第5話 非公開(ホラー)

「ーー推しの小説家さんがいたんですけどね? 〇〇さんていう。未解決事件とか都市伝説とか、そういう、事実をもとにしたやつを上げてて、おもしろかったんですよ。

 でも、いちばん怖かったのは、〇〇さんが知り合いのTさんから聴いたっていう伝聞シリーズで。

 いや、痛いとか怖いとか、暴力的なのではないんですよ、切るとか刺すとか。そうじゃなくて、Tさんから聴いた毒親? 毒親の話をいくつか載せてたんです、ノイローゼになるまで同じこと言われるとか、髪型も服装も決められてて、門限は10時までだとか、父親がアル中で怒鳴るとか、母親がヒスでやばいやつだとか。

 なんでも、自宅に押しかけて、

『開けろおおおー!!』って叫ぶらしいすよ?

ドアバンバン叩いて。ガラス戸なんですって。もはやホラーですよね、怖くないすか?

 でもあるとき、その、Tさんの聴き書きってのが全部非公開になって、それだけ読めなくなっちゃったんですよ。ーー自分はそれが怖かったっすね。更新されてすぐに読んだんですけど、最新話が公開されてから1時間後には、全部非公開になってたんですよ。今までに公開してたやつもすべて。

 あたし、思うんですけど、実は、Tさんなんていなくて、全部、〇〇さん本人の体験だったりして、⋯⋯なんて。

 それからしばらく他のは更新してましたけど、ある日、アカウントごとまるごとなくなってたんですよね、〇〇さんの。

⋯⋯すごい惜しいことしたなあ、って思います。Xのアカも全部消えてて。

 なんか、アカウント全削除って自分は怖いんすよねー。なんか訳ありってゆーかあ? 人ひとりまるごといなくなっちゃう理由とかあるわけじゃないですか? そこだけ真空ってゆーか⋯⋯。

⋯⋯べつに親がクズだからって、仮に、仮にですよ? あたしはそのTさんが〇〇さんでも、ほんとにTさんがいたとしてもどっちでもいいんですけど、

クズに育てられたからその人が異常だとかクズになるとはかぎらないんじゃないですかね? 人はみな自由ってゆうか⋯⋯。あんま気にしすぎんな、っつうか。

 〇〇さん、好きだったんですけどねえー。また復活してくんないすかねえー。

 ときどき今もやっぱ、検索かけちゃうんですけど、出てこないんすよねー、残念です」




※この物語はフィクションです。

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