2 玄関ドアと無限の合鍵
引っ越し当日。悠斗と美咲が家具店から配達された大型ソファを玄関前で受け取っていると、西条が笑顔で現れた。彼の後ろには見知らぬ人々の小さな集団がいる。
「お引っ越しおめでとうございます!ご近所の皆さんです。ご挨拶がてら、ちょっとしたサプライズを」
西条はポケットから取り出した小さな袋を振った。キラキラと金属音がする。
「合鍵、全員に配っておきましたから。これが私たちの理念です。助け合いですよ!」
商店街の会長らしき老紳士、町内会の役員という中年女性、そして小学生らしき子供まで、十人ほどが各々キーホルダーにつけた同じ形の鍵を手に笑う。悠斗は血の気が引いて美咲の手を握った。何かがひどく間違っている。しかし西条は気にする様子もなく続ける。
「便利でしょう? 誰でも入れて荷物を運ぶのもラク。心配ありません!最新のコミュニティ志向型住宅なんです」
店の配達員も興味深そうにその様子を見ている。悠斗が「でも、プライバシーは...」と口を開きかけると、西条はスマホを操作して玄関のスマートロックを解除した。ドアが自動で開く。
「さあ、皆さん。新居のお披露目です!まずは荷物運びを手伝いましょう」
断る間もなく、見知らぬ人々が次々と家に入っていく。美咲は悠斗の腕を掴み、指先が真っ白になるほど力を込めた。
「これって、普通なの...?」
美咲の声は震えていた。悠斗は何も答えられず、ただ見知らぬ人々が自分たちの新居に土足で上がっていく様を呆然と見つめていた。
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