9話 彩瀬と失踪
彩瀬のお母さんがあちこちを歩き回って、自分の娘を探しているという情報が、近所から出回った。
話によると、台風の上陸後、忽然と姿を消したらしい。
嵐の夜に、雨合羽を羽織って歩き回っていたのは、彩瀬のお母さんのようだった。
どうして彩瀬は嵐のよるに、水野宅の家を出て行ったのか。それを知っている者は誰もいなかった。僕以外……。
彩瀬の失踪からもうすぐ一週間が経過しようとしていた。しかし、目撃情報は何もなかった。
僕たちの街は、台風の被害でいまだにインフラが復旧されておらず、停電が続いていた。9月を過ぎていると言うのに、気温三十度を超える残暑が続き、街の人はみんな苦しんでいた。
そんな中、彩瀬のお母さんは懲りずに娘を探し続けた。たくさんの人に呼び止めらていたけど、彼女は彩瀬を探すことをやめなかった。
あの人は、亡霊みたいだった。あんなに大切に思うのなら、どうして自分の娘にあんな酷いことができたのだろうと思う。
僕は、一人である場所に向かった。もしも、彩瀬が計画的に失踪して、向かう先があるとしたら、僕たちの秘密基地しかないと思っていた。
秘密基地は、僕と彩瀬が言葉を交わす、交流の場所だった。
学校では言葉を交わさなくても、秘密基地では幼馴染になれた。
僕は、彩瀬が築き上げた秘密基地の増設に協力した。
中古ではあるが、簡易キャンプやアウトドア用品をフリマサイトで購入し、僕と彩瀬の城は成長を続けた。
今では、あの場所なら一週間は生活ができるのではないかと思うくらい快適な空間になった。
僕は、そこにいるかもしれないと思い、秘密基地へと向かった。
しかし、そこに二人で築き上げた城は、泥まみれの荒地になっていた。
この前の台風で橋が氾濫し、キャンプ道具たちが流されてしまったのだ。
僕は、その場で跪いてしまった。僕と彩瀬の思い出は、自然の力でいとも簡単に流されてしまった。秘密基地に彩瀬がいない。もしもこの状態を彩瀬が目撃したら、彼女はどう思う?
彩瀬は今どこにいる?
今、何を考えながら、何をしているんだ?
彼女のことを思うと、胃がキリキリと痛みだし、呼吸が浅くなる。
僕は、気がついたら全速力で走っていた。
どんな方法でもいい。
彩瀬が無事で、何事もなかったらいい。
目的地も考えず、ただ走った。
1秒でも早く、彩瀬の安否を確かめたかった。
——————
あれから1ヶ月が経過した。だけど、何も目撃情報はなかった。僕は焦り、彩瀬のお母さんは家から姿を現さなくなった。
こんなことになったのは、あの女のせいだ!もしも、彩瀬を監禁していなければ、こんなことにならなかったのに。もしも、僕があの場で強引に彩瀬を逃せば、違う結果になっていたのかもしれない。
台風直撃から1ヶ月後の現在、停電などのインフラは復旧していた。メディアなどでは、僕たちが住んでいる地域が毎日取り上げられていた。
ニュース番組で隣町に女子高生の遺体が発見されたと報道されたのは、世間が僕たちの地域の被害が大きかったことを忘れようとしていた頃だった。
テレビではさっくりと死亡報告されたが、近所では水野さんのところの娘さんが亡くなった。川で死んでいた。などと、悲惨な詳細が広がった。
隣町で発見された遺体は川の水で膨れ上がり、腐敗が進んでいて、一部では白骨化が進んでいた。
彩瀬の家の周りには警察や野次馬が集まり、とんでもない騒ぎになった。
メディアが集まってから、しばらく経つと、彩瀬の家には誰もいなくなった。
手入れされなくなった家は、一気にすさみ、庭は荒れ、家は空き家になった。
あまりの出来事に、僕は呆然としていた。毎日一緒に過ごしていた彩瀬は、この日を境に、僕の目の前から消えた。
———————
そして現在。
僕は、2年ぶりに彩瀬の家にいる。
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