第18話 凱旋パーティー

 とうとう凱旋パーティーが始まった。


 会場におもちも来たがっていたけれど、流石にパニックになるのでお部屋でお留守番。


 国王陛下の前にお父様、お兄様たちと一緒に私も並ぶ。その後に、赤い狂騎士が一列に並び騎士の敬礼のポーズをとる。


 今日の皆の姿は式典服を纏いすごくかっこいい。


 私も同じ式典服を着たいと駄々をこねたら、ジュエルお兄様が私と同じ年齢くらいの時に着ていたマントを貸してくれた。


「んふふ」


 ドレスにマントだけれど、マントが似合うようシンプルなドレスにしたので、なかなかにカッコいいのだ。

 テンションが上がるぅ。


 おっと。そんな事考えていたら、国王陛下が話し出した。ちゃんとビシッとしないと。


 まずは国王陛下からの数々の褒賞をお父様が頂く。


 数多集まる貴族の前で、ドンバッセル辺境伯領の功績が、次々に読み上げられる。


 そこでたった六歳の令嬢である私が、厄災の魔王を封印したと、国王陛下が発言した時。


 集まっていた貴族たちが騒ついた。


 それはそうだろう。


 六歳の少女が厄災の魔王の力を封印したとか、どう考えてもおかしいし驚くのは当たり前。


 ただ、その厄災の魔王の最強の力を使えるまでは知らない。

 この秘密を知られると、めちゃくちゃヤバいだろう。

 墓場まで持っていかないと。


 だけれど、厄災の魔王を六歳の女児が!? っとの会場の騒つきは収まらない。


 国王陛下はこの騒動を、どう収束するつもりなのだろう。


「静粛に!」


 大きな声で、さっきいたセバスさんが貴族たちに圧をかける。

 この一声に会場はシンッと静まり返る。


「これより、ドンバッセル辺境伯にこちらの魔導船を魔王討伐最大の褒賞として与えよう」


 静まり返った会場に国王陛下の声が響く。


 え? なんて言った。


 魔導船!? この国に二隻しかない空を飛ぶ船。

 その一隻をドンバッセル領に!?

 これはやばいプレゼントだ。


 これには、お父様やお兄様たちも、ニヤニヤが止まらない。

 国王陛下、なんてサプライズを用意してくれたんですか。

 

 褒賞は金貨や食材だけだと思っていたのに、この誤算はありがたい。


「レティシア・ドンバッセル様こちらへ」


 国王陛下の横に立つ、セバスさんから名前を呼ばれ私は前に出る。


 ——とうとうアレの発表か……やだなぁ。


 セバスさんが私を目立つ所に立たせると、私の横にエリック王子が歩いてきて横に並ぶ。


「今日の良き日に、レティシア・ドンバッセル令嬢と我が息子、第三王子エリックの婚約が決まった」


 国王陛下の言葉に、会場から響めきと拍手が巻き起こる。


 流石にビックリするよね。急に婚約発表なんて。


 この後。私たちはイヤイヤながらみんなの前でファーストダンスを踊り。


 婚約発表は、拍手喝采で幕を閉じた。


 小さな私たちが真剣な表情で踊るダンスは、可愛く見えたのだろう。

 緊張して顔が真剣になっているね。微笑ましいわと。色々な声があった。

 実際は、お互いを睨み合っていただけなのだけど。


 ダンスを終えると、メインである凱旋パーティーが始まった。

 みんな好きな飲み物を飲んだり、食べ物を食べたりし談笑している。


 私の周りにも、歳が近い令嬢たちが集まってきて挨拶してくれるけれど、みんな「お兄様を紹介してください♡」だとか、「厄災の魔王を封印って凄いですわね。だけど私なら怖いですわ」と私はか弱いですからと、近くにいるお兄様たちにアピール。


 正直疲れる……お兄様たちが大人びてしっかりしていたから何も思わなかったけれど、同年代の貴族の子供ってこんな感じなのね。


 なんだろう……マウント合戦が、あちこちで起こっている気がする。


 流石に疲れる、こっそりと端っこに逃げよう。


 奥にある、角の目立たないソファーに腰掛け大きなため息を吐く。


「はぁぁぁぁ……疲れだぁ」


 この場所なら、どんな文句を言ったとて誰にも聞かれまい。


 あっ! せっかくだったら、食事とか色々取ってからこの場所に来たら良かった。

 料理などは、中央の大きなテーブルがたくさん並べられている所に置いてあるのだ。

 ビッフェ形式なので、お皿に好きな料理を好きなだけ盛り付けて食べる事ができる。


 そこまで美味しくはないだろうけれど、さすがにお腹が減ったなぁ。


 だけど……あの場所に戻って、マウント合戦に参加するのもなぁ。


 などと考えていたら、長男のアレクレンダーお兄様がこちらに歩いてきているのが見える。


「レティ、疲れたよね。この場所なら誰も来ないだろうから良いね。疲れた?」

「……はい。私にはパーティーって向いてないのかも知れません」

「ふふ。まぁ俺もそうさ。ドンバッセル領で戦ってる方が楽さ。何回来ても慣れないね」

「お兄様も? ふふふっ」


 優しいお兄様は、私を和ませに来てくれたんだろう。


 お兄様と話していると、こっちにお兄様がいることに気づいた令嬢たちが近寄って来ている。


「あっ、やべっ。俺もういくわ。これをレティに持って来たんだ。レティの料理ほど美味くないけど、腹ごなしにはなるだろ?」


 私の頭を撫でると、お兄様は令嬢たちから逃げるよう何処かに消えていった。

 お兄様たちみんなカッコいいからなぁ。モテるんだなぁ。


「もぎゅっ……もぎゅっ」


 うん。この世界に来てはじめの頃に食べていた味。


「もきゅっ……!?」


 ——ん? 今、悲鳴のような声が聞こえた? 気のせい?


「……いたいっ、やめてっ」


 やっぱり聞こえる! 料理を近くのテーブルに置いて、声の聞こえる方に走っていくと。

 中からは分かりずらい場所にあるベランダで、三人がかりで誰かを蹴っていた。


 私がこんな端っこの場所にいたから気付けた。みんなが集まっている場所にいたら絶対に気付かれない。


 人から見えない場所で、一人をよってたかって三人で虐めるとか、なんて陰湿なの!

 こんな奴ら許せない!


「何やってるのよ!」


 私は慌てて前に飛び出る。


「ななっ!? なんだお前」


 私に驚いた男の子が、虐めていた男の子から離れる。


「こいつは虐めていい奴なんだ。お前はには関係ないだろ? あっち行ってろ」


 ——はぁ? 何言ってんだコイツは。


「虐めていい奴なんていねーわ!」


 あまりにもムカついたんで、いじっめっ子A(仮)を思い切りグーで殴った。

 すると三メートルほど遠くに吹っ飛んだ?


「あれ?」

 

 お兄様たちは全くびくともしないのに。

 あんなに吹っ飛ぶの?


「なあぁぁぁんだコイツゥ!?」


 いじめっ子B(仮)とC(仮)が倒れて気絶しているAを見て震えている。


「あんたたちも同じ目にあいたい?」


 拳を握り締め睨む。


「ヤダヤダヤダ! ママァ」

「化け物がいるよぉ」


 BとCは、気絶したいじめっ子Aを引き摺りながら逃げていった。

 悪役っぽい逃げ方だわ。


「……助けてくれて、ありがとう」


「ううん。君は大丈夫?」


「うん。あれくらいはいつもの事だけどだから……」


 そう言って目の前の男の子は悲しそうに視線を逸らす。

 いつもの事って、あんな事をしょっちゅうされているの?


「ん?……」


 よく見るとこの子の肌の色、浅黒い色をしている。浅黒い肌に紺色の綺麗な髪色。

 瞳は金色……ん? 左目に大きな眼帯? っていうか左側の顔を殆ど覆っている。


「あの……その目もさっきの奴らにやられたの?」

「あっ、いやっ、これは違うん!?」


 男の子が話している途中で、眼帯の紐がプツリと切れ下に落ちた。

 

 現れた左目は真っ赤で、目の周りがドス黒くなっていた。


これって!?




 ★★★




 新たなキャラクターの登場です。続きも楽しんで頂けると嬉しいです。

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