第43話 権力の暴走
「だが、世界を支配するために既に不幸は十分にたまった。あとは最後の仕上げに入るのみだ。」
デストロイアは非常に余裕のある表情で呟く。
目を瞑ると頭の中で世界中の不幸をイメージする。
世界の中には、貧困により飢餓で苦しんでいる子どもが沢山いた。
「その絶望、俺が奪ってやる。」
世界中で飢えに苦しんでいる人たちから一気に不幸を奪う。
これで準備は全て整った。
「世界よ、俺のものとなれ」
デストロイアは今まで集めてきた不幸を空中に解き放つ。
快晴だった空は一瞬でどんよりと曇り、世界各地に化け物が現れる。
それは人間の不幸、汚れた心から生まれた怪物だ。
化け物は人間を恐怖で支配するために生み出された存在。
世界中で人間を標的として暴れまわる。
暫く時が経つとテレビで緊急放送が流れる。
「速報です。世界各地で謎の化け物が出現し、暴れまわっています。彼らの目的や発生原因は不明です。一刻も早く非難してください。繰り返します、速報です...」
「避難しろたって、どこに逃げれば良いんだ」
「町は既に化け物で一杯よ」
市民の中からは恐怖と困惑の声が聞こえる。
社会人も、学生も、一生に一度あるかどうかのこのような緊急事態において、必然的に早退を余儀なくされた。
「マジカルシュート!」
逃げ惑う市民を怪物たちから助けるほのか。
だが、目の前にいる怪物は今まで倒してきた不幸の残骸より一段と強かった。
必殺技を放っても、まったく効いている様子がない。
「それなら、天よ、私に力を与えよ!」
新たに手に入れた力、プリンセスフォームに変身する。
「スーパーマジカルシュート!」
進化したマジカルシュートは虹色の輝きを美しく放っている。
それは化け物の一体に直撃し、見事にそれを撃破した。
だが、それでも倒せたのは一体だけ。
周りには化け物が無数に蠢いている。
「これじゃあ、キリがない。みんな、大丈夫かしら」と呟く。
ほのかが闘っていたのはレーヴェ中学校の近く。
そこから少し離れた学校の帰り道の公園の近くには恵理の姿があった。
「スーパーマジカルバリア!」
化け物の合体攻撃に対して強力なバリアを張る。
「天よ、私に力を与えよ!スーパーマジカルフラッシュ!」
恵理も新たな力を使える姿に変身し、必殺技を放つ。
これだけの力が使えても、倒せた化け物はやはり一体だけ。
「ほのか、大丈夫かしら。こんな時みんなが近くにいれば...」
恵理は幸福の戦士5人の中ではトップクラスの防御力を誇る。
その反面、攻撃面に関してはそこまで秀でている訳ではない。
望月湊音は自分の家の近くで家族と近所の人を守っていた。
「プログレスソードファイアー!」
以前、施設で手に入れた力を活用する。
化け物の一体が燃え尽きる。
「思ったより手ごわいですね。でも、俺は負けませんよ。天よ、俺に力を与えよ! スーパープログレスソードファイアー!」
以前のプログレスソードファイアーにも増して強大な炎が燃え上がる。
威力が上がった攻撃は目の前の化け物の三体ほどを撃破した。
一ノ瀬海翔はレーヴェ市から遠く離れた、バーセ市で戦っていた。
海翔は幸福の戦士の中で一番の運動神経を誇るのだ。
彼の足を持ってすれば、隣の県までもひとっ飛びなのだ。
「天よ、俺に力を与えよ! スペシャルサグレットアタック!」
彼の強力な攻撃は化け物五体を一気に倒した。
引き続き辺り一帯の化け物を駆除し終わると彼は他の地点に向かった。
白石梨乃はレーヴェ市の丁度隣に位置するルパ市で化け物と戦闘をしていた。
「天よ、あたしに力を与えよ!スペシャルフューチャーフィニッシュ!」
黄金に輝く矢は化け物五体の身体を貫いた。
彼女はもう一度矢を構え、まだ生き残っている化け物を倒そうとする。
その時、空中に穴が開いた。
「デストロイア!」
「久しぶりだな、梨乃。貴様の相手はこの俺だ。」
彼女はその場に立ちすくむ。
足が僅かに震えている。
「お前、俺と闘うのが怖いのか? また負けるのが怖いか?」
落ち着いた表情で余裕の笑みを浮かべるデストロイア。
彼女は黙ってデストロイアに殴りかかる。
彼女の拳を彼は静かに受け止める。
「貴様1人の力では俺に勝つことはできない。他のメンバーも同様だ。俺が1人1人この手で始末してやる。まずは貴様からだ。」
「あんたから、必ず、この世界を守って見せるわ。スペシャルフューチャーフィニッシュ!」
矢はデストロイアの顔面に向かって飛んでいく。
彼が空中に手を翳すと矢が制止する。
彼は手をひらりと優雅に振る。
矢は向きを変え、凄まじいスピードで梨乃の方向に飛び、勢い良く彼女の腹部に突き刺さる。
苦痛に満ちた痛々しい叫びと共に彼女の身体は地上に向かって落下していく。
デストロイアは空中からその様子を静かに見下ろした。
「プライドが高いだけで何もできない小娘にはお仕置きが必要だな。これで終わりだ。」
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