3-1

―それはそれはとても仲の良い姉妹の話でございます―


「早く登っておいでよ!」

自宅の庭に生えている木に登り、少女はその下で戸惑っている少女に声をかけた。

「待ってよ!」

困り顔でそう言いながらも、なかなか登れない少女は木に登っている少女を見上げた。

ぱっちりとした二重。

桜色の頬。

小さく愛らしい唇。

同じ髪型に同じ服。

全く同じ姿の少女二人は木の上と木の下で見つめ合っている。

「もう、お姉ちゃんは本当に怖がりなんだから」

むうっと頬を膨らませて、木の上の少女はするすると器用に地面に下りてきた。

「貴女がわんぱくすぎるのよ」

姉と呼ばれた少女は、木の上から下りてきた少女・・・妹に呆れながらそう言った。

そうかなぁと妹は不思議そうに首を傾げた後、ふふっと笑いながら姉の隣でくるりと回った。

ふわりとお揃いのワンピースの裾が広がり、その姿は春の妖精のようだった。

「せっかくお母様が新しい服を買ってくれたのに。汚れたらどうするの?」

「だから嬉しくてお気に入りの景色を見たかったの!」

妹は木の上から見る空が好きだった。

お気に入りの場所でお気に入りの服を着て、大好きな姉と大好きな空を見る。

姉は地面から見上げる空が好きだった。

お気に入りの木の下でお気に入りの服を着て、大好きな妹と大好きな空を見る。

同じようで同じでない姉妹。

しかし、その見た目は二人の両親ですら見分けることが出来ないほどそっくりだった。

一卵性双生児。

見た目も仕草も同じ姉妹。

唯一違うとすれば、その性格だろうと姉妹も認識していた。

活発で誰とでも仲良くなれる妹と控えめで一人でいることが多い姉。

性格以外は好きなもの、嫌いなものも全て同じ。

誰よりも自分よりも互いのことを知っていると姉妹は思っていた。


「おーい」


家の玄関の方角から姉妹を呼ぶ声が聞こえた。

妹の顔は満面の笑みになり、姉の顔はうっすらと色づく。

「奥様がおやつの時間だってさ」

そう言いながら、姉妹に近づいたのは庭師の弟子の少年だった。

「ありがとう」

姉妹が声を揃え、お礼を言うと少年はどういたしましてと頭を下げた。

そして、そのまま庭師の元へと戻っていく。

そのとき、少年のポケットから何かが落ちた。

姉が拾い、妹と一緒にそれを見る。

それは姉妹のどちらかの姿が写った写真だった。

姉妹が一人で写っている写真はなかったはずだ。

若干、ピントがずれておりそれが更に姉妹のどちらかなのか判断ができなくなっている。

どうやら少年が撮影したものらしいと姉妹は思った。

つまり、少年は姉妹のどちらかが好きなのだ。

二人は顔を見合わせた。

実は二人も少年に恋をしていた。

どちらの恋が実り実らなくても、ずっと一緒だと二人は約束していた。

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