ワンドリーム

長船 改

ワンドリーム

 ジョンには、ひとつの夢がある。


 宇宙開拓士――。


 まだ人類の知らない惑星を探し、調べ、可能ならば開拓をしていく仕事。


「どこか遠いところに行きたい。この地球は、俺には息苦しいんだ。わけのわからない鎖に縛られて、外に出れば知らないやつと仲良くすることを強要される。それでいてみんな、俺を見て『自由でいいね』とのたまうんだ。いつでも、どこでだって監視されているのが俺だというのに」


 しかし、ジョンの家族は猛反対だ。


「宇宙開拓なんてダメよ。あなたはこの家の子。それでいいじゃない。それに、宇宙開拓士になるにはとても厳しい訓練が必要なのよ。もし訓練中に大けがでも負ってしまったらどうするの」


 ジョンは首を振った。茶色の瞳に決意をみなぎらせて。


「自分で望んだんだ。納得できる」

「ダメったらダメ……!」


 ジョンと家族は何度も何度も話し合ったが、話はまったくの平行線だった。業を煮やしたジョンは、ついにひとつの決断を下した。


 家出の決行だった。


 最終的にこの家出は、警察に保護されたことで失敗に終わった。しかし、ジョンの行動に家族の胸はうたれた。ずっといい子で家族に迷惑をかけるようなことは何一つしてこなかったジョンが、まさかこんなことをするなんて……と。

 

 そしてとうとう家族は折れた。そこまで望むのならと、ジョンが宇宙開拓士になろうとすることを認めたのだった。


 ジョンが家を出るその日。家族はひとりひとりジョンを抱きしめて、キスをした。これが今生の別れになることを予感しながら……。


 それから、5年の月日が流れた。


 すっかりたくましくなったジョンの姿が、宇宙船の中にあった。彼は見事に夢をかなえて、宇宙開拓士となっていたのだ。


 ジョンは小さな丸窓から、もはや日課となった外の監視を始めていた。真っ暗な中に、無数のきらきらが広がっている。地球にいた頃は見上げなきゃいけなかったものが、今はすぐ目の前だ。地球を発ってからもう一年以上も続けている日課だが、何度見てもまるで飽きが来ない。それほどに感動的な美しさだった。


「よぉ、ジョン。今日も元気そうだな」


 言いながら、頭をガシガシと撫でてくる大きな手がひとつ。この船のリーダーのダニエルだ。彼とジョン、それから残りの2名の合計4名がこの船のクルーだ。


 とは言え、厳密にはジョンは船のクルーではない。ジョンの仕事に、宇宙船の操縦は含まれていないからだ。自分が今のところは単なるお荷物であることを理解しているジョンは、ダニエルのその無遠慮な手に文句も言わず、ただ黙ってされるがままだ。


「ジョン、今日はお前にグッドニュースがあるんだ」


 ダニエルが、ジョンの顔を上から覗き込むようにして言った。

 『グッドニュース』という言葉に、ジョンの耳がピコンと跳ねた。


「お、察したようだな。そうだ、見つかったんだよ。俺たちが降り立つ星が……!」


 俺たちが降り立つ星。すなわち、開拓が可能な星!


「3日後だ。3日後が到着予定だ」


 ジョンの茶色の目が爛々と輝き出した。口角が上がり、をパタパタと振って喜びを表現する。それを見たダニエルもまた、嬉しそうに笑顔を作った。


「そうだよなぁ、お前も宇宙開拓士だもんな。嬉しいよな! 頼むぞ、お前の力が必要なんだからな!」


 自ら望んだこの道は、もしかしたらこれまでと同じだったのかもしれない。ルールに縛られて、部屋を出れば周りと仲良くして、常に監視される日々。


 それでもやっぱり、自分で選んで、正解だった。


「ところでな。実はその星の映像があるんだが、……見に行くか、ジョン?」


 ダニエルは返事も待たずに歩き出した。同じ宇宙開拓士としてのシンパシーがそこにはあった。


 ジョンは一声鳴いて、ダニエルを追いかけるようにして走り出した。


「ワン!」

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ワンドリーム 長船 改 @kai_osafune

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