第128話

これといって娯楽のない異世界。

飯を食ったら寝るしか、やることはない。


それでは寂しいので、おっさんはオモチャを作ってみた。


冒険者ギルドの建築中に出た、

建材になり得ない木端ゴミ


これを、ぴっちりとサイズを合わせ加工し、

敢えてカンナをかけコンマ数ミリ程度、歪ませ。


積み木ジェンガを作った。


しかもフレコン数袋と大量に。


それを、おっさんは…

まず仮設足場をグルリと設置し、

3階建ての雑居ビル程度のタワーを積み木で組み上げた。


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そしてゲームは始まるのだが、

恐ろしい事にこの積み木、

継ぎ目がほとんど見えないのである。

簡単に言えば、絹ごし豆腐で出来ているビル。

である。


そよ風にもプルプルと震え、非常に不安定。


トゥエラは珍しく真剣な顔で指をツンツンしている。

「むーー?むーー?」

テティスには魔法禁止令を出しているので、

かなり苦戦している。

「マなしとかマ?あーしの個性死んでるんですけど〜」

そんな中、リリはヒョイヒョイと小さな石材QBチーズを抜いていく。


身体能力ではおっさんにも劣る、受付嬢であるのだが、

偽装や虚偽看破などは得意分野らしく、

みるみるとタワーを穴だらけにしてゆく。


おっさんは満足げに足を組み、

足場の天辺てっぺんから携帯で動画撮影し、

酒を呑みつつ、家族を眺めていた。


トゥエラとテティスは、共通の敵を見つけたようで、

協力しながらブロックを抜いている。

外せた石材は、頂上に再設置する。

というルールに従い、頭部分が重くなり、さらに不安定さを増し…


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そろそろ倒壊するんだっぺか?と思いきや——


こいつら……いや、この石材たち。


呼吸し、肌を合わせ、

わずかな歪みすらも許容し、互いに支え合っている。


——共存してやがる。


おっさんは建築中、この資材に

『ストーンウッド』と名を付けた。


安直な命名ではある。だがそれ以外に、

この素材を表す言葉など存在しなかった。


そして、ただの玩具として積まれたこの石材たちは……


まるで、切り口に接木つぎきされた植物のように——

静かに、そして確かに……根を張り始めたのだった。


「……これじゃ、ゲームになんねっぺな〜」


そう言って、おっさんは足場を解体しながら苦笑い。


足元では、外したブロックたちが、まだ微かに身を寄せ合っていた。


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以前、おっさんはホビット達と建てた冒険者ギルドについて、

一級建築士としての知識と技能を用いて、

構造上の強度計算をこころみてみた。


あれほど広い建物なのに、

屋根や梁を支える為の屋内の柱が——明らかに少なすぎたからだ。


まぁ異世界だし、

地震や台風なんて想定しとらんのだっぺか?

そんなふうに最初は思っていた。


……だが、どうやら違ったようだ。


一個一個は、手で運べるブロック程度の大きさ。

それを緻密に加工し、継ぎ目すら消えるように積み重ね、

そしてさらに——素材同士が「根を張る」ともなれば。


もし、この石材だけで“島と島”を繋ぐ吊り橋を作ったとしても、

その強度は——おっさんが保証してもいいような気がしてきた。


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こりゃ、うちに帰ってからの自宅の設計も、

見直さねばならんなぁ。と、難しくも嬉しい悩みを抱えながら、車を走らせていた。


視界には幾分か前から、何度も小川を見ている。


多方向に流れていた綺麗な支流は、追っていけば、

恐らくどこかで大河になるのであろうが、

まだそれは見つかっていない。


それよりも…


不思議なものが見える。

車で入れば間違いなくスタック埋まって故障するであろう、

チョロチョロと流れる、細いせせらぎに沿って、

一段窪んだ沼地の様なエリアに、稲穂が実っている。


ホビット族の街からも大分離れたこんな地で、

一体誰が田んぼを管理しているのだろう?

ワクワクしながら車を寄せて、観察して見ると。


……どうやら人が植えたものでは無い。

というか、稲ですら無かった。


沼地から生えたヒョロっとした茎のような雑草に、芋虫稲虫たかっているのだ。


見た目は米そっくりな、フランクフルト程の芋虫。

おっさんは、毒を警戒しゴム手袋を装着した上で、

うごめく生物を獲ってみる。

噛んだり刺したりしてくるわけでもない、

だが、その虫はなぜか…アツアツだった。


果物ナイフでスッと斬ってみると……

中からチャーハンが出てきた。

湯気を上げ、出来立てでだ。


異世界の理不尽さにも大概慣れたおっさんは、

躊躇うこともなく、箸で虫の中身を摘み食ってみる。


「焦がしネギとマー油香る焼飯け」


何匹か採取し、家族達も呼び寄せ昼食にした。

スプーンでこそいで皿に盛ってしまえば、

それが虫だったとは誰にも判らない。


さらに、オマケで極細ノズルのボトルに保管した、

ゴブリンの脳髄マヨネーズをトッピングし、出してやると。


最近は舌の肥えてきた娘達も大絶賛。


お替わりを所望された。


おっさんは|胴長靴を着込み、ズブズブと田んぼを歩く。


大方の予想はついていたが、見た目の違う芋虫を数匹獲って戻ると、


人肌の酢飯、焼き目の入った卵リゾット、おかゆ。なんでもありだった。


適当な鮮魚の切り身で寿司を握ってやったり、

リゾットにチーズとマカロニを乗せ焼き直しドリアにしてやったりと、大忙しであった。


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こんな便利な虫ならば、捕獲しとかねばならんな…と、

おっさんは使い慣れたフレフレキシブルコンコンポジットバッグに、油性マジックで…

『保温、死亡、腐敗禁止』

と…無茶な管理指示を書き込み、

芋虫を満タンに詰め込んでゆく。


種類別に何袋も、白米、釜飯、ビビンバ、カルビクッパ、キンパ飯、ちまきご飯、ちらし寿司、雑炊、などなど…


大量の米料理をゲットしたのであった。

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