余話 第六話  義光海の向こうの鮭に思いを馳せる

 戦の功績で最上家は陸奥(みちのく)の纏め役として政権に加わることとなった。


家臣たちは氏家を始めとして皆最上家の躍進を喜んでいた。元公方に付いた大名達が滅ぼされたため加増も受けて伊達家を超える領地を得たのだ。


 だが肝心の義光は鬱々としていた。


「蝦夷地は蠣崎氏が改易され織田殿の直轄地となり山中殿が代官として開拓を任されたと聞く、あの地はまだまだ開拓も行われて居らぬと聞く、未知の地の鮭、いかなるものであろうか、ああ行きたいのう」


 彼は隠居すれば行けるのではと思い氏家に相談したが「まだ、若殿には殿が必要です!」と言われてしまい計画は頓挫してしまった。


 仕方ないので彼は鹿介に頼み込み鮭延を蝦夷地に送り込むこととした。鮭延も未知の鮭に会えることを喜び蝦夷地改め北海道に渡ることとなる。


 義光は鮭延から送られてくる鮭を楽しみにしながら政務をこなしていくのであった。




 そうしているうちに京より重大な知らせがやってくる。太平洋と名付けられた海を東に進んだ船団が布哇という島を発見しさらに東にて大陸を発見したというものであった。


「未知の大陸!そこに鮭は居るのか!」


 知らせを持ってきた使者に義光はかぶりつくように近づいて尋ねる。


「そ、それは知らされておりませぬ。そもそもまだ大陸の調査も始まったばかりで、いまから送り込む者たちの人選をするとか」


「そうか!」


 使者から話を聞き取るとその足で嫡男の義信の所へ行く、物凄い速足で。


「儂は隠居するぞ!」


「ちょっ!父上!いきなり何です?」


「新大陸が!鮭が儂を呼んでいるのじゃ、氏家(守棟)今度こそ儂は隠居するぞ!」


 嫡男の義信(信長から信の字を貰って元服した)が氏家を困惑した目で見るが氏家は「もうよろしゅうございましょう」と言い隠居に同意したのであった。


(隠居を引き延ばしたお陰で若殿は十分に当主を務められるようになった。これ以上引き延ばして殿が可愛がってる次男に家督をと言い出す前に新大陸に向かわれたほうが良いというもの)


こうして義光は隠居が決まり新大陸に向かう事となったのであった。



「駒姫様はまだ弐歳ゆえ連れていけませんな。いかがいたしましょうか」


「そうよのう、儂としては心配だが…、そうだ!山中殿に嫁いでもらえば安心できるな!」


「早速話を持っていきまする」


 側近との会話を聞いていた氏家は(殿、山中殿はもうお腹一杯だと思いますぞ)と心の中でつぶやいた。案の定断られたのであったがそれでへこたれる義光ではなかった。


「では、子息の誰かに…」


 その粘りが効いて後に鹿介の息子の一人と駒姫は結婚するのであったがそれはもっと先のお話である。義光は次男の義親を連れて船団に加わるのであった。


 船団を束ねる滝川一益に挨拶をしに行き茶の接待を受ける義光、茶を立てながら一益が話しかける。


「最上殿も中々思い切られましたな。某は戦のない世に耐えられないのでこの国を出る事にしたのですが、どのような思いで出られることをお決めになったので?」


「この世はまだまだ広いということを感じましたのでな、まだ見ぬ物に憧れたのです」


「なるほど、最上殿の見たいものがあると良いですな」


 義光が辞して後、一益は甥の前田慶次に義光のことを尋ねる。慶次はちゃっかり茶席に潜り込み義光と親しく話をしていたのだ。


「んーあの義光殿(おっさん)は古織(古田織部)と同類と感じたな」


「なんだ?茶人だというのか?」


「いやいや。叔父御、そうじゃない古織のような業の深い人物という意味だよ」


「業か、儂にはそうは見えんかったが其方の目にそう見えたのならそうなのだろうな。この航海に問題が出なければ良いが」


「あーそれは大丈夫だと思うぞ、業が深い所は古織と同じだが迷惑になる感じじゃ無いから、それにあのおっさんは面白そうだからな向こうで何をするのか楽しみだ」


「やれやれ、お前はそれだから又左(前田利家)の所には置けんのだ」


「叔父御もさりげなくひどいですな…」


一益が義光の事をやばい奴と認識するのは向こう(新大陸)についてからであった。



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【本編完結】三日月よ七難八苦を与えたまえ……いや無理です、許してください! ~山中鹿介だということに気が付いたけれどこれって詰んでないですか?~ @solt2016

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