episode38 期待
「…なるほど、エレナとキアラルが自ら入った…と。」
「は、はい…。」
「す、すみません…。」
3人で生徒指導室に連れられ、ブラッド先生の尋問を受けさせられた。
幸いそこまで長く受けることはなかったが、ブラッド先生の圧は、精神的に来るものがあった。
「はぁ…まぁいい。今回は許そう。ただし、次はないと思え。」
エレナとキアラルは申し訳なさそうに「はい…」と返事して部屋を出ようとした。
そのとき、ブラッド先生が低い声で「エリオス、貴様はここに残れ。」と言った。
冷や汗がしつつもエレナとキアラルに先に部屋を出させ、再び椅子に座った。
「…ブラッド先生、いったん何でしょうか…。」
改めて用事を問うと、ブラッド先生は深いシワがほんのり緩んだ。
「模擬戦の件だと、部屋で話すつもりだったのだがな…。」
あっ…確かにブラッド先生が部屋に入ったとき、’模擬戦’と言ってたな。
「まず、見事だった。1対5で勝つことは1年生で出来る者は数少ない。そして5大魔術をよく使いこなしていた。」
未だに慣れない。あのブラッド先生が褒めてくれてることに。どうしてもにやけが止まらず、慌てて口を抑えた。
その様子を見たブラッド先生は軽く咳をして話を戻した。
「だが…そろそろ聞かせてもらおうか。エリオス、貴様はこの1週間、何をしていた?」
やっぱりその件か…。前ならごまかしていたが、今はもう隠す必要はない。
「…僕は、魔術の神、カーレリア様から神の加護を授かりました。」
「…やはりか。」
「やはり?え?知っていたのですか?」
どんな反応するか構えていたが、予想外のことに僕の方が驚いた。
「最近のエリオスは、あまりにも強くなり過ぎだ。1週間寝ずに訓練しても1歩も届かないレベルでな。その強さは、他のものから力を与えられない限り説明がつかないだろう。」
その通りだった。前は1人にすら勝てない僕が、昨日の模擬戦で5人相手に圧勝した。疑われても仕方ないだろうし、特訓したじゃ話が付かない。
「だが、まさか四神のカーレリア様からだとは予想していなかったがな。」
ブラッド先生は目を細め、深く息を吐いた。まるで、納得と同時に重荷を感じているようだった。
「だが、学院生なのは変わらない。例え貴様が私より強くなろうとも、私は教授として厳しく指導するつもりだ。」
「ブラッド先生…!」
ブラッド先生の表情は相変わらずムスッとしていて、何を考えているか分からない。
けれど先生としての威厳と覚悟は、痛いほどに伝わった。
…ブラッド先生に話すべきだ。ヴァイル大災害の件を。
「…ブラッド先生。」
僕はブラッド先生にヴァイル大災害のことを話した。
1か月後に起こること。カーレリア様が予言したこと。世界の命運は僕にあること。
話していると、ブラッド先生の顔は徐々に気難しい顔になり、話し終えるととても不快そうな顔をしていた。
…ブラッド先生は立ち上がり、窓の外に目を向けた。
「…1か月後…か…。」
そうつぶやくと席に戻り、頭を抱えた。
「…神に文句言うつもりはないが、あまりにも予言が遅すぎる…。もっと早めに伝えるべきだ…。」
ブラッド先生の言うことは仕方ない。元々はもっとあとに大災害が起こるはずだった。
けれど僕が加護を授かってから急速に封印の緩みが早くなった。
けどどちらにしろ加護は誰かに授かる運命だったし、大災害の引き金になったのはカーレリア様も予想外だろう。
…しばらく沈黙が続き、重い空気が流れた。
気まずいし、何を話せばいいか分からない。
「……神の力というのは、そういうものか。」と、ブラッド先生はぽつりと呟いた。
「エリオス。」
僕の名を、いつもよりも静かな声で呼ぶ。
自然と背筋が伸びた。怒られているわけじゃないが構えた。
「過程がどうであれ、命運を託されたのは事実だ。その責任をしっかり果たせ。そして可能な範囲で私もサポートしよう。」
「……ありがとうございます、ブラッド先生。」
自然と頭が下がる。怖い存在だったはずの先生が、今はただ心強い。
「だがな、エリオス。勘違いするなよ。」
少し厳しい声に戻る。
「“神の加護”があろうと、お前はまだ未熟だ。戦場で信じられるのは力だけじゃない。“判断力”と“覚悟”、それを磨け。」
ブラッド先生のまなざしはまるで剣のように鋭く、でもどこか熱かった。
「…はい!」
僕は椅子のひじを握りしめ、目をそらさずに答えた。
「よし、では下がれ。」
「失礼します。」
…立ち上がってドアを開けた瞬間だった。
「きゃあ!?」「わわ!?」
エレナとキアラルが倒れこんできた。
2人とも若干右耳と右頬が赤い。どうやら聞き耳を立てていたようだ。
悲鳴を聞いたブラッド先生は、立ち上がって倒れたエレナとキアラルを見下ろした。
エレナは何を言われてもいいよう覚悟したように口を引き締めていて、キアラルはひどく怯えていた。
僕は慌てて口を開いた。
「ブラッド先生!エレナとキアラルは元々大災害のこと知っていて…!」
それを聞いたブラッド先生はエレナとキアラルを睨みつけた。
「聞き耳立てていたことには感心しないな。まあ他の学院生ではないだけマシだが。」
冷たい声に、キアラルはビクッと肩をすくめた。
エレナはキッと睨み返しそうなほどに表情を強張らせていたが、すぐに視線を伏せて深く頭を下げた。
「申し訳ありません、先生。心配だったので…つい。」
「わ、私も……エリオスのことが、すごく気になってて……。」
二人とも、必死に気持ちを伝えようとしていた。
だが、ブラッド先生の表情は変わらない。しばらく無言の圧が室内を支配した。
……と。
「…ならば、聞いた内容を自分の頭で整理し、無闇に他言するな。いいな?」
その言葉に、エレナとキアラルは顔を上げ、揃って「はい!」と返事をした。
少し肩の力が抜けた僕は、改めて三人で頭を下げた。
「では、全員、下がってよし。」
「失礼しました!」
生徒指導室を後にして、3人で廊下を歩きながら思わずため息が漏れる。
「ふぅ…死ぬかと思った……。」
最初に真っ先に言ったのはキアラルだった。心底安堵している顔だ。
「あの先生の圧はいつも慣れないわ…。」
「流石にヒヤヒヤしたよ…。」
3人で深く息を吐いた後、エレナが真剣な目で僕を見た。
「エリオスはこれからどうするの?剣術や魔術の特訓なら私が手伝うわ。」
「ちょっ…剣術単独なら私に任せてよ!」
「う…剣術魔術の混合なら私が上だからね!」
「わ…私が魔術使えばすぐエレナちゃんを追い越すから!」
2人がお互いを睨んで言い合いになり始めた。
「ま、待ってよ!先に図書館行かせて、まだまだ調べたいことがあるから。」
「そ、そう…。」
エレナは残念そうに俯いた。そんなに僕と戦いたかったのかな…。
一方のキアラルは、勝ち誇ったような顔をしてエレナを見たが、
「でも私も図書館行くから!エリオス一人じゃ危なっかしいもん!」
と、すぐに路線変更してきた。
「ちょっと、そういうのは私の役目よ。エリオスが調べ物に集中できるよう、横で静かに見守る係は私って決まってるの」
「誰が決めたの?私でしょそういうのは!」
「はぁ?理屈になってないじゃない!」
また始まった……と、思わず頭を抱えそうになった。
「2人とも、図書館では静かにしないとだから…。」
そういうと2人は不満そうに口を紡いだ。
けど目線だけはお互いを睨んでいた。
まだまだライバル心はご健在のようで、でもこれが正常運転か…な。
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