6-1
城守は頭を上げると、ふうっと息を吐いた。
「今回のお客様は優しかったですね」
いつのまにか水はなくなり、暗闇も男が最初に見た内装へと戻っている。
「皆様、ご協力ありがとうございました」
かつての宿泊客であり、今回の宿泊客のために記憶を貸した女性達と姉妹のどちらかはその言葉と共にすぅっと姿を消した。
どこか安心しているような羨ましげな表情を浮かべていたことを城守は見なかったことにした。
「さて、貴方達はどうして勝手に喋るのでしょうね」
城守が冷たい視線を送ると、男達は一瞬、黙り、そして再び罵詈雑言を吐き始めた。
『俺達は悪くない!』
『早くここから出せ!』
『あいつらを地獄に送ってやる!』
『この化け物どもめ!』
城守は首を横に振ると、パチンと指を鳴らした。
すっと男達は姿を消し、部屋に静寂が生まれた。
「貴方達を出すわけないでしょう」
お客様にご迷惑がかかってしまう
耳を揺らし、天井を見上げ、城守はかつての記憶を遡る。
とある男が全ての宿泊客に幸せになって欲しいと造ったホテル。
当時では珍しい洋館スタイルのホテルは人気を呼び、同じ志を持つ従業員と楽しく仲良く働いていた。
しかし、周辺の同業者からは新参者の繁盛が面白くなかったのか嫌がらせを受けるようになった。
そして、事件は起こった。
男が買い出しに出ている最中に火事が起こったのだ。
同業者が嫌がらせのために、ボヤ騒ぎを起こそうとしたらしい。
その火はみるみる広がり、ホテルを飲み込んでいく。
男は買い物袋を地面に放り投げ、走り出した。
毎日、避難経路と緊急対応は確認していた。
しかし、従業員も宿泊客も誰一人として外に出ていなかった。
火の中に飛び込み、喉が焼け、目が霞むなか、男は見てしまった。
避難経路の扉の前で倒れている従業員と宿泊客を。
そして見てしまった。
その扉が打ち付けられ、開けられなくなっているのを。
ボヤ騒ぎではなかった。
同業者は最初からホテル、従業員、自身達のホテルに泊まらなかった宿泊客全てを壊したのだ。
男は従業員に近づき、すまないと声が出ない喉で呟いた。
そのまま従業員の横で同じように倒れ、燃えさかるホテルと共に男は姿を消した。
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