42.クラスルーム
当面の目標、二つ目。
探索者
以前にも掲げた目標だけど、その時とはまた別の理由がある。
それは人脈。階級を上げれば探索者としての注目度が上がり、他の探索者との繋がりも作りやすくなる。
協会からも話が来やすくなるはずだ。
そうすれば夢魔が出た時、あたしに話が回ってくるかもしれない。
本当は夢魔の存在が周知されればいいんだけど……目撃例があたしの倒した一体だけじゃなぁ。
ギルドに入ることも考えたけど、あたしを拾ってくれるところがあるかわからない。
広い人脈を築いてるギルドってどこも強豪みたいだし、少なくともD級のままじゃ採用してはくれなさそう。
『マスターは自己評価が低すぎます』
(シープがそう言ってくれるのは嬉しいけど、あたしの実力なんて誰も知ったこっちゃないんだわ)
謙遜を抜きにすれば、あたしは中々に強くなったと思う。
夢魔のことを無しにしたって、あのレギオンゴーレムをソロで撃破したのだ。
だけどそんなことを自分で吹聴したって誰も信じない。
知られなければ強くなっても見てもらえない。
だから、階級を上げる。誰が見てもわかる判断基準で、あたしの強さを定義する。
そういうわけで、今度はC級の昇級試験を受けにやって来たのである。
申請してから何やら手続きに時間がかかっていたみたいだけど、ようやくこの日がやってきた。
前回と同じく試験内容は教えてもらってないけど……まあ何とかなるでしょう。
「あ、夜渡さーん」
ロビーの椅子で待っていると、あたしより一回り上くらいの女性職員さんがやってきた。
「あのう、今回の試験内容なんですけど、協議の結果特殊な内容になってしまいまして」
「は、はい。それはどういう」
訊ねると、職員さんは周りをちらと見て、声を潜めた。
「これから車で送迎しますので、詳しいお話はその中で」
よくわからないまま、とりあえず頷く。
送迎ってことは、前みたいにダンジョンを攻略すれば合格とか?
筆記のほうが自信あるんだけどな。さすがに無いか。
* * *
およそ1時間後。
あたしは教壇に立っていた。
(いや、なんで!?)
ここはとある施設の教室。
動揺を顔に出さないよう頑張るあたしの前には、長机がいくつか並べられており、十数人の生徒が席に着いている。
みんな真剣な表情でノートを開き、あたしの開口を待っていた。
送迎の車内で職員さんから告げられた内容はこうだ。
基本的に昇級試験の内容は『ダンジョン攻略』になっており、本来ならあたしが受けるC級への試験もそうなる予定だった。
『ただですね、前回の試験における夜渡さんの立ち回りを見ると、C級相当の試験では受ける意味がない――ああ、これはもちろん簡単すぎるという意味です』
それでも、昇級試験を適当に済ませるわけにはいかないというのが協会の方針らしい。
ランクが上がるということは、危険度の高いダンジョンへ挑戦できるということになる。
いくら実力があっても、関門をなあなあに突破させてしまっては、何かあったときに協会の責任問題に発展してしまうってことなのかも。
というわけで、今回用意された試験が『授業』らしい。
探索者ライセンス教習所で、特別講師という名目で、探索者を志す生徒に教えを説いてほしい……とのこと。
いやいや、あたしはしがないD級探索者ですよ。人様に教えるなんておこがましい。
そう遠慮したところ――――
『前回の試験における夜渡さんの知識や対応力、そして的確に仲間へ指示を出せる判断力や胆力が協会に高く評価されているんです。あ、もちろん実力も。ここだけの話ですけど、夜渡さんってかなりの注目株なんですよ』
そう言われると悪い気はしないけど、同じくらい恐縮してしまう。
シープがそばで『当然です』とでも言いたそうな空気を出しているが、車内では何も言えなかった。
そんなわけで授業である。
前半は座学。というか授業というなら事前に考えたりさせてほしいんだけど、そこも含めての試験ってことなのかもしれない。
白色蛍光灯に照らされた室内は静かだ。
生徒たちはそれぞれ意欲に差はあれど(よく知らない女が講師として来たら当然だ)、あたしが話し出すのを待っている。
あたしにもこんな時期があった。
座学については……あたしは『睡眠学習』に目覚める前から勉強熱心だったのであまり苦労しなかったけど、問題は実技。
ミキたち三人に比べて卒業が遅れてしまって、迷惑をかけちゃったんだっけ。
何もかも懐かしい。
(……何から話そうかな)
ごくり、と生唾を飲む。
実のところ車内で話を聞いた時からある程度考えてはいるんだけど、問題はそれをきちんと話せるかどうか。
学校の先生たちの苦労が今になってしのばれる。今度からはもっと授業に集中しよう。
さておき。
今は、あたしの番だ。
「……特別講師として呼ばれました、夜渡レムです。よろしくお願いします」
よろしくお願いします、と復唱する生徒たち。
C級試験が開始した。
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