第67話 『デデーン。ハルヤお兄様、アウトです』
魔導街ヒヒイロカネの工場エリア。
さまざまな魔道具やドスケベグッズを生産するだけあって、町の区画を大きく占めている。砦のようなゴツゴツした建物がいくつもあった。煙突からは煙がのぼっており、実験もかねた部屋もあるのか窓ガラスがない建物もある。
重要施設だとわかっているのか、工場自体は木で埋もれていない。
俺とリリィは遠くの木にのぼり、様子を見張っていた。
太陽が昇りかけていて、東の空がほんのりと青白くなっている。朝の目覚めを待つように、世界が彩りはじめていた。
「ハルヤ様、工場で動きがあるようですね」
俺と一緒に監視していたリリィが告げた。
「やっとか。……俺たちがマスドールをつぶしてまわるようになってから、行動が予想以上に遅かったな」
「人間が嫌がる作戦を、なかなか思いつかなかったのでしょうね」
リリィの言葉に、俺はうなずいた。
あのあと俺たちは、町中のマスドールを次々に撃破していった。
人形同士でろくに連携もできていなかったようでことはスムーズに進んだ。各個撃破されていることに魔芸師パテリーは大分遅れてから気づき、防衛を優先してか工場に人形を集中させた。
やっぱり対応が遅い。ありゃあ日ごろはひきこもって技術を磨いているタイプだな。ならイレギュラーに弱い。
「お。変わった人形がでてきたぞ」
ローブで身体を隠した人形があらわれた。
マスドールと同じ系統のようだが、他とちがって顔がある。黒髪の女だ。魔芸師パテリーの分身体か?
リリィが本と見比べながら言う。
「マイク様からいただいた仕様書によると……試作型マスドールのようでございますね。他より機敏に、正確に動けるとのことです。便利だからと、分身体の候補にしたようですね」
「……あれって人工皮膚をとりつけただけなんだよな? 口が動いているぞ?」
「簡易の幻視術と、光学技術の合わせ技とのことです。顔が動いているように見せかけているだけですね」
「ラブドールにどれだけ技術をつぎこんでいるんだよ……」
技術者の情熱に、エロが合わさるとすさまじいな。
魔芸師パテリーはマスドールに指示を飛ばし、守りをさらに固めるようだ。
と、工場奥から、技術者が何十名も人形に連れられてやってきた。
「人質にするつもりでしょうか?」
「んー……」
俺は目をすぼめて、技術者たちの口を見つめる。
「ざっくりとだが、『量産はまだ終わっていないぞ』『俺たちになにをする気だ?』『人質?』『ここに集まっていろ?』と言っているな」
「読唇術ですか? またそんな技術を隠していて……」
「精度は悪いぞ」
「それも村の人から教わったんです?」
「ボクっ娘巨乳ボーイッシュからなー。……今のフィリオなら二日ぐらいで修得できるんじゃね」
リリィは得心いったような顔をした。
ま、これからは隠していた技術で仲間の実力の底あげをやっていくとしてだ。
魔芸師パテリーはもたもたしながら技術者を一カ所に集め、苛立ったように叫んでいるようだ。
どう言えば人間が素直に動くかよくわかっていない様子。
「なーんか手間取っているな」
「脇が甘すぎますね」
「日ごろは森深くにひきこもって、一人で人形芝居でもしているんだろうさ」
「駆け引きをするには、物足りなさすぎます」
リリィは淡々と言った。
死に戻り前のリリィなら、ここまで敵と駆け引きをしないだろう。
安全は期しているが、町の人にわずかでも危険が及ぶなら作戦は却下したかもしれない。集合寄生モンスターのラギオンと戦ったときの彼女なら、こんな選択はしなかった。
合理性を遺憾なく発揮するようになったリリィに、あの魔性は相手にならないか。
「たくましくなっちゃって、まあ」
「お嫌いですか?」
リリィが挑発するように言った。
「嫌いになる理由なんてないさ」
「…………むー」
「なんで不服そうなんだよ」
「別に、なんでもございません」
「なんでもありそーじゃないか」
「……マイク様からいただいた仕様書どおりなら、ハルヤ様の作戦は問題なくこなせますね」
話を強引にそらしやがったな。
俺は肩をすくめながら答えてやる。
「あとは最後のひと押しなわけだが……」
瞬間、鷹が俺たちの前を横切った。
俺の手に、くるまった紙を落としていった鷹は、もうはるか上空にいる。フィリオの鷹だ。俺は紙の中身をたしかめると、にんまりと微笑む。
「さっすが、フィリオとココノ」
「では」
「作戦決行といきますかー」
俺が紙をしまっていると、リリィが心配そうな顔でいた。
なにか不安な点があるのかと思っていると、彼女がたずねてくる。
「本当にやるのですよね?」
「おー、やるぜー」
「……すべてを失うかもしれませんよ?」
作戦に不安があったわけじゃなくて、俺のことが心配になったらしい。
日ごろああだこうだ言っておいて、これだものな。ズルい性格だ。
「俺に失うものなんてあったっけ?」
「女神フローラ様がどう思うか」
「ハハハ」
「笑って誤魔化さないでください」
「笑うしかねーんだもの」
フローラ様は、まあ……うん……対処しようがないか。
天罰食らわないことだけは祈っておこう。
俺はどうしようもなさそうに笑ってやる。
「リリィこそ、こんな阿呆には付き合いきれなくなったか?」
「嫌いになる理由がありません」
みんなが望むような光の勇者じゃないのに、リリィは俺に微笑みかける。
もうとっくに勇者じゃなくなったのに、側にいてくれる。
……。……。……。
ふむ……なるほど……なるほど……?
嫌いにならないと俺が言ったとき、リリィも同じ気持ちだったのだろうか。
どんな感情だったかは具体的に言語化しないようにして、俺は剣に手をそえる。
「んじゃま、行くとしますか。リリィ」
「はい、ハルヤ様」
「作戦【腰へこへこ】の開始だ」
とまあ、もったいぶったが、いつもどおり馬鹿やるわけだ。
ただ、ちょっと、ほんのちょっと、ほんとちょーーーっとお下品やるわけですが、どうかお目こぼしがあるよう、何卒、何卒、なーにーとーぞー、かしこみかしこみもうしあげます。
ハハハ、と笑って許してくれますよね?
指、折らないですよね……?
フローラ様……?
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