第13話 薬草採取とチーズ

 ドンバッセル領を出発して一日目は野営だったのだけれど、今日はちょうどいい時間帯にダノン村に到着するらしいので、ダノン村での宿泊になる。


 ダノン村といえば……


 ゲームでは確か、この村は色々な薬草や香草が村の周り群生していて、変わったポーションが買えたりしたんだよね。

 村に着いたら、薬草や香草を集めに行こうかな。


 夕日で空がオレンジ色にそまるころ、村に着いた。


 ダノン村は村なんだけれど、想像していたよりも、冒険者や商人と色んな人たちがいて賑わっていた。


「「「ぎゃっ!? フェンリル!?」」」


 おもちを見て、村にいた人たちがパニックになりだした。


 そうか、この美しい白銀の体毛とエメラルドのような瞳は、フェンリルだけだからそりゃみんな気づくよね。


 さっきまでガハハと笑って、エール片手に歩いていた冒険者の人たちなどは、震えながら剣を構えている。


「大丈夫だ! このフェンリルは何もしない。我らの獣魔だ」


 お父様がおもちの横にたち、大きな声で安心だと説明する。

 そうだ、おもちの可愛さを私も一緒にアピールしないと。


「そうです! この子はとっても優しいフェンリルなんです」


 私はおもちの体に顔を埋める。

 おもちは嬉しそうにご機嫌に尻尾を回転させる。


 そんな姿を見た人たちは。


「え? フェンリルが尻尾振って喜んでいる?」

「怖くないのか?」

「このフェンリルはいい優しい」

「ふわふわもふもふ……」


 小さな子供の私がフェンリルと戯れている姿は、安心材料になったようだ。


 周りの人たちの顔から恐怖が消えた。


 良かった……おもちのことが怖くないと分かって貰えたようだ。


「ふぅ〜なんとか収束できたな。おもちが普通に馴染んでしまっていて、私も最強フェンリルだという認識を忘れていた」

「確かに、そうですよね。俺もあまりにも犬っぽっ……あっ、いやっ懐いてくれているので、最強フェンリルって事を忘れてました」


 お父様とアレクサンダーお兄様が目を見合わせ、どうにかなったとホッと肩をなでおろす。


 おもちはドンバッセル領でいる時は、みんなに懐いていて、行動なんて前世の犬そのものだったから。

 恐れられている最強フェンリルって所が、抜けお落ちていた。


「落ち着いたところで、まずはいち早く宿屋を探さないとだな」


 お父様が早速、泊まる宿を探そうと言い出した。


 選抜した赤い狂騎士十人、それにお父様やお兄様たちに私を入れて六人と、合計十六人の大所帯。さらにおもち一匹。


 ノリマキもついてくると言っていたんだけれど、さすがにフェンリルだけでも目立つのに、さらにケルベロスマで一緒となると、大騒ぎになりそうだったので今回は諦めて貰った。


 ごめんねノリマキ。


 二匹の姿を誤魔化せるような想像魔法がないか、落ち着いたら叡智に聞いてみないとだ。



 夕食までは自由時間となったので、おもちを連れて薬草や香草探しに出かける。


『あるじぃ? こんな所にきて何するでち?』

「ふふふ。美味しい料理を作る食材を見つけにきたのよ」

『美味しい料理でち!? それはわりぇも楽しみでち』


 いざダノン村のすぐそばにある、野草がいっぱい生えている森に来てみれば、これはもう薬草と香草の楽園だった。


「ちょっと待って!? こんなにも薬草や香草があるなんて!?」


 そうなのだ。ゲームの世界よりも、大量に薬草や香草が至る所に生えまくっているのだ。

 そうか……ゲームの世界ではゲーマーたちの争奪戦もあるから早い者勝ち争奪戦だったのかも、でも今は現実世界なわけで、宝石ザックザク!


「ぐっふふふふ」

『あるじぃ……変な顔』


 しまった。嬉しくてつい興奮してしまった。

 

 とりあえずこの薬草や香草を収穫しないと。 

 この村で入手できる薬草は、なかなか手に入ることがないレア薬草ばかりなんだもの。


 あれ? これってバジルじゃ!?

 バジルはゲームでは採取したことないような……

 しかもこんなにも立派なバジル。


 ジェノベーゼソース大好きなんだよね。

 あ、マルゲリータ作りたいな。ピザの中で一番好きなんだ。

 チーズってこの村売ってるのかな?

 

 この世界ではチーズに火を加えるって事がないので、あまり好まない人が多い。

 現にお父様たちみんなチーズが嫌いで、ドンバッセル領で入手出来なかった。

 なので諦めていた食材。


 この村で販売してないかぁ……。


「よし! お店の人に聞いてみよ」


 マジックバックにバジルや色々な香草と薬草を詰め込み村へと戻る。

 

「おもち〜帰るよ〜」


『ぬうん? もうご飯でち?』


 おもちったら寝ぼけている。私がバジルなどを摘んでいた時間は退屈だったよう。

 待ってくれてありがとうね。


 村に戻ると、花屋さんの女性と目があったので、チーズを売ってないか聞いてみた。


「ああ〜チーズね。牛乳屋のモーギュの所で売ってるわよ。この道をまっすぐ行くと、牛のマークの看板が目に入るから。わかると思うわ」

「ありがとうございます」

「……あのね。ちょっとお願いなんだけれど、そのフェンリル触らせて貰えないかしら? 怖くないんだと分かるとその綺麗な毛並みが魅力的で……」


 花屋の女性がモジモジしながらおもちを触りたいという。

 おもちのシャンプーやブラッシングには力を入れているので嬉しい。


「おもちの毛が美しいから触らせて欲しいんだって。どうする?」

『わりぇの毛が高貴でかっこよくて美しいでちと!? フンスッ』


 いや……そこまでは言ってないけれど。

 褒められて嬉しいのかおもちの尻尾がぶんぶん回る。


『いいでち! 特別に触ってもいいでち』


 おもちの許可を得た花屋の女性は嬉々としておもちの胸に飛び込んでいった。

 その後もおもちフィーバーは続き、中々牛乳屋さんに辿り着けなかった。

 みんなもふもふ大好きだね。


「あった! 牛の看板! おもちはちょっとだけ外で待っててね」

『分かったでち』


 カランと音が鳴る扉を開け中に入ると、色んな種類のチーズが並んでいる! しかもこれ! パルミジャーノ・レッジャーノ!? 超高級チーズ!

 エメンタールも!チーズホンデュで食べたら最高に美味しいやつ! トムとジェリーのジェリーがいつも食べてるチーズね。


「お嬢ちゃん珍しいねぇチーズに興味があるのかい? 子供はみんなチーズを好まないからねぇ」


 優しそうなお爺さんが話しかけてきた。このお店の店主かな?


「私、チーズ大好きなんです。ここっ、こんなにいっぱいチーズがあるなんて思ってなくて今、興奮してます」

「はははっ、そう言ってもらえると嬉しいねぇ。人気なくて中々売れないから、売れ残ってたくさんあるだけさ。少し味見するかい?」


 お爺さんがそう言って薄く切ったチーズを渡してくれる。

 口にいれて驚く。


「うままっ」


 最高に美味しいチーズ! これ日本で買ったらめちゃくちゃ高いよう。

 

「お爺さんはチーズ作りの天才ですか? めちゃくちゃ美味しいです。こんなにも美味しいものが美味しくないって……おかしいです!」


「はははっ、お嬢ちゃんは優しいねぇ。牛乳は日持ちしないだろう? どうしても廃棄が出てしまうからね。このチーズは代々教えられてきた牛乳を無駄にしないための技法なんだ。牛たちから大切な牛乳をもらってるんだ。それを廃棄なんてしたくないからね」


 なんて優しいお爺さんなんだ!

 こんな素敵な考えをする人が作るチーズをまずいなんて言わせない!


「お爺さん! 私に任せてください。この村にチーズ革命をもたらしましょう」

「チーズ革命!?」



 ★★★



 次話ではレティシアがチーズ無双しますのでお楽しみにです

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る