第48話 彩乃vs美咲 沙織vs理恵 夜の繁華街キャットファイト
夜の繁華街の路地裏で、彩乃(あやの)と美咲(みさき)は互いの襟元を掴み合っていた。二人とも美しい顔立ちをした20代半ばの女性だ。彩乃の赤い口紅は既に剥げ落ち、美咲の銀色のピアスは片方地面に転がっていた。
「どうしてあなたみたいな女が!」
彩乃の叫びと共に放たれた拳が美咲の頬に当たった。美咲は一瞬よろめいたが、すぐに反撃に出る。鋭い爪が彩乃の腕を切り裂いた。
「痛ッ……」彩乃が短く叫ぶと同時に、今度は彼女の膝が美咲のみぞおちに入った。
「ぐっ……!」美咲の息が詰まる音がしたが、次の瞬間には彩乃の髪を掴んで引っ張っていた。「この……売女が!」
周囲の人々は遠巻きに見つめるだけで近づこうとはしなかった。警察を呼ぼうとする人もいない。これが単なる酔っぱらいの喧嘩ではなく、深く根ざした憎しみから来る争いだと理解しているようだった。
「離せ!」彩乃は怒鳴りながら、必死に美咲の手首を捻じ上げる。骨の軋む音が聞こえた気がした。
「痛いっ……やめろ!」美咲は苦痛に歪んだ顔で叫んだが、それでも彩乃を解放しようとしない。
二人の争いは次第にエスカレートし、服は破れ、肌には無数の傷が刻まれていく。しかし、お互い譲ることなく、攻撃の手を緩めない。
「全部あなたのせいなのよ!」彩乃は叫びながら、再び美咲の髪を掴む。
「何が? 私が何をしたっていうの?」美咲も負けじと言い返す。
「あなたが……彼を奪ったから!私のすべてを奪ったの!」
その言葉に美咲の表情が一変した。憎悪と怒りが入り混じった表情になり、更なる力で彩乃を引き寄せる。
「そんなこと言うなら、あなたこそ私から何を奪ったと思ってるの?」美咲の声は震えていたが、その目には強い決意が宿っていた。
二人の争いは止まらなかった。通りかかったサラリーマンや大学生たちが足を止めても、誰も仲裁に入ろうとしない。それがこの都市のルールだった。女同士の本気の喧嘩には触れない。
地面に倒れ込んだ二人はなおも絡み合い、相手の身体を叩き、蹴り飛ばす。お互いの爪痕が鮮血となって浮かび上がっていく。
「許さない……絶対に!」彩乃の目には涙が光っているが、その攻撃は容赦ない。
「私もよ……!」美咲も同じように涙を浮かべながら叫ぶ。
彼女たちの争いは収まりそうになかった。愛する人を巡る憎しみ、嫉妬、そして絶望。それらが交錯する感情の中で、二人の女性は互いを傷つけ続けていく。
夜の街に響く悲鳴と罵声。そこに優しさや哀れみの欠片も存在しなかった。ただ純粋な憎しみだけが支配する世界。
そして二人の争いは続く—終わりなき怨念のように。
# 涙の味
夜風が二人の荒い呼吸音を運んでいた。彩乃と美咲は互いの肩を掴んだまま、乱れた髪越しに睨み合っていた。服はすでに原型を留めておらず、露出した肌には無数の引っ掻き傷と打撲の跡が刻まれている。
「こんなことしても意味ないじゃない!」美咲が泣きじゃくりながら叫んだ。「こんな……こんなことで何か変わると思ったの?」
「変わったわよ!」彩乃の声は震えていた。「あんたという汚点が私の人生に永遠に残る!」
その言葉に美咲の表情が凍りついた。瞳孔が小さくなり、顔からは血の気が引いていく。
「……最低ね」
吐き捨てるようにそう言った瞬間、美咲は最後の力を振り絞るようにして彩乃の体を突き飛ばした。バランスを崩した彩乃はコンクリートの壁に叩きつけられ、小さな呻き声を上げた。
「でも、あなただけが悪いわけじゃない」美咲はゆっくりと立ち上がり、肩で大きく息をしながら続けた。「私も同じくらい最低なのかもね」
その告白のような言葉に彩乃は戸惑った表情を見せた。しかしそれも一瞬のことだった。すぐに怒りの炎が燃え上がり、再び美咲に向かって飛びかかる。
「調子に乗るんじゃないわよ!」彩乃の爪が美咲の頬を切り裂いた。鮮血が夜の街灯に照らされて光る。
「乗ってなんかいない!」美咲も負けじと応戦する。二人の影が夜の路上で激しく交錯し、時折鈍い音が響いた。
周囲を歩く人々は好奇の眼差しを向けながらも、一定の距離を保っている。中にはスマホを取り出して録画しようとする者もいたが、誰一人として止める者はいない。
「ずっと憧れてたのに……」彩乃の拳が美咲の腹に深く沈んだ。「あなたみたいになりたいって思ってたのに……!」
「だったら素直にそう言えばよかったじゃない!」美咲の膝が彩乃の側頭部を捉える。「いつも裏でコソコソ陰口ばかり言って!」
痛みに喘ぎながらも、彩乃は懸命に起き上がる。唇から血を滲ませながらも、その瞳には狂気にも似た輝きが宿っていた。
「あんたはわかっていない!」彩乃は叫びながら美咲の髪を掴んだ。「私がどんな気持ちであなたを見ていたか……!」
「わかってるわよ!」美咲も負けじと髪を引っ張り返す。「だからこそ許せなかった!」
二人の争いは徐々に勢いを失いつつあった。体力の限界が近づいているのだ。しかし、それでも二人は手を緩めようとしない。
「もう二度と……私たちに近づかないで!」彩乃は息も絶え絶えに叫んだ。「和樹にも……」
その名前を聞いた瞬間、美咲の瞳が大きく揺れた。長いまつ毛に涙の粒が光る。
「和樹……彼を選んだのはあなた自身でしょう?」美咲の声は震えていた。「私はただ……少し勇気を持っただけよ」
その言葉に彩乃は怒りのあまり震え始めた。全身の筋肉が強張り、歯がギリギリと鳴る音が聞こえるようだ。
「嘘つき!」彩乃は叫んだ。「全部計算済みだったくせに!最初から私たちを引き裂くつもりで近づいてきたくせに!」
美咲は悲しげに首を横に振った。しかしその表情の中にはどこか諦めにも似た安堵があった。
「もう……終わらせましょう」美咲は静かに言った。「これ以上続けても何も得られない」
その言葉に彩乃は一瞬戸惑いを見せた。しかし次の瞬間、怒りが再燃し、激しく否定する。
「終わりになんてできるものか!」彩乃の拳が美咲の胸元に沈んだ。衝撃で美咲は後退するが、それでも倒れなかった。
「だって……もう十分苦しんだじゃない」美咲の声はか細くなっていたが、その意志の強さを感じさせる響きがあった。「二人とも……もう疲れ果ててるのに」
彩乃は何も答えなかった。ただ黙って美咲を睨みつけるだけだった。その瞳には怒りと憎しみだけでなく、深い哀しみも宿っていた。
夜空には満月がかかっていた。その冷たく青白い光が二人の濡れた肌を照らし出す。傷だらけの身体に浮かび上がる血の跡。それはまるで二人の関係そのものを象徴しているかのようだった。
結局、最後まで誰も止めに入る者は現れなかった。二人は自らの意志で傷つけ合い、そして傷ついていった。愛情が憎悪に変わり、憧れが嫉妬へと形を変えた瞬間から、この争いは避けられない運命だったのかもしれない。
やがて二人は力尽きて地面に崩れ落ちた。互いの肩に寄りかかりながら、それでも決して手を緩めない。
「次はもっと……上手くやるから」彩乃は囁くように言った。「あなたの隙をついて……必ず」
「楽しみにしてるわ」美咲の返事には微かな笑みさえ含まれていた。「でもその前に……もう一度だけ確認させて」
美咲は顔を上げ、真っ直ぐに彩乃を見つめた。その視線には嘘偽りのない誠実さが宿っていた。
「本当に……これでよかったのよね?」
彩乃は何も答えなかった。ただ黙って美咲の目を見返すだけだった。二人の間に流れる沈黙は、言葉以上の真実を物語っていた。
この夜、二人の女性は決定的な一線を越えた。そしてその先に待つのは後悔なのか、あるいは新たな始まりなのか。それは誰にもわからない。ただ一つ確かなことは、これからも二人の道が交わり続ける限り、このような争いは繰り返されることになるだろうということだった。
# 土砂降りの泥沼
雨の降りしきる深夜の公園。遊具の影で二人の女性が地面に這いつくばりながら取っ組み合っていた。沙織(さおり)と理恵(りえ)——かつて親友だった二人の姿は見る影もない。
「あんたのせいで全部台無しになったのよ!」沙織が泥まみれの顔で叫ぶ。彼女の長い黒髪は雨水で額に貼り付き、化粧も落ちかけていた。
理恵は歯を食いしばりながら応じる。「自分の責任から逃げるな!あのプロジェクトが失敗したのは私のせいじゃない!」
二人の格闘は泥濘の中をゴロゴロと転がりながら続いていた。制服のスカートはまくれ上がり、ストッキングは伝線している。
「あんたが邪魔したのよ!私の企画にケチつけて!」沙織は理恵のネクタイを掴み、喉元を締め上げた。
「違う!あれは会社のためを思って……」理恵も負けじと沙織の髪を引っ張り返す。
地面に押し倒されたり起こされたりするたびに泥が飛び散り、二人の衣服はどろどろになっていく。公園の灯りが二人の姿を幽霊のように照らしていた。
「知ってる?あのとき会議室でみんながあんたのことをなんて呼んでたと思う?」沙織は勝ち誇ったように言った。「"疫病神"よ!」
その言葉が理恵の胸に深く突き刺さった。彼女の目に涙が浮かぶ。「……そんなふうに思われてたの?私……」
「そうよ!みんな心の中でそう思ってた!だから私は……」沙織の言葉が途中で止まった。その隙をついて理恵が反撃に出る。
「私だって言われてたわ!"社長の愛人"だって!」
理恵は沙織の耳元で叫んだ。「本当はあんたがその立場に行きたかったくせに!」
今度は沙織の表情が凍りついた。その瞳に暗い怒りの炎が宿る。「……よくもそんなことを!」
二人は互いの身体を強く押さえ込みながら地面を転げ回った。時に沙織が馬乗りになり、時に理恵が逆転する。そのたびに泥が舞い上がり、周囲の草木に降りかかった。
「昔からそうだった!」沙織は涙声で叫ぶ。「なんでも一番になろうとして……人のものを奪って!」
「違う!私はただ正直に生きただけ!」理恵も泣きながら言い返す。「あんたはいつも裏でコソコソして……本当は私より劣ってるくせに!」
動画はこちらhttps://x.com/nabuhero
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