第49話 急いで帰らなきゃ!
いったいドンバッセル領で何が起こっているのだろう。赤い狂騎士たちも急いで集合し、私たちの後を馬に騎乗し、大急ぎで追いかけてきてくれている。
馬車より馬単独で走る方が早いので、テーバイの王都に着く前に合流出来るみたい。
馬車の中、空気が重い……
私とジュエルお兄様は、お父様が口を開くのを黙って待っていた。
お父様のあの様子、絶対に尋常ではない。
「実はね……」
ゴクッ……
「王都に近い森で、スタンピードが起きたみたいなんだよ。そしてその魔獣たちは王都目掛けて真っ直ぐに走って来ているらしい」
「「スタンピード!?」」
「……そうだ」
王都に近い森は、強い魔獣がいないはず。
魔獣は空気中に漂う魔素を好む。強い魔獣ほど、多くの魔素を欲する。
ドンバッセル領にある深淵の森は、魔素が中央に行くほどかなり濃い。なので強い魔獣は深淵の森に多くいるのだ。
それとは逆に。王都に近い森は、魔素が薄いので低ランク魔獣しかいない。
だから……お父様がこんなにも動揺するのはおかしいのだ。
「ですが。王都に近い森は低ランク魔獣しかいないので、スタンピードが起きても、王都にいる騎士たちで、どうにか対処できるのでは?」
ジュエルお兄様も、私と同じことを思ったようだ。
「それが……聞いた話だとAランク魔獣やBランク魔獣が、かなり多くいるらしいんだ。スタンピードを察知した、王都の魔術師たちがそう鑑定したらしい。AランクやBランクが多く混ざったスタンピードなど、王都の騎士団では対応できない」
確かに。王都の騎士団では、Aランク一体やBランク数体ならどうにかなるレベルだと、ドンバッセル領の狂騎士たちを束ねる騎士団長が、以前話してくれたのを思い出した。
『だから俺たちが守ってやってるんだ。だが、あんまりにも簡単に俺たちが倒しちまうから、あいつら感謝の気持ちも薄れてやがるがな』
って愚痴まじりに言ってたな。
「そしてその助けをドンバッセル領に緊急で伝令が来て、赤い騎士たちが向かっている。ギリギリだが間に合いそうだ」
間に合うなら……あっ!!
——そうだった!
今のドンバッセル領にいるのは、最強の赤い狂騎士達じゃない。
騎士団長を含む、赤い狂騎士の中でも最強と言われているS級騎士二十人。
「お父様! 今ドンバッセル領にいる騎士達で、このスタンピードを収束できるのでしょうか!?」
「私が慌てているのはそれだ。私たちと一緒に来ている
本当なら数日で戻ってくる予定が、アクダマス侯爵の事もあり予定よりも余分に日程が掛かった。
真紅の狂騎士たち全てを連れて来るなんて事は、異例な事がない限り本来しないんだけど、いつも前線で頑張ってくれているので、休暇も兼ねて今回は全員連れてきていた。
それが……まさかこんなタイミングで、スタンピードが起こるなんて!
それでも、残っているドンバッセル領の狂騎士たちは、王都の騎士達の何倍も強い。だから、無理に頑張ってしまうんじゃ。
どうにか私たちが王都に到着するまで、頑張っていて欲しいけれど、無理しないでほしい。
心底思う、魔導船を貰っていて本当に良かった。
これがなければ私たちは、スタンピードに間に合わなかっただろう。
——だけど。
今からテーバイ王都まで寝ずに走って半日、テーバイ王都からドンバッセル領に着くのが三日、それからエンディバン王都まで一日、私たちが王都に到着するには最速で四日半。
お父様の話だと、魔獣たちの大群が王都に到着する予測は三日後。
一日半……持つのだろうか。
大丈夫だろうけれど、赤の狂騎士たちが全員無事とは思えない。
だからお父様は、慌てているんだろう。
さっきから拳を握り締め黙って窓の外を見ている。
私だって、ずっと仲良くしていた赤い騎士たちが亡くなるのなんて嫌だ。
どうにか王都に早くつけないの?
——ピコン!
魔導船を改良したら一日早く着くことが可能です。
「叡智!!」
さすがの困った時の叡智さま! いいタイミングで登場しますな。
一日短縮できるなら、私たちが到着するまで半日! それならどうにかなる!
「改良したい! どうしたらいいの!?」
——ピコン!
二十センチ以上の大きさの魔石が十個あれば、スキル錬金術を使って改良が可能です。
二十センチ以上の魔石!?
「あっ!!」
——あるあるあるある!!
ジュエルボアを解体した時に出てきたのがいっぱいある!
「シャァァァァ!! いける!!」
「ひっ!?」
「レレェレティ!?」
興奮のあまり、いきなり大きな声を出してしまったせいで、お父様とジュエルお兄さまが驚いた顔で私を見ている。
「レティ、心配で不安だよね。でもね、お父様たちがどうにかするからね」
どうやら心配のあまり、奇声を上げたと思っているようだ。
違うんです! 嬉しい奇声です。
「お父様、予定より一日早くエンディバン王都に着けるよう、魔導船を改良できるみたいなので、私は先におもちとテーバイ王都に向かいます。おもちの足なら馬車の数倍早いので」
「ふぇ!? 何言って!?」
お父様の話を最後まで聞かず、私は馬車の扉を開けた。
「おもち! 背中に乗せて」
『まかせろっちぃ!』
馬車から飛び降り、おもちの背中に乗り移った。
「テーバイ王都まで、全速力でお願い!」
『わりぇなら余裕っちぃ』
急いで船を改良しなきゃ!
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