最期の一噛み

@yacora

最後の一噛み


柔らかい

草を喰むのも

もう飽いた

ガゼルが角を

牙にするとき


あどけない

少女はそして

人に成る

飴玉がりりと

噛み砕き


首筋の

小さな火傷

昨晩の

貴方の痕跡

線香花火


口開けて

ぺろりと丸呑み

デスロール

噛まれた方の

気持ち知らぬまま


退化した

犬歯をあなたに

突き立てる

もう大丈夫

行ってもいいよ


口は開けた

最期のつもりで

それでもなお

見詰める瞳に

震える牙


耳を噛まれ

愛の言葉も

聞こえない

歯型の穴に

ダイヤモンドのピアス


君がいない

噛み締めるたび

痛む目の奥

擦り切れた奥歯

過ぎていた日々


置いて行った

指輪は火曜に

出しといて

いつかは消える

薬指の噛み跡


裸になろうか

恥ずかしくはない

幾つもの

噛まれた跡を

刺青にして



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最期の一噛み @yacora

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画