第三十六幕 奥羽同盟
天正四年 会津黒川城
「ほほほほ、これほど兵が集まるとは、最初から此処にくればよかったのう」
「皆々大樹の御尊顔を拝し感動しておりますぞ、この勢いのままに御命じください。関八州を越えて西に攻め下れと、駿河・三河を落とし信長を討てと!」
「おお!皆々の忠義余は忘れぬぞ」
蘆名盛氏の追従に公方はご機嫌であった。
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「いかがですかな?大樹のご機嫌は?」
「操り人形としては良いな。征夷大将軍は。このみちのくが一つになったからな」
「ここに来られてから僅か一年でこれ程の兵が集うのは鎮守府大将軍北畠公以来ではありませぬか?」
「そうだな、安東・南部・伊達…名だたる家が公方の名の下に集まったわ」
盛氏が笑うと重臣の富田隆実が神妙な顔で答える。
「未だ最上から返事がありませんな」
「従わぬとなれば滅ぼすまでだが、奴の妹が伊達に嫁いでおる。伊達まで相手にしていては進軍に障りが出る。伊達に説得させておるから問題はなかろう」
「確かに、先陣は金上殿が越後に、北條には佐竹殿がもう動いている頃ですな」
「ああ、先ずは幸先良い勝利が欲しいところだな」
主従は緒戦の勝利を疑っていなかった。各方面万を超える兵が向かっていたからだ。
「ですが殿、思い切りになりましたな」
「儂はもう長くない、子も居らぬしこのまま朽ちるのは我慢ならなかったのよ。儂の後継は養子となるがそれを餌にするとどうだ、佐竹も伊達も乗ってきおった」
「御見事な調略、某感服いたしましたぞ」
「ふはははは、最後に一花咲かせたいものよ」
□
京師 妙覚寺
「蘆名か、これは面白いところに行ったものよ」
信長は元公方蜂起を伝えに来た羽柴秀吉と改名した藤吉郎に向かって笑った。
「ですが東北の大名たちは大も小もこぞって集いその数は十五万を越えるとか、三十万と呼号して越後、上野、武蔵に侵攻しております」
「上杉、北條、武田を攻めるというわけか」
「既に上杉らの兵も出陣しており対峙しているとか」
「ふむ、奴らで潰しあってくれれば重畳だが、それでは面白くないな。北條・武田に味方して東国を攻め取るのも悪くない」
彼の手元には武田と北條から救援を求める手紙が届いていた。武田との和睦の後北條も織田家との友好を求めてきておりそれが成ったばかりであった。更に信長はある人物からの建策により朝廷に対して全国静謐の詔を求めそれを得ていた。内容は国内での私戦は許さず戦を仕掛けた者は朝敵として成敗されると言うものであった。
この頃信長は大納言兼任で右近衛大将に任ぜられており朝廷より天下人と認められたことを示す為に詔を得たのであった。
「よし! 詔に背く者は朝敵である! 藤吉郎! 兵を集めい! 蘆名共を討つ!」
「ははっ!」
既に備前の宇喜田を降し但馬・丹波を押さえた秀吉は更に功名を上げる機会が訪れたと意気込む。
「くくく、義昭よ、獲物を集めてきてくれるとは勢子としては見事な働き、天下を平らげた後には褒美をやらねばなるまいて」
嬉しそうに信長は笑いながら考える。あの男はどう動くかを、この期に乗じて何をしでかすかを。
□
和泉国 堺 鴻池支店
蘆名か、意外な所が出てきたな、実は東北の方は前世の知識が少ないんだ、確か伊達政宗と戦った家という認識しかないんだよな。
「えん、蘆名って忍びなんて雇っていたのか?」
「多分自前の忍びではないと思う、修験者の集団に依頼したのかも、出羽三山に蔵王権現、修験者の集う場所は多いからね」
この時代忍者と言っても本業は修験者や歩き巫女、そして鉢屋や風魔等のように芸能や遊芸の世界の連中が其の職業柄の特技を見出されて使われた物に過ぎないからな。
「元公方の誘いを蹴った上杉・武田・北條はどうなるんだろう?」
咲が聞いてくるがこんな事は考えた事が無かったよ。
「謙信殿と信頼殿も氏政殿も簡単にやられはしないさ。後は信長殿がどう動くかだ」
幸い四国も光秀殿が治めているし、紀州も鎮まっている。問題なく動けるだろう。
「京に行く。信長殿に会うぞ」
大きな戦はこれで終わるかもしれないな。最も飛び切りの大戦(おおいくさ)にはなりそうだが。
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