第6話 姫から食事へのお招きだ!

 刺客は捕らえられたが、口を割る前に奥歯に仕込んでいた毒薬で自害したらしい。


「俺だけはラグーン帝国の刺客であることを知っているが、証拠もなしにそんな事を言ってはジョナサンが目立ってしまい、マリーナのフラグを折る活動がしづらくなる……」


『証拠もありませんものねえ。うう……超越者と戦わねばならないというのに、人間たちはお互いに争い合って手を取り合ってはくれません』


 俺の肩の上で、セレスがさめざめと嘆いた。


「現実に超越者の影響が現れていないからな。それにまだジョナサンは全然弱い。勝負にもならないぞ」


 狐狩りから帰還した城の中。

 俺は自室で、セレスと作戦会議をしていた。


 豊穣の女神は俺の肩から腕を伝い、机に降り立った。

 装備から外れたようだ。


『コツコツレベルアップするしかないのでしょうか。そもそもこの世界の住人は、自分にレベルが存在することを認識もしていないようですが……私も知りませんでしたし』


「心のなかにShiftボタンとWボタンが無いからじゃないか。俺はいつでもこれを同時押しできる。鍛えてあるからな。それと、スキルポイントは依頼をこなしていくことでも獲得できる。だが、そのためには今現在の序章を終えねばならないんだ」


『序章ですか? 今、王国を襲う帝国の侵略の話でしょうか』


「まさしくそれだ。あと数日で大きな動きがあり、王国と帝国は戦争状態に突入する。その中で俺、ジョナサンは前線に出ることになり、マリーナと遠ざかり……フラグが立つことになる」


『まあ! あらゆる状況で彼女を魔の手が狙っているのですね! 魔道士が掛けた呪いの力は恐ろしいです。私に本来の力があれば、呪いなど解除してしまうのですが……』


「それには超越者の打倒が必要なんだろ? 焦らなくていい。今一番重要なのは、いかにして俺、ジョナサンをマリーナから遠ざけないようにするかだ。幸い、武器を使った活躍を見せていないことで、俺の評価はそこまで上がっていないようだが……」


『どうするのですか? 私も勇者を手伝いたいのですが、あなたから離れて行動ができません。女神としての私は、あなたにくっつくことでようやく存在を維持している状態ですので……』


「つらい」


 ちょっと同情してしまった。

 そこで、扉がノックされる。

 誰だろう?


「ジョナサン様、マリーナ殿下がお呼びです」


 おっ、噂をしたらマリーナだ。

 俺はセレスと頷き合い、立ち上がった。


 肩口にセレスを装備!

 迎えに来たのは侍女だ。

 彼女に連れられて、城の中を移動した。


 騎士がいる場所は、城内で言えば城塞にあたる場所だ。

 外見は石造りだが、基本構造は木造で、それぞれの部屋には明かり取りの窓がついている。

 廊下は外へ弓を射掛けるための穴が窓の役割を果たしており、昼でも暗い。

 今は夕方だから、壁に掛けられた明かりがなければとても歩いていられないのだ。


 さて、どこに案内されるのだろう……。

 そう思って連れられていくと、城塞を出て王家の住宅に向かっていくではないか。


 いわゆる後宮とでも言うべき場所で、王家の人々はここで生活している。

 比較的質素な大きな木造家屋であり、幾つもの部屋が中にはある。


「幼い頃には、ジョナサンはよくマリーナに連れられてここに来たものだが」


「ジョナサン様は、先々代の騎士団長の御子息なのでしょう? 今はただの騎士ですけれど、頑張って地位を手に入れればマリーナ様とも契りを交わせるかも知れませんよ」


 侍女がそんな事を言う。

 その口ぶりは、冗談を語るような軽さだ。


 それはそうだろう。

 地位を失い、一介の騎士……しかも限りなく見習いに近い立場になったジョナサンが、一国の王女と結ばれるようなことなどあるわけがない。


 王国は第一王子にソロモン、第二王子にデュエルがおり、彼らが王位を巡って争っている。

 マリーナはその下に生まれており、王位継承権にして第四位だ。

 比較的自由な立場なのだが……それは同時に、マリーナそのものが政略結婚の道具として使われやすいことと結びついている。


「セレス、戦争が起こると、マリーナは近隣王国の王子との縁談が持ち上がるシナリオもあるんだ」


『なるほどー。あらゆるところで、王女様が他の男のものになるようになっているんですね』


「そういうゲームだからな。これらのフラグをいちいち折っていかなくてはならない。ジョナサンの強化と合わせてだ。こりゃあ、ちょっと大変だぞ……」


 侍女に聞こえないよう、セレスと会話する。

 俺からの返答がないのを、侍女は勝手に解釈したようだ。


「気弱で、あまり剣が得意ではない方だと伺っていましたけど、本当みたい。せいぜいがんばってくださいね」


『んま! 舐められてます! 勇者よ、あんなこと言わせていていいのですか?』


「侮られている方が色々動きやすい。今はそれでいい」


 到着したのは、王族のための食堂だった。

 長いテーブルがあり、その上には料理が並んでいた。


 マリーナと第二王子、そして騎士団長とダイオンがいる。

 ダイオンは今回の刺客との戦いで、大いに活躍したらしい。

 幾つかの剣技が使えるから、若手騎士の中では最有望株とされているのだ。


「来たか!」


「げっ!?」


 騎士団長が笑顔を見せ、ダイオンは目を見開いた。

 第二王子のデュエルは俺をじろりと見ると……。


「噂とは少々違うな。目に覇気がある」


 と呟いた。

 こいつ鋭そうだぞ。

 原作ゲームでは関わることがなかったキャラクターだ。

 注意せねばな。


 最後にマリーナ。

 彼女は満面の笑顔になって立ち上がると、


「ジョナサン! 待っていたわ! 私を守った英雄! 今日はあなたが主役なんだから、こうやってマーサに呼びに行かせたの! この宴席は無礼講よ! 昔の私とあなたみたいに、楽しみましょう!」


「はい。お招きありがとうございます、マリーナ殿下」


「違うわ。ここでは、王女も騎士もなし。殿下は止めて欲しいな、ジョナサン」


「分かったよ、マリーナ」


 王女殿下は本当に嬉しそうに笑った。

 ウワーッ!!

 カワイイ!!


 向こうでダイオンが、今にも地団駄を踏みそうな顔をしている。

 こいつはまだまだNTRフラグが残っているからな。

 俺は油断せんからな……!!


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