第5話 狐狩りだ! ストーリーが動き出すぞ!

 翌日、狐狩りが始まった。

 俺は幼馴染ということで、マリーナ王女の馬の横を歩いている。


 原作ではちょっと離れたところに配置されたのだが、昨日ダイオンを倒したのが効いているようだな。

 騎士団における俺の戦闘力が認められたということだ。


「ジョナサン」


「はい、マリーナ姫」


「二人の時はマリーナでいいわよ。私とあなたの仲じゃない」


 マリーナが微笑んだ。

 ウワーッ!

 カワイイーッ!


 ジョナサンのやつ、こんな完璧無敵な幼馴染がいながら、ことごとくNTR

フラグを折れずに寝取られたのか……!?

 さぞや無念だっただろう。

 お前の思いは俺が受け継いでやる。


「マリーナ。なんだい? それに、帝国が動き出しているこんな時期に狐狩りは危ない」


 とりあえずジョナサンらしいことを言っておく。


「それは分かってるわ。でも王族である私が怖がってお城に閉じこもったら奴らの思う壺じゃない。私は絶対に折れないわ! それジョナサン、いざとなればあなたが守ってくれるでしょ?」


「無論」


 俺が素になって覚悟完了の顔で頷いたら、マリーナが目を丸くした。


「この間までのジョナサンとは……まるで別の人みたい」


 別の人なんだよ。


「でも、優しさは私の知っているままのジョナサンね。頼むわよ、ジョナサン」


「ああ……うん、任せて」


 言葉をジョナサンの喋り方にチューニング……!!


『勇者は漢度が高すぎるのでバレやすいですね』


「ほんとに注意しないとな……」


 なお、原作のジョナサンは近くまで馬で来たマリーナに、こんな奮い立つ事を言われたのに守りきれずにNTRフラグを建てるのである。

 なんたることだ。

 だが!

 そのための格闘術2だ。


 実力的にまだ信頼されていないジョナサンは、騎士団からいい武器を与えられていない。

 あくまでマリーナの近くにいるのは幼馴染だからであり、戦力は他の騎士……という構成なのだ。


「我々騎士団もおります。姫の身の安全は必ず守りますよ」


 デクストン団長がにこやかに笑って見せる。

 この人は白い馬の上だな。

 騎士団長であり、男爵という貴族でもある。


 特別な地位なのだ。

 そして大人である。

 なるほど、二人きりになったマリーナが、命を守られた事や淫紋の効果もあってころっと行ってしまうのは分かる……。


 マリーナの周囲には無数のNTRフラグが転がっているのだ。

 さて、そろそろだぞ。

 原作ゲームであれば目印となる、左右からせり出した木々の下を通る。

 俺が腰の剣に手をかけたその時である。


「姫、狐です!」


 どこからか声がした。


「よーし、狩るわよーっ!!」


 マリーナは鞍から下げていた長銃を手にして構える。

 銃は、異世界NTRパルメディアではありふれた武器だ。


 現実の銃と違って、火薬ではなく魔力を爆発させて弾丸を飛ばす。

 つまり、魔力がない人間には扱えない代物なのだ。

 マリーナは魔法が使えるから、これの効果がある。


 一行の前方を、追い立てられた狐が走っていく。

 王女はこれを照星を通して狙い……。


「うンっ……!」


 頬を赤らめて色っぽい声を漏らした。

 淫紋効果だ!!

 彼女が魔力を練ると、反応した淫紋が熱を持ち、彼女に性的な快感をもたらすのだ!


 これが、傷ついた騎士団長の看病をしたマリーナが、回復魔法を使ったことで淫紋パワーが炸裂、一晩をともにしてしまうイベントにつながる!

 おのれ、便利イベントギミックめ!!


 絶対に取り除いてやるからな!!


 射撃!

 マリーナの腕は確かだ。

 長銃から放たれた弾丸が、狐を撃ち貫く。


 ギャーン!と鳴いて、狐が倒れた。

 騎士団の目が、狐に集まる……!


 そこへ、せり出した枝の上から刺客が飛び出した。


 そう!

 狐を追い立てたのは刺客で、狐の存在を知らせたのも彼らだったのだ!

 知ってた。


「お命頂戴! 小僧邪魔だ、どけ!!」


 原作とは配置が違う俺だが、やはりマリーナに向かう途中で俺を押しのけようとするのだな。

 運命力というものだろう。


 刺客は鎖帷子を纏い、両手に鉤爪付きのガントレットを構えた暗殺者たち。

 鉤爪の一撃が軽装のブレストプレートにショートソードしか装備してない俺に、振り下ろされる!!


「ジョナサン!?」


 ここでマリーナの口から出る言葉はジョナサンの身を案じるものなのである。

 彼女の善性が分かるー!!

 あまりのNTRられ易さにちょっとヘイトを抱き、NTRブラックホールなんて呼んだ俺が……俺は俺が恥ずかしい!!

 故に俺、マリーナを守るために奮起!!


「気の抜けた一撃だな!! ツアーッ!!」


 振り下ろされた鉤爪に向かって、俺が放つのは抜き打ちのチョップ!

 鋼と同じ強度になった腕が、鉤爪とぶつかりあった!

 俺のチョップのほうが爪よりも分厚い。

 爪がぐにゃりと曲がり、方向を逸らされた。


「な、なんとぉーっ!?」


 飛びかかる勢いを殺された刺客が、地面に転がり落ちる。

 すぐさま起き上がる刺客だが、既に俺はそこを目掛けて踏みつけるような前蹴り……ビッグブーツを放っている!


「くっ、肉弾戦だと!? 舐めるな小僧がーっ!!」


 これを抱え込んで受け止める刺客……馬鹿め!!

 俺は密着した刺客の両肩に、回避不能の連続モンゴリアンチョップを放った。


「ツツツッツアーッ!!」


「ウグワーッ!!」


 両肩粉砕!

 さらに振り返った俺は、驚きに目を丸くするマリーナの手を引いて馬から下ろし、抱きとめる。

 ちょうど、馬上に刺客が降り立つところだった。


「なにっ!? そんな馬鹿な……!!」


 狙いを誤った刺客は、後ろから襲い来るデクストン団長の剣に反応できない。

 刺客の首が飛んだ。


「よくぞ姫を守った、ジョナサン!」


「はっ!」


「だが、ちゃんと剣の修行をしておくのだぞ」


 原作のジョナサンは、剣を抜こうとして間に合わずにふっ飛ばされたからな。

 剣の道は遠い。

 NTRフラグを折るためには、いちいち育ててはいられない。


「ジョナサン! 大丈夫? 怪我はない!? 鋭い鉤爪を素手で受け止めたように思ったけれど……」


「大丈夫だよマリーナ。こんなこともあろうかと鍛えておいたから」


「剣ではなくて素手を……?」


「剣も鍛える……!!」


 王国編が一段落したらね……!!



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