現実世界の続き
――気が付くと、啓祐は果てしなく続く暗闇の中に立っていた。
直前までの記憶は鮮明にあるが、先ほどまでの体調不良は嘘のように消えている。
もしかしたらこれは、死後の世界なのではないかと、そんな不安が過る。
ふと前方に手を伸ばすと、何か固い壁に触れた。
するとその壁はそれに反応したように、緑色の光を放つ。その光は壁の溝をなぞるように走り、次第にこの空間を淡く照らしていく。
どうやら死後の世界ではないらしい。むしろ、テクノロジーが活用された近代的な施設の中にいる可能性の方が高い。しかし、一体何故、どうやって……。
ガシャッと、壁の方からロックが外れた音がすると、啓祐が壁だと思っていたところが左右に割れた。
それは、大きな扉だったのだ。中から強い光と共に冷気が漏れて来る。
「あ……」
啓祐は思わず声を出した。が、それより先の言葉が思い浮かばない。
中の空間は、カウンターテーブルが設置されただけの無駄に広い空間。そしてそのカウンターの向こうには一人の女性が立っている。
「あの、すみません、ここは……」
啓祐はこの空間へ踏み出し、女性に訊ねる。
「伊藤啓祐さんですね。どうぞこちらへ」
と、女性は啓祐を呼ぶ。その言葉に優しさなどの感情は感じられなかった。
啓祐は一度目を拭う。ここで改めて、自分が涙を流していたのだと再認識した。
圧倒的な体調不良に抗えず、余程苦しんでいたのだと、数秒前の自分を振り返る。この涙が紛れもなく現実世界の続きであると物語っていた。
「あの、なんで俺の名前を知ってるんですか? あなたは誰なんですか?」
疑問が尽きない啓祐はそう訊ねるが、女性は啓祐に椅子へ座るよう促すばかり。恐る恐る啓祐が座るのを確認したところで、女性はようやく答える。
「人をこんな空間に転送させてしまう技術があるのですから、名前を知っていることぐらい大した問題じゃあありませんよ」
「え、転送?」
「そうです。ちなみに私は
啓祐は言葉を失った。状況が全く掴めない。
ここに来る直前まで意識を失っていたのは覚えているが、そこから先がわからない。これはまるで、明晰夢のよう。
そんな混乱する啓祐へお構いなく、菊池は語り出す。
「えー……今、あなたたちは、異世界からここアドラステア大陸へと転生してきました。転生者の皆様は、元の世界に戻るために5つのキーアイテムを集める必要があります」
「はい? なんですか、急に」
「今、アドラステア大陸では異変が起き始めています。転生者もとい、プレイヤーの皆さんはキーアイテムを集める過程でそれと関わっていくことでしょう。
あなたの決断が、世界の運命を左右します」
「…………」
その言葉を受けて、啓祐は何とも返せなかった。
「パラレルアイランドの世界」、「転生」。これらが意味するものは何か。まさかと思いながらも、言葉に出すほどの自信はない。
そんなこと、現実にはあり得ないのだから。
そんな啓祐の気持ちを汲み取ったのか、菊池は補足する。
「つまり、ここは現実世界から隔離された仮想世界です。そしてパラレルアイランドというのは、その仮想世界で繰り広げられるゲーム体験のことです。
簡単に言えば、ゲーム世界への転生ですよ」
まるで常軌を逸した回答。当然、そんな技術があるはずもないし、なるほどと簡単に受け入れられるものではない。
「そんな馬鹿なこと……!」
菊池はそんな彼の理解を待たず、更に続ける。
「ゲームクリアできるのは、最初の1チームのみです。
そしてこの世界で死亡すると、実際に現実世界でも死亡となりますので、十分ご注意ください」
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