第2話 目覚めの旅

村の修復と埋葬が終わるまで、三日かかった。魔獣の襲撃は突然で、そして無慈悲だった。命を落とした者の中には、クロノスが訓練で一緒だった仲間もいた。


クロノスは、その死を胸に刻んでいた。自分が目覚めなければ、もっと多くの命が失われていたかもしれない。だが同時に、彼の力に対する恐れも広がっていた。


「クロノス、君は……もう、ここにはいられないかもしれない」

長老の言葉は重く響いた。


村人の一部は、彼の力を“神の加護”と呼び敬った。しかし、別の者たちはその目に宿る文様を“忌み子の印”と呼び、距離を置いた。


「……俺は何者なんだ?」


その問いを抱えたまま、クロノスは旅立つ決意をする。


同行を申し出たのは、ユーリとエマだった。


「放っておけるかよ。お前がどんな奴でも、友達だろ」

ユーリは笑った。


「私も一緒に行く。神の器の伝承──それを調べるには、もっと世界を知らなきゃ」

エマは静かに言った。


三人は村を後にし、東の山脈を越えて、“知識の都セファル”を目指す。


そこには、失われた時代の文献を集めた大図書館があるという。


だが、その旅の途中。


彼らの行く先を、遠く離れた樹上から見つめる男がいた。


全身を灰黒の装束で覆い、顔には白銀の仮面。仮面の隙間からのぞく瞳は、金色に揺れていた。


男は木の上から静かに呟く。「やはり目覚めたか、“刻の目”……」


その声には、懐かしさと怒り、そして焦燥が入り混じっていた。


「王はまだ己を知らぬ……だが、時は巡る。あの日の誓いも、もうすぐ果たされる」


風が木々を揺らす中、男の姿は音もなく森の奥へと消えていった。


──その存在に、クロノスたちはまだ気づいていなかった。

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