第4章 退廃的な部屋 第1話

 第1話



 ホアンの厳重な儀により、私の精魂はブリアナの身体に移すことになった。

 

 神殿で眠りながら、7日の浄化を済ませたあとは、私はブリアナのいた寝室へ運ばれることになっていたーー。





 ぐっすりと深い眠り中にいた私は、ゆるゆると目覚めた。


「さあ、起きて……」


 私の耳に届いた声。


 流雅なシフィルの声と似ていても、少し違う艶美な声音。


「シフィル……?」


 私自身、起きたてで寝ぼけており、シフィルと思った。


 えくぼのあるふっくらとした朱色の唇を薄く開き、その名を呼ぶ。


 私の焦点はあっておらず、薄暗い部屋も相まってよく見えなく、ぼんやりしていたが。


 刹那、自分の顔を覗き込んでくる美貌の主に気づいた。


 私は、驚きのあまり瞳をぱちくりさせる。


「おはよう、ブリアナ」


 私は、自分とは違う名を呼ばれ、その上まじかと迫った二つの色違いの藍松茶色と茶水晶の瞳に、息を詰まらせる。


 私がうまく頭が回らずに混乱していると、美しく整った見事な唇が、軽く自分の唇に触れて離れる。


 今度は、私の耳朶に噛みついてきた。


「嫌っ! 何しているのよ!」


 私は、鮮烈な感触に背筋を跳ね上がらせる。


 慌ててリネンの外に出ている、自分の両腕を立てる。


 私は、目の前の胸元を思いっきり突き飛ばした。


「ブ、ブリアナ?」


 美貌の持ち主は、私の行為に驚きを隠し切れない。


 自分の腕からすり抜け、リネンを豊満な肢体に絡めてベッドの隅まで逃れる私を見ている。


 私としては、ベッドから降り室の外へ逃げ出したかった。


 自分が着ている信じられないほど薄い夜着に気づき、躊躇ったのだ。


 ベッドはかなり広く、それなりの距離感ができた。


 少し安心した私は、目の前の美貌の青年を睨みつけた。


「どういうつもりよ! 年頃の女性の寝室へ無断で忍び込むなんて、信じられないわ!」


 虚勢を張った私は、思いっきり目の前の美貌の青年を罵倒した。


「信じられないって……。いつもそうやって、ブリアナを起こしてあげているじゃないか。碧眼が黒檀になっちゃったように、僕のこと忘れたの?」


 シフィルと同じく色違いの瞳を翳らせた青年は、悪びれた様子なく寂しそうに肩を竦める。


 私は、ちくりと胸奥が疼くのを感じていたが、それを無視した。


「ホアンから、詳しいことをきいてないわけ?」


「もちろん、きいているけど。王子である僕が口づけをしたら、ブリアナのすべてが目覚めるかなって。どう?」


 にやりと口角を上げている、小悪魔的なその表情。


 私は、シフィルとの違いを感じた。


 不機嫌なライオンではなく、妙に華やかで艶っぽいライオン。


 三つ子でも、こうも違うのか。


 私は、不思議に感じていた。


 目の前の彼は、シフィルと違ってマントを羽織ってなかった。


 将校の軍服に似た淡紫で立ち襟の衣装だけでも、とても華やか。


 それが彼らの毎日来ている略式礼装であること、私はあとで知った。



 

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