渦巻く心
あぁそうか。
何度もここで会ったのは、同じ人に会いに来ていたからだったんだ。
みさき先生の好きな人は先生?
どうして?
どこでどう出会って、みさき先生は先生のことを好きになったの?
もしかして付き合っていたの?
「……」
今は?
「ただいま」
気が付かなかった、先生が帰ってくる音に。
「どうかした?」
先生を疑うような気持ちはない。
だけどどうしてこんなに
「かなちゃん早かったね
僕の方が早く帰れるかと思ったけど」
顔が見れないの?
「な…なんでもない!」
なんでもない。
だってなんでもないじゃん。
みさき先生の好きな人が、たまたま先生だった。
みさき先生と同じ匂いのルームスプレーをたまたま先生が持っていた。
「……」
これはなんでもないこと?
「かなちゃんお腹すいたよね。
チーズハンバーグが美味しそうだったから」
「うん…」
なんでもないと思いながら、いつも通りに先生と過ごすことはできなかった。
見なければよかった。
あの小さなモニターにみさき先生の姿を見なければ、楽しくお泊まりできたのに。
「かなちゃんお風呂どうぞ」
「うん」
聞いたら教えてくれるのかな。
みさき先生とどういう関係なのかって。
だけどそれを知って私はどうするの?
なにかを疑うの?
事実を知らないから、考えたってなにも出口はない。
なのに考えずにいられない。
先生に正解を聞く以外、この気持ちの解決方法はない。
「あ、上がった?」
「うん…お先に」
「僕も入ってくるね」
ポンと頭を撫で、先生はお風呂へ行った。
私は何を確認したかったのか
あのルームスプレーをもう一度シュッと振った。
やっぱりみさき先生の匂いがした。
「あれ?かなちゃんもう寝るの?」
「うん、疲れちゃった」
先生がお風呂から出てくる前に、カメを抱っこしてベッドに入った。
ドキドキしてウキウキして楽しいはずだった時間。
知らないふりしてそうすることはできなかった。
「そっか」
足音がベッドサイドまで来た。
「僕はもう少し仕事してから寝るね」
「うん」
「おやすみ」
背中の向こうでドアが閉まり、寝室は小さい灯だけに閉ざされてしまった。
思わず起き上がり後を追いそうになった。
拒否したのは私なのに。
出口のないことをぐるぐると考えているうちに眠っていた。
目が覚めたのは先生がベッドに来たから。
「ごめん、起こしちゃった?」
「ん…」zzz
先生の方に寝返りすると、先生の腕が背中に回った。
「先生…」
「ん?」
「私のこと好き?」
「好きだよ」
「どのくらい?」
「どのくらいって…」
何言ってるんだろ私。
「なんでもないの」
「どう言えばいいかわからないけど
かなちゃんが大好きだよ。
1日に何回もかなちゃんのこと考えてる」
「何を?」
「んー…いつ会えるかなとか
今授業中だろうなとか些細なこと」
「そっか」
わかってるの。
わかってるんだよ、先生が好きでいてくれてること。
みさき先生と何かあるのに、こんなことするような人じゃないのもわかってるの。
じゃあどうしてこんなにぐるぐると心が動いてるの?
泣きたくなるの?
「かなちゃんどうかした?」
「どうもしないよ」
この腕の中にずっといたい。
そう思った時、先生は私を離してしまう。
背中にあった腕は解かれ、布団を掛け直して先生は私の髪を撫でた。
「寝よっか、起こしてごめん」
離さないで欲しかった。
「おやすみなさい」
先生に背中を向けて目を閉じた。
先生の腕はもう一度引き寄せてはくれなかった。
ただ好きなだけでいいのに。
先生が私を好きで、私が先生を好きで。
それじゃダメなの?
知るべきだからこうなったの?
知った方がいいこと?
知らない方がいいこと?
知りたい。
知りたくない。
怖いの。
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