶた越しに照らしてくる感覚で目が覚めた。
明かりに目をやられつつ、ゆっくりと目を開く。
「...びょういん?」
前に母親が入院した時に見た部屋に似ている...
僕は助かったの?
「あれ?」
意識が覚醒していくにつれ、さっき自分が出した声がおかしなことに気がついた。
妙に高いような...?
起き上がり、周りと自分の体を見る。
...小さい。
まるで小学生のような手と体だ。
「どうなって...?」
ベッドから降り、ふらつく体を自分よりはるかに大きなベッドで支えながら何とか歩く、あの部屋と同じならたしかここに...
ベッドをぐるりと回って洗面台にたどり着いた。
そしてそこにある大きな鏡を見つめる。
そこに映っていたのは、夏休みの大学生...ではなく、頭に動物らしき耳を生やし、腰からはもふもふとしたしっぽを生やした小学生くらいの小さな女の子だった。
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ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
こちらは同時進行中のものもあるので不定期になります。
尚、今回書きました怪奇現象は筆者ではなく、その家族3人が乗った車で遭遇したものです。
家族は無事に擦らず落ちず帰ってきましたが、その後地図を見ても人に聞いてもそんな場所は見つからなかったし、話を聞いて調べてもそんな場所は見つかりませんでした。
当時筆者は運転手のお腹の中にいました。
つまり4人は無事に帰って来ました。
皆様も遭遇した際には気をつけて慎重に帰ってきましょう、先に進んだあとのことは保証できませんので自己責任でお願いします。
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