第17話 彫刻教室と憩いの場
翌日はコガネと一緒に朝食を早めにとって、工房の整理整頓を実施した。毎日オパール彫刻が終わると整理整頓をしているけれど、念のために今日も掃除した。オパール彫刻も増えてきたから、フリュージュ街へ売りに行こうかな。
すべての準備が終わったので、リビングでコガネとくつろいでいた。
「ジグソーパズルを教えると、午後までかかると思うのよ。今日来る3人には、森の隠れ家で昼食をごちそうしたいけれど大丈夫かな」
事前準備に気を取られていて、教える時間帯を今思い出した。
「平気なのです。料理の希望はあるのですか?」
「いつも作るコガネの料理で平気よ。お店で出せるくらいおいしいし、どの料理もきっと好みに合うと思う」
「分かったのです。頑張って作るのです」
コガネの返事を聞いて、料理を食べた人は喜んでくれると確信がもてた。コガネが作ればどの料理でもおいしいのは経験済みだった。
コガネと話しているうちに、隠れ家の扉をたたく音が聞こえた。
「ジグソーパズルを習う人が来たみたい」
コガネと一緒に玄関へ移動して扉を開けた。
カロムさんの姿のほかに大人の女性がひとりと、小学校高学年くらいの男の子と小学校低学年くらいの女の子が立っていた。女性は30代くらいの健康的な長身で、男の子のうしろに女の子は隠れている。
「ユミーナ様、連れてきたのじゃ。女性がラシーでオルブの奥さんじゃ。ふたりの子供たちも一緒に教えてほしいのじゃが、構わないじゃろうか」
「大人でも子供でも、ノコギリや彫刻刀が扱えれば大丈夫よ」
「助かったのじゃ。ラシーに指示を出してもらえれば子供たちも従うのじゃ。わしは用事があるので、このへんで帰るのじゃ」
「わざわざ送ってきてくれてありがとう。帰りはひとりでも大丈夫?」
弱いとはいえ魔物がいるので心配で聞いてみた。
「まだまだ魔物相手に後れは取らないのじゃ」
散歩の帰り道のように、ゆっくりとした足取りでカロムさんがシュミト村へ戻っていく。ラシーさんも心配している素振りはないので、魔物との接し方は日常的なのかもしれない。
「ユミーナ様、初めまして。わたしがラシーで、兄がテム、妹がクリザです。子供たちも道具には慣れているので、よろしくお願いします」
「すでに知っていると思うけれど私がユミーナで、となりの少女がコガネよ」
「よろしくなのです」
私が紹介するとコガネがあいさつしてくれた。
「お前たちも、あいさつをしなさい」
ラシーさんの言葉にテム君が口を開いた。
「僕はテムで、道具の扱いは父ちゃんに教わった」
元気のよいあいさつで、子供らしい活発さが男の子らしかった。
「よろしくね」
テム君にあいさつしてから、もうひとりのクリザちゃんへ視線を向けると、テム君のうしろに隠れたままだった。
「ユミーナ様、クリザは人見知りするので、ゆっくりと慣れさせます。ただクリザが一番手先は器用なので、期待してください」
まだ小さいから、家の人以外には慣れていないのかもしれない。
「よろしくね、クリザちゃん」
笑顔を見せながらやさしく語りかけると、テム君のうしろに隠れながらも頷いてくれた。嫌われてはいないみたいでよかった。
「さっそくジグソーパズルを教えてもらいたいのですが、大丈夫ですか」
「準備はできているから平気よ」
3人を家の中へ招いて工房まで案内した。
彫刻刀などの道具は各自がもってきてくれたので、コモンオパールのみを取り出してテーブルの上へ置いた。
「わたしたちの準備はできました」
ラシーさんたちはテーブルの上に彫刻刀などの道具を置き終わっていた。私も必要な準備が整った。
「ジグソーパズルの作り方を教えるね。練習中はコモンオパールにひびが入って失敗すると思うけれど、コモンオパールはたくさんあるので気にせず練習してね。それから怪我だけには注意してほしい」
私の説明にラシーさんたちが頷いたので続きを話す。
「具体的な手順だけれど、最初は使うコモンオパール選びよ。ひびの入っていない大きめを選んでもらって、色は好みで選んで問題ないかな。同じ色だけでジグソーパズルを作っても、色とりどりなジグソーパズルでもどちらでも平気よ」
私がコモンオパール選びを実践しながら、問題となるひびや最低限の大きさを説明した。ラシーさんたちも私に見習ってコモンオパールを選び出す。次の作業は同じ厚さとなるようにコモンオパールを削る。ここまでで下準備が完了した。
「次はピースと呼ばれる小板を作る手順ね。最初は布にピースをつなげた完成形状を描いて、線に沿って切ってピースの形を完成される。その布をコモンオパールに重ねて、ノコギリでコモンオパールを切る。不安なら少し大きめにすれば大丈夫よ」
最初は私が見本を見せる。練習用で分かりやすくするために。20ピース程度でピース自体も大きめに布へ描いた。線に沿ってハサミでピースを切り分ける。ここまで終わった段階で、ラシーさんたちに実施してもらった。
3人とも器用なのか戸惑うことなく作業を進めている。そのなかでクリザちゃんが1番早くて1番きれいに作っていた。
「これで大丈夫でしょうか」
3人の作業が終わった段階で、ラシーさんが聞いてくる。みんなの組み合わせたピースを見せてもらうと、ほとんど隙間なく出来上がっていた。ピースの大きさや形も持ちやすくて、これなら子供でも遊べる。
「どのピースもきれいで問題ないよ。大きいジグソーパズルもこの組み合わせが増えるだけだから、ここまで作れれば平気かな。次は絵を彫っていく作業ね」
絵の彫り方は元の絵を横目で見ながら直接掘っていく方法と、ピース作りと同じようにコモンオパールの上に絵を描いた布を重ねて、線に沿って彫る方法がある。どちらにするかは本人たちの好きに任せた。
私は頭の中にある、木に生い茂る葉っぱを彫ってみた。早めに絵を完成させてみんなの作業を確認すると、彫刻刀に慣れているのかきれいに絵が出来上がっていく。
最後に表面をきれいにして、ジグソーパズルが完成した。
「3人ともすてきなジグソーパズルで、すぐにでも売れる完成度よ。あとは大きさや絵の種類を増やせば、いつでも売りに行けると思う」
お世辞ではなくて、本当に売れる品質に出来上がっていた。
「ありがとうございます。ユミーナ様の教え方がうまかったので、完成させることができました。お前たちもお礼を言いなさい」
「ユミーナお姉ちゃん、ありがとう。僕、うまく作れたよ」
テム君が元気よく答えてくれた。横にいるクリザちゃんは少しだけ私に顔を向けてから、すぐに下を向いた。
「ありがとう。あたしはうれしいの」
やっと話してくれたので、少しずつだけれど打ち解けられそうな気がしてきた。
一連の流れを教えたのであとは慣れるための練習だけれど、そろそろお腹が空いてきた時間よね。ちょうど区切りもよいから食事にしたい。
「あとは練習あるのみだけれど、その前に食事にしましょう。料理はコガネが作ってくれるから、みなさんにも食べてほしい。そのあとに工房でジグソーパズル作りを練習してもらって、暗くなる前にシュミト村に帰る感じかな」
「わたしたちも一緒の食事で平気なのですか」
「そのつもりで用意しているから大丈夫よ。コガネ、食事の準備をお願いね」
ラシーさんへ答えてから、待機していたコガネへ視線を向ける。
「了解したのです」
コガネが工房を出ていくと、私たちは片づけを始める。整理整頓のあとにリビングへ着くと、すでに料理が並べられていた。
好き嫌いが分からなかったので、ひとつの皿は少なめにして品数を増やした。
「お肉やスープは温かいうちがおいしいから、さっそく食べましょう。おかわりも可能だから、遠慮せずにいってね」
「ありがとうございます。おいしそうな匂いで楽しみです」
ラシーさんが答えてくれたけれど、まだ料理には手をつけていない。私たちが食べるのをまっているのね。
「それでは食べるね、いただきます」
「いただきます」
私とコガネが両手を合わせて感謝の言葉を述べてから、料理を口に入れた。コガネも私に続いて料理を食べ始めた。
「ユミーナ様、今の言葉としぐさは何でしょうか」
コガネのときと同じく、ラシーさんが不思議そうに聞いてきた。
「私の故郷では、食材に対する感謝の言葉にあたるのよ。料理を食べ終わったら、ごちそうさまでしたと言って、こちらも作った人への感謝を表しているかな。ただ独特だと思うから、ラシーさんたちは普段通りで構わないよ」
「分かりました」
ラシーさんが料理を食べ始めると、テム君とクリザちゃんも料理を口に入れる。3人ともおいしいと言いながら食べてくれて、コガネの料理は誰が食べてもおいしいことが分かって、なんだかうれしくなった。
昼食後にジグソーパズル作りを再開して、その日のうちに熟練を思わせるくらいの品質を作れるようになった。もう教えることがなくなったと話すと、定期的に完成品を確認してほしいと言われて、不定期で教えることとなった。
その日の夜にリビングでくつろいでいると、コガネが2階へ行ってしばらくして戻ってきた。コガネも椅子に座るとテーブルの上に箱を置いた。
「ユミーナ様に見せたいものがあるのです」
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