第3話

 第3話



 私は、落ち着きを取り戻そうとし、何度も深呼吸を繰り返す。


 ありがたいことに、少し落ち着いてきた。 


「さて、もえ。時間はあるようだから、何か話そうか?」


「そ、そうね。何がいい?」


 しばらくして、シフィルに問いかけられた時には、私の声にあった震えは消えていた。


 どうして、あれほどわけのわからない恐怖に襲われたのか。


 自分でもよくわからない。


 もしかして、閉所恐怖症?


 昔、海難事故で私の両親と未だ行方不明になっている従姉に、物置に閉じ込められた影響?


 自分を冷静に判断したく、私はそんなことをぐるぐる考えている。


「……そうだな。ならばもえ、君は星に何を願う?」


「ロ、ロマンティック、なのね」


 予想外なシフィルの問いに、私は思わず目をぱちくりさせる。


「駄目かい? もえ自身、何が欲しいのだろうって。さてどう願う?」


 困惑したものの、少しからかったつもりで言ったのに。


 シフィルは、意に介せずに再度問いかけてくる。


「そうね。私が何よりも欲しいものは、もう取り戻せないものだから……。それでも、願いごとはあるわ」


「願いごと?」


「そうよ。いつも同じこと。私が大切に想う人の幸福とか、健康とか」


 そう言うと、シフィルが吐息を吐いたようにきこえた。


「もえ、自分のことは何も願わないのか?」


「それが、何よりも私のためよ。自分が愛する人が、幸福に満たされいたら、自分も嬉しくなるでしょ? だからね、それがあれば他のことなんて、きっとどうでもいいと、そう考えているの」


「どうでもいい?」


 シフィルの少し怪訝そうな声音に、肩を竦める。


「まずは、自分の手のひらにある大切に想うものから優先にしなきゃ、あとあと後悔だらけだもの。過ぎ去った宿命を恨んでも、馬鹿らしいでしょ? ならばいらないことまで考えないで、まずは前向く以外ないわけで」


「それはあるが」


 シフィルは、同意するが、それでも少し不服そうな声音を上げている。


「自分のことを誰かに願っても、叶えられない落胆のほうが大きくて虚しい。どうあれ先行きすべて、自分で何とかする以外、ないわけじゃない」


「確かにそうだが」


「それならば、どうなるかわからないことを願うより、私自身としては、まずは目の前のものを大事に生きていきたいわ」


「……そっか。そうだな。苦痛や克服不可能としか思えない困難があったとしても。まずそれを乗り越えるには、自分の中に確たる信念が必要だ。君にはありそうだな」


 シフィルは、今度は納得したのか、私の心情に応じるように言ってきた。


 

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