第7話 潮の香りと海辺の街
Side:食糧チーム
――日が差し込む海辺。
波打ち際を歩く4人の少女たちの足元を、白く泡立つ波がさらう。
先ほどの廃墟の都市から、美羽が最初に翔花達と会った海に、未桜、美羽、優、灯 の4人で戻ってきた。
目の前には、キラキラと輝く青い海が広がっていた。
「……魚、けっこういるじゃん」
未桜が眩しそうに目を細めて、潮風に揺れる髪を押さえる。
美羽は靴と靴下を脱いで波に足を入れた。
「やっぱり、神奈川の海も好きだけど、ここの海はホントに綺麗だよー!!」
「そうね、ホントきれい……だけど、獲るとなると話は別ね」
灯が少し笑いながら、近くに落ちていた木の枝を手に取る。
薙刀部で鍛えた手つきで、その重さとバランスを確かめるようにくるくると回した。
「この枝はちょっと…柔らかすぎかも。もっと硬めの枝を探さないと」
未桜が来た道の端に落ちていた黒い木の棒を左手に取り、ブンッと振った。竹刀より軽いためか、風を切る音が鋭く響いた。
「これ、硬さもいいし、使えるかも。削れば、簡易的な
「うち、カッター持ってるよ〜!」
優がスッと学生鞄を開け、中からボランティア部の活動で使っていたカッターと大きなゴミ袋を取り出した。
「いつも鞄にいれてんの?」
美羽が驚いた顔で優をみた。
「うち、ボランティア部なんやけど、受験勉強の合間に結構ボランティアとかいくんよ。ごみ拾いとかまとめる作業とか多いから、道具はいつも入れといてる」
「へー!部活まだ参加してるの偉いね!!私は大会終わってから竹刀もたまにしか握らなくなったなぁ」
美羽が硬めの木の棒を探しながらいう。
優は少し決まりの悪そうな表情をした。
「いやぁ…ほら、内申点とか…大事やん…?」
「あ、そっち!?」
そんな他愛もない会話をしながら、未桜、美羽、灯はそれぞれちょうど良さそうな枝を見つけた。
「拾ってきた枝、削ればいけそう。火があれば更に強度が増すらしいけれど、今はないから太陽光で代用しましょう」
3人は器用に木の先端を削り出す。
灯がたまたま最近読んだという、サバイバルの小説で見た知識を元に日光の下に暫く置き、いよいよ魚捕りが始まった。
思いのほか簡易的な
――ぴしゃっ!
「あ!逃げられた!」
未桜の突いた棒が水を切ったが、魚は素早く逃げていった。
「マジ!?思ったよりはやい!!」
何度も未桜は挑戦し、何度目かの突きで、ぴしゃりと命中した。
「っしゃ!!!やった!!!優ー!!袋にいれて!!」
未桜が興奮した声をあげて、跳ねる魚を袋へ放り込む。
「未桜すごいやん!!一匹ゲットだね!!」
優が感嘆の声を上げる。
その時、美羽が手をパンッと叩いて声をあげた。
「ねえねえ!一人一人やるのもいいけど、3人がかりで獲ったほうが上手くいきそうじゃない?
私が魚を目で追うから、灯が突いて、逃げたらすぐ未桜が突く!って感じで!」
「いいと思う。それでやってみましょう」
灯が頷き、未桜の元へ近づいた。
「あ!灯!魚そっちいったよ!!」
美羽が魚を目で追って声を上げる。
灯が静かに素早く突き、逃げた魚は、未桜は豪快に確実に魚を突いていく。
そして優が袋を押さえ、美羽が次の魚の動きを見張る。
「わぁっ!!」
途中、優が魚を袋へ入れようと前のめりになり過ぎて、海に落ちそうになる。すんでの所で何とか踏みとどまった。袋に入った魚たちがバシャバシャと音を立てる。
「優ー!大丈夫〜?海に突っ込んだらその辺で乾かすしかないよー!」
未桜が笑いながら言う。
「絶対突っ込まへん!!」
初めての魚捕りで苦戦する中、4人はそれでも時折笑顔を見せながら、懸命に魚捕りを続けた。
打ち解ける雰囲気と相まって、連携はどんどんスムーズになっていった。
「もう…これ以上は、重くて運べんかもね」
優が袋を手で持ち上げながら息をつく。
みんなで顔を見合わせ、次の一手を考える。
「魚以外にも、何か食べられるものあるかもしれない。探してみましょう」
灯の言葉に美羽が頷いて道を指を差す。
「今来た道がここで、あそこが私と翔花達が会ったときに、翔花が飛び出してきた道。もう一つ行ったことない道があっちの方にあったから、そっちに行ってみる?」
4人は頷き、まだ行ったことない道の方へ進んでいった。
「この辺にも、さっきみたいな街とかあるんやろか?」
優があたりを見回しながら言う。
「さぁ…でもとても広そうな島だし、街があったとしたらあそこだけ、っていうのは考えにくいかもね」
灯も周りにある木々を見ながら、静かな声で話す。
「あ…!!!みて!!!」
美羽が突然走り出した。その先には、海風にさらされた朽ちた門が姿を現した。
白い塩がこびりついた門扉は錆びつき、ギィギィと音を立てて開いていた。
「街あったね!!」
美羽が嬉しそうに両手を握って皆を振り向く。
「ここ…なんやろか」
「雰囲気、全然違うよね、さっきの街とは。なんていうか…お店…?露店みたいな感じ」
未桜が門を越えて歩き出しながら、つぶやく。
門の奥には、石畳が続き、かつての露店らしき屋台の残骸や、古い看板、樽のようなものが転がっていた。
「ここ…海にも近いし貿易とか、商売してたところなのかもね…」
灯が屈み込み、樽の中をのぞく。
「食べ物、あるかな!あ、でも、あっても腐ってるかも…」
美羽が不安そうに呟いたその瞬間――
ぐわん、と胸の奥が波打つようなざわざわといた感覚が、美羽を襲った。指先が微かに冷たく、心臓が跳ね上がる。
―私ここ、知ってる…?―
見たこともないはずの景色。なのに、“懐かしい”としか思えなかった。
8人が集まった街でで霞が言っていた、あの言葉が頭をよぎる。
『ここ…知ってるわ…』
「……わかったかもしれない、霞の言ってた意味」
美羽が立ち止まり、ぼんやりと街の奥を見つめた。
「ここ、私……来たことある。はず、ないのに」
その声に、未桜と灯が足を止めた。
「どういう意味?」
「わかんない。でも、なにか覚えてる感じ……。さっきの海にいた時も、この街を見た時も、嬉しくて嬉しくて仕方なかったんだよね…。前に、ここで何かしてた気がする。……夢、なのかな」
潮風が優しく4人の頬を撫で、少し傾いた日差しが暖かく街並みを照らしていた。
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