第26話「王都突入──交差する三つの意志」



──王都・南門外。


吹き荒れる風の中、悠はただ一人、立っていた。

背後には黒鉄色の風景、焦土と化した森。

その先にある王都は、かつての威容とは程遠い。

空は紅く染まり、神殿を中心に巨大な魔導障壁が展開されていた。


(……“迎撃準備”が整ってるな。桐生、マジで本気か)


その障壁は、単なる物理結界ではなかった。

空間すら歪める“神域”の模造。

悠の足元が微かに光ると、《無限成長》の識が囁く。


《目標:王都結界。推定ランク:S+。魔力濃度:臨界。干渉可能性:3.6%》


「3.6……上等だ」


《ユウ、イケル? イケナイ? イケルナラ、タベル》


悠は頷く。


「喰ってこい。俺の魔力、全部貸してやる。やれ、グリム」


グリムが咆哮するように共鳴し、剣先から黒紫の奔流が放たれた。


──《神域崩し:食尽ノ式(エンド・オブ・デバウア)》。


それは、王都を覆う“神の網”すら喰らい裂く、進化した魔喰の力だった。


結界が、音を立てて崩れ始める。


その震動に、王都内部の指揮官たちが反応する。



──同時刻・王都中央街区・下層通路。


「……よし、今のが合図だ。悠が動いた!」


拓海が地図を広げながら指示を出す。


「王都の南結界が崩れれば、外部警戒はそっちに集中する。今が潜入のチャンスだ」


「了解。神殿の側面地下路──“水路封鎖解除”を最優先に動くわ」


イルゼが魔導装置を起動する。

その手際は完全に“プロ”だった。


「私が使っていたルートよ。調整者としてのアクセス権限は、まだ残ってる」


「それで通れるの?」


「王族の監視からは外れるけど、神性兵に見つかったらアウト。慎重にいくわ」


瑠璃は小さく頷いた。

その手には、先日イルゼから託された“刻印符”がある。


「私は……絶対に、あの空を見逃さない。

悠くんが戦ってるなら、私も“戦う理由”を見つけなきゃいけないから」


3人は地下へと潜入していった。



──同時刻・王都上層・天頂神殿。


「……ついに来たか、悠。君の力、やはり“常識”で測れない」


桐生 隼人は、神核端末を指先で操作しながら、愉快そうに笑っていた。


彼の背後、無数の神性兵アークが並ぶ。


「君を“駒”にすることは、もう考えていない。

でも、君が“壊れた時”……それが、僕の“神の証明”になる」


傍らに立つ女性神官が口を開いた。


「桐生様。外周部にて魔導結界の崩壊を確認。南門より“対象”が侵入中です」


「いいよ。想定内だ。

さあ、王都よ。世界よ。“この進化”を見届けてくれ──」


桐生の目が、僅かに“狂気”の色を帯びた。



──そして、運命の地に足を踏み入れた者がもう一人。


悠は王都の大通りに降り立ち、静かに息を吐く。


「……ここで、終わらせる。

俺はもう、“誰かの選択肢”じゃない。

この力は、俺の意志で使う」


その瞬間、前方の空が裂ける。


降り立ったのは、一体の“神の代行兵”。


その名は――


《神性兵・アーク・セラフィム》


天使のような姿と、神々しき光を纏いながら、口を開く。


「人類の逸脱者、水瀬 悠。

あなたに“最終審判”を与えます」


悠は、剣を掲げて答えた。


「望むところだ。神だろうがなんだろうが、

“俺を見下す”なら──全部、叩き潰す」



(第27話へつづく)

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