少女エニタとの出会い・2
「改めまして、
書架が形作る死角となった、ちょっとした“秘密の場所”みたいな、一つの閲覧席で。
向かい合って座ると、エニタはそのように自己紹介した。
どこまでも真っ直ぐに人を見つめる瞳に、シェイナの姿が映っている。
「どうぞよしなに」
スッと頭を下げた少女の所作は、完成されて美しい。
声や所作を含める
「この国立図書館では、
「正雇用者じゃないってことかしらー?」とランが頭上から声漏らした。
「お声をおかけしましたのは……図書の
「…………」
「では……まずは、こちらをご覧になってください」
言うとエニタは、先程まで胸に
今は机の上に置かれたその本の表題は――『外界世界の百科事典』。
厚みのある表紙の端側へ手を滑らせ、用紙の厚みを取ると、ページも確認せずに書を開く。
開かれたページの章題は――『文明外圏に
外界生物の定義、生態系、文明域との比較観測、その危険性と利用価値の概観など、ファンタジーの類の羅列も散見されない、緻密な情報が美しく記載されていた。
「外界生物が書物で語られるにおいては……野生的自然環境における生物種の多様性、生物の生息域、野生下における獰猛の危険度などが主題として挙げられることが通例です。外界行商人の方々や、【
そこまで語ると。
エニタは突然に、――机に頬を付けるようにして、体勢を横向きに倒した。
そうして、スッと
内心で首を傾げた二人を前に。
エニタは、胸部を押し潰された
――どうやら、息でページを捲ろうと
「…………」
先程とは異なる意味で言葉を閉ざし、目を点にしてその様子を見つめるシェイナとラン。
やってみれば分かるが、本のページを息で捲ろうとするのはなかなか難しい。まして
顔を
やがての
「……――これまで
「こちらは、私が開発した道具です」
話の再開に先んじてシェイナが問うたことに、エニタはそれをシェイナのほうへ差し出しながら答えた。
「【
「シンドリスの都市では、こちらの方法が主流なのでしょうか?」
「いいえ。私以外にこれを使っている人は、たぶん、いません」
「なるほど……」
「しかし、私は……この方法が最良であると考えています」
【
「専用の手袋を
ランの声が届いているわけではないだろうが、エニタはそのことに言及した。
「しかし【
「――しかし、吐息の及ぼす洋紙への不都合な影響を、ほぼ完全に取り除けるフィルターというのは、凄い技術です」
「長い時間をかけて開発しました。【
少女エニタは、ふと、視線を遠くした。
瞳が鏡のように輝く。
「たとえそれがどのようなものであろうとも……より素晴らしいと思えるものがあれば、それを、究明したくなる。現実として、目に見たくなる。私は、昔からそうでした――」
ぽつりと声漏らした
「外界生物が書物で語られるにおいての、ふと疑問に思いましたところ――というお話でしたね。と、言いますのも……先に挙げた『現実的』で『有益』に主題を置いた知識記述の中に、こちらのような……どうにも、それまでの現実的な情報から浮いて見える……、『幻想論』的な
開かれたページの、その
『語られる幻想存在の概念整理――一、概念構造の解明』
「――――なぜ、有益性に主題を置いた書籍に、『幻想存在』という異色と
私は……外来者の方々も、
シェイナとランは思わず、ふと、顔を見合わせた。
――まだ見ぬ
さて、しかし。
シェイナはそれを、少女エニタへ、明かすだろうか?
・①明かす
・②明かさない
”あなた”の選択を待っています――……。
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