第11話

第3話 初陣の試練


 「バトル、スタート!」


 マックス先生の号令と共に、第一訓練場が戦場に変わった。


 訓練場は巨大なドーム状の施設で、内部には山や森、湖などの地形が再現されている。ホログラム技術により、まるで本物の惑星にいるような錯覚を覚えるほどだった。


 「みんな、作戦通りに!」


 翔太の声と共に、十人のチームが動き出した。


 まず前衛のリョウ、ユウ、カエルが前進する。


 「俺が偵察してくる!」


 リョウが『加速』能力を発動。瞬時に姿が霞み、森の中へ消えていく。


 「敵チーム発見!」


 すぐにルナのテレパシーでリョウの報告が届いた。


 『北東の丘に一チーム。アルファケンタウリ銀河とベガ銀河の混合チームみたい』


 「了解」アヤが冷静に分析する。「地形的に向こうが有利ね。高所を取られてる」


 「どうする?」美月が聞いた。


 「正面からは分が悪い」翔太が考える。「回り込んで…」


 その時、空から炎の塊が降ってきた。


 「うわあああ!」


 慌てて散開する十人。


 「空中戦?」ザラが上を見上げた。


 そこには、翼を持つ生徒が浮いていた。飛行能力を持つペガサス銀河出身らしい。


 「カエル!」


 「任せろ!」


 カエルが手を上げ、炎の矢を放った。しかし、相手は空中で軽やかに回避する。


 「くそ!当たらない!」


 「僕が!」


 バイオスが地面に手をつくと、蔦が勢いよく伸びて空中の敵を捕らえようとした。しかし、相手の動きが速すぎる。


 「連携が…」


 美月が焦りを感じた瞬間、別の方向から水の弾丸が飛んできた。


 「きゃあ!」


 「美月!」


 翔太が美月をかばおうと駆け寄るが、間に合わない。


 その時、ケンが前に出た。


 「『防御障壁』!」


 透明な壁が現れ、水弾を弾き返す。


 「ありがとう、ケン!」


 しかし、敵の攻撃は止まらない。


 北東からは地上部隊が、空からは飛行部隊が、西からは水魔法使いが。


 三方向からの同時攻撃だった。


 「まずい!」アヤが叫んだ。「完全に包囲されてる!」


 「散らばるぞ!」翔太が指示するが、混乱が広がる。


 ザラが機械を操作して防御装置を作るが、カエルの炎が誤って装置を溶かしてしまった。


 「あ!ごめん!」


 「大丈夫です!」


 ユウが敵に突撃するが、一人では限界がある。


 リョウが高速移動で撹乱を図るが、空中の敵には手が出せない。


 「このままじゃ…」


 ルナが精神感応で敵の動きを読もうとするが、相手が多すぎて混乱する。


 バイオスは必死に植物を操るが、炎や水でダメージを受けてしまう。


 連携どころか、お互いの能力が邪魔し合っている状態だった。


 「くそ!」カエルが歯ぎしりした。「なんで上手くいかないんだ!」


 「焦らないで」美月が声をかけるが、状況は悪化する一方。


 敵チームは見事な連携で攻撃を続けてくる。まるで長年一緒に戦ってきたような息の合い方だった。


 「あの子たち、どうしてあんなに…」ザラが驚いた。


 その時、翔太は気づいた。


 敵チームの動きをよく観察すると、一人一人の能力が完璧に補完し合っている。


 空中戦の子が敵の注意を引きつけ、その隙に地上部隊が接近。水魔法で相手の動きを封じてから、決定打を放つ。


 「そうか…」


 翔太の脳裏に、一年前の記憶が蘇った。


 あの時も、最初は美月との連携が上手くいかなかった。でも、お互いを信じて、理解し合って…


 「みんな!」


 翔太が大声で叫んだ。


 「一度集まろう!」


 「え?でも敵が…」


 「大丈夫!ケン、大きな障壁を!」


 ケンが頷き、チーム全体を覆う巨大な防御壁を展開した。


 一時的に敵の攻撃を防げる。


 「翔太?」美月が心配そうに見た。


 「僕たち、間違ってた」翔太が息を整えながら言った。「それぞれの能力を活かそうとして、バラバラに戦ってる」


 「でも、連携って…」リョウが困惑した。


 「違うんだ」翔太が力強く言った。「連携っていうのは、同じタイミングで攻撃することじゃない。お互いを信じて、任せることなんだ」


 アヤが何かに気づいたような顔をした。


 「つまり…」


 「そう。僕たちはチームだ。一人一人が主役で、一人一人が支え合う」


 翔太が振り返る。


 「カエル、君の炎は本当にすごい。でも無理に当てようとしなくていい。敵の動きを制限するだけで十分だ」


 「え?」


 「ザラ、君の技術は正確で美しい。でも一人で全部やろうとしなくていい。みんなの能力を増幅させることを考えてみて」


 ザラの目が輝いた。


 「バイオス、君の治癒能力は誰にも真似できない。攻撃のことは僕たちに任せて、みんなを支えることに集中して」


 バイオスが安堵の表情を見せた。


 「ルナ、君のテレパシーがあれば、みんなの心がつながる。遠慮しないで、もっと僕たちを結んでよ」


 ルナが微笑んだ。


 その時、防御壁にひびが入った。


 「時間がない」アヤが警告した。


 「大丈夫」翔太が笑った。「今度は上手くいく。みんなを信じてるから」


 美月が翔太の手を握った。


 「私も、みんなを信じてる」


 その瞬間、不思議なことが起こった。


 翔太の『適応』能力が、これまでにない反応を示したのだ。


 いつもは自分一人の能力を環境に適応させるだけだった。しかし今、翔太は仲間たちの能力を感じ取れるようになっていた。


 リョウのスピード、ユウのパワー、カエルの炎、ザラの技術、アヤの分析力、ケンの防御、美月の安定、ルナの感応、バイオスの治癒…


 すべてが翔太の中で一つになろうとしている。


 「これは…」


 『翔太』


 ルナのテレパシーが聞こえた。でも、今度は一対一ではない。みんなの心が繋がっている。


 『みんな、聞こえる?』翔太が心の中で呼びかけた。


 『うん』美月の優しい声。


 『聞こえるぞ!』リョウの元気な声。


 『すごい…』ザラの驚きの声。


 みんなの心が一つになった瞬間、防御壁が崩れた。


 しかし、もう慌てる者はいなかった。


 「行くぞ」


 翔太の一言で、十人が完璧に連携した動きを見せた。


 リョウが高速移動で敵の注意を引く。その瞬間、カエルの炎が敵の退路を断つ。


 ユウがパワーで正面突破を図ると見せかけ、実際にはザラの作った罠へと敵を誘導。


 ルナのテレパシーで敵の動きを先読みし、アヤが最適な指示を出す。


 ケンの防御で仲間を守りながら、バイオスが傷ついた仲間を瞬時に回復。


 そして翔太と美月が、チーム全体のバランスを保ちながら決定的な一撃を放つ。


 「何だ、あれは…」


 観戦していた他の生徒たちが驚嘆の声を上げた。


 まるでずっと一緒に戦ってきたような、完璧な連携だった。


 わずか五分で、三つの敵チームを制圧。


 「バトル終了!」


 マックス先生のホイッスルが響いた。


 「勝者、翔太チーム!」


 十人は抱き合って喜んだ。


 「やったあ!」ユウが飛び跳ねる。


 「すごかったね、最後の連携」カエルが興奮していた。


 「まるで魔法みたいでした」ザラが目を輝かせた。


 その時、マックス先生が近づいてきた。


 「翔太」


 「はい」


 「お前の能力、進化したな」


 「え?」


 「『適応』から『共鳴』への進化。仲間との絆を深めることで、お前の能力は新たな段階に達した」


 翔太は自分でも驚いていた。確かに、最後の連携では今までにない感覚があった。


 「でも、これは翔太くん一人の力じゃありません」アヤが言った。「みんなで作り上げた絆です」


 「そうだ」美月が頷いた。「みんながいてくれたから」


 「僕も初めて、本当のチームワークを体験しました」バイオスが感動していた。


 「私たちも」ルナが微笑んだ。「違う銀河の出身だけど、今は本当の仲間だと思える」


 リョウが翔太の肩を叩いた。


 「お前がいてくれて良かった。みんなをまとめるのが上手いよな」


 「僕一人じゃ何もできないよ」翔太が照れながら答えた。「みんながいるから強くなれる」


 ケンが珍しく長い言葉で言った。


 「翔太…みんな…本当の仲間」


 その時、マックス先生が全体に向かって話し始めた。


 「諸君、今日の実習で重要なことを学んだと思う」


 生徒たちが静かに聞き入る。


 「真の強さとは、個人の能力の高さではない。仲間を信じ、仲間に信じられる絆の強さだ」


 翔太たちは顔を見合わせた。


 「今回の危機は、一つの銀河だけでは対処できない規模だ。だからこそ、異なる銀河出身者が手を組む必要がある」


 マックス先生の表情が真剣になった。


 「君たちは今日、その第一歩を踏み出した。この絆を大切にし、さらに強くしていってほしい」


 「はい!」


 みんなで声を揃えて返事をした。


 実習が終わり、みんなで食堂に向かう途中、ザラが翔太に話しかけた。


 「翔太さん、質問があります」


 「何?」


 「最後の連携の時、私たちの能力がすごく増幅された感じがしました。あれは翔太さんの新しい能力のおかげですか?」


 翔太は考えながら答えた。


 「たぶん、そうだと思う。でも僕一人の力じゃない。みんなが心を開いてくれたから、能力が共鳴したんだと思う」


 「共鳴…」カエルが興味深そうに聞いた。「俺たちの炎も、いつもより強く感じた」


 「私の精神感応も、より鮮明になりました」ルナが付け加えた。


 「僕の治癒速度も上がってた」バイオスが驚いていた。


 アヤが分析的に考える。


 「つまり翔太くんの新能力『共鳴』は、チーム全体の能力を底上げするってことね」


 「すげー!」リョウが興奮した。「じゃあ僕たち、最強チームじゃん!」


 「まだまだよ」ユウが笑った。「今日は初歩の初歩。もっと練習しないと」


 美月が翔太の腕を取った。


 「でも、素晴らしいスタートだったと思う。みんなで一緒に強くなっていこうね」


 「うん」翔太が頷いた。


 食堂に着くと、他のチームの生徒たちから声をかけられた。


 「さっきの連携、すごかったです!」


 「どうやって練習したんですか?」


 「僕たちにも教えてください!」


 翔太は照れながら答えた。


 「特別なことはしてないよ。ただ、お互いを信じただけ」


 その時、食堂の大きなスクリーンにニュースが映った。


 『緊急ニュースです。辺境宙域で謎の艦隊が発見されました』


 生徒たちがざわめいた。


 『艦隊の正体は不明ですが、これまでに見たことのない技術が使われているとのことです』


 アヤが眉をひそめた。


 「いよいよ始まったということね」


 『各銀河の防衛軍は警戒を強めていますが、艦隊の目的や敵意の有無は不明です』


 カエルが拳を握った。


 「いつでも出撃できるように、準備しておこう」


 「そうね」ザラが頷いた。「私たちの技術も、もっと向上させないと」


 ニュースが終わると、食堂が静かになった。


 みんな、これから起こることを予感していた。


 「大丈夫」翔太が明るく言った。「僕たちには仲間がいる。一人じゃない」


 「そうだね」美月が微笑んだ。「みんなで力を合わせれば、きっと乗り越えられる」


 ルナがテレパシーでみんなに語りかけた。


 『私たちの絆は本物です。どんな困難が待っていても、この心のつながりがあれば大丈夫』


 バイオスが嬉しそうに言った。


 「僕、初めて本当の友達ができました。みんなのために、僕も頑張ります」


 ケンが力強く頷いた。


 「みんな…守る」


 ユウが立ち上がった。


 「じゃあ決まりね!私たち十人で、銀河を守りましょう!」


 「おー!」


 みんなで手を重ねた。


 天の川銀河の六人と、他銀河の四人。


 最初は戸惑いもあったが、今は本当の仲間になれた。


 翔太は思った。


 この絆があれば、どんな敵が来ても大丈夫だ。


 でも、まだ翔太は知らなかった。


 これから現れる敵は、今まで戦ってきたどの敵よりも強大で、そして謎に満ちた存在だということを。


 そして、その敵との戦いの中で、翔太の能力『共鳴』が思わぬ真実を明かすことになるということを…


 夕日が宇宙空間に沈む中、十人の新しい冒険が静かに始まろうとしていた。


 ――次回、第4話「謎の艦隊」へ続く。


-----


**第3話 完**


*次回予告:辺境宙域に現れた謎の艦隊の正体とは?そして翔太たちに初の実戦出撃命令が下る!新たな能力『共鳴』の真の力が明らかになる時…!*

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