第127話
おっさんと親方は、真剣な顔で、
二階の部屋に上がるための、螺旋階段などを手掛けていた。
そんなある日、沢山の馬車に乗った見慣れない人族が、この街を訪れた。
何処かで見たことがあるような、軍人風のおっさんもいる。
すると背中に、「
とリリが抱きついてきた。
こんな人前で小っ恥ずかしいべ。
と照れていると、
パイナップルみたいな頭の軍人に固い握手をされたり、
いろいろと事態が動き始めた。
「ここ冒険者ギルドだったんけ?」
どうやら、おっさんが半年くらいの時間をかけ、
継ぎ目の見えない石を積んで建てた、
商店風の大きな現場は、
リリが
王都や港町とも連絡を取り合い、
人員も円滑に補充された、
冒険者ギルドだったらしい。
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おっさんにとってはどうでも良い話なのだが、
おっさんの立場は、王族達の中では、
そりゃ、王城が二つ建つほどの献金を、
ポンと寄越されて、行方不明になられては…
王都で小狡い事をして、
クリーンで誰もが住み良い都市と成長しつつあるのだと、
リリが喋っていた。
そして、既視感のあるパイナップルは、
なんと港町にいた冒険者ギルドのギルドマスターだったようだ。
おっさんが手掛けたスパリゾートも順調で、
育てて送り込んだ、ファイアーダンサー達も大人気だそうだ。
ラッキーアイランドは連日が満員御礼で、
出会い、愛を育み、新しい命もたくさん芽生え、
港町自体を拡張せねばならないほどの大盛況だそうだ。
なので、後任のギルドマスターを育てて、街の事業を全て任せられるようになった所で、
リリからの国内ギルド、
新たな種を蒔き、木を生やすために
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──大工は大体誰でもそうだが、
現場が完成し、道具を片付けて、
出て行く時が一番寂しい。
もう、ここは腕を振るえる現場ではなく…
お客様の住む為の家となってしまうから。
自分の居場所は、次の現場にしかない。
苦労した、難しかった現場なら尚更、
その思い入れが強い。
道具は一瞬で腰袋に吸い込まれ、
「……いい建物だっぺな。」
誰に言うでもなく、ぽつりと呟くおっさんの声は、
石の壁に、優しく吸い込まれていった。
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ダブルモノクルの不動産屋は、捕まったそうだ。
そして、
おっさんに物になったらしい。
この街特産の謎石材を、いたく気に入ったおっさんは、
パネルを解体して、自宅でも建てるべか。
と、図面を描き始めるのであった。
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リリの、ギルド運営開始までの繁忙期は落ち着いたらしく、
家でのんびりする日々が増えた。
それでも偶に、重要な連絡事項などがあるのか、突然立ち上がり、メガネを真っ白に曇らせたかと思うと、
ピーーーーーーーー……
ヒョロヒョロ……ギャァァァァァァ……
ピー……ッ ピー……ッ プスン。
と異音を発していたりする。
おっさん専属の受付嬢は、
おっさんが冒険をしなければ、基本的には無職になってしまうらしい。
それでは可哀想かと思い、おっさんはギルドにもたまに顔を出す事にした。
王都の時の様に、貴族や王族に絡まれるのは嫌なのだが、幸いなことにこの街の住人は、ほとんがホビット族だ。
警察の様な役職こそあれど、
貴賤の差は、あまり意味をなさない街だった。
──どうせ依頼掲示板を見ても、
【ヴェバブボンヴィ】とかしか書いてないのかと思いきや、
森での採集、山脈での狩り、職人募集などなど…
読める字体で書かれていた。
ホビット語は驚く事に、文学として学ばれており、訳せる者も一定数存在するらしい。
だが、おっさんと一緒に仕事をした職人連中だけは、
「か行」と「さ行」が増えてしまった為、
より難解な言語となり、識者達の頭を痛めているのだとか。
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仕事にもなって、食材の調達にもなる依頼と言えば、やはり狩りになるだろう。
おっさんに似合うかどうかは別として、
毎日ドラゴンばかり食うわけにもいかない。
森や山脈、川や海なども数日の行路で目指せるらしい。
依頼書を受け取り、受領判をリリに押してもらい、家族を引き連れたおっさんは、
ピクニックに出発する事にした。
とりあえず遠目に見える山脈を目指す。
天気も視界も良好で、この街にたどり着いた時のような異常気象も起こらない。
山脈までのルートの途中に、川も森もあるそうだ。
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久々の遠出に、車内は盛り上がっていた。
リリがなにやら小汚い紙切れを、
おっさんに
「もう、捨てたり無くしたり、
なさらないでくださいませ。」と。
運転中なのでそれとなく見るのだが、
昔の免許証サイズの、和紙のような、
解りやすい例えだと、
古ぼけた宝の地図?のような紙。
おっさんがそれを認識すると…
急に車内にBGMが流れ始める。
ちょっとめんどくさそうだったので、車を停めて経過を待つと…
「べベン!」と三味線風のギタリストさんが加わり、
「ぷぉ〜〜」と、
ザルを被っていそうな人の
急に車内に…
ダダダダダン!!と
カッコオォォォン!と
おっさんの持っている和紙に文字と模様が浮かび上がった。
「演出長いんでねーべか?」
御簾がロールスクリーンみたいにカラカラと巻き上げられた先に居たのは…
みたいな人が、ニコニコと微笑みを浮かべ、
車内が
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「これが、この世界の最高の冒険者様の
称号で有らせられる、キングスカードで御座います。」
リリが光悦した表情で説明してくれるが、
「食べ放題の焼肉屋かよ…」と
おっさんは微妙な表情。
まぁ、尻から虹色の屁が出るよりはマシだと思い、財布に仕舞う。
ガチャやパチンコの画面など見たことのない娘達は、
驚き、歓喜しはぐしゃれていた。
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安全運転で、ゴブリンを跳ねたり、回収したりしながら旅路を進め、綺麗な小川が見えてきた辺りで、キャンプを張る事にした。
ゴブリンは捨てるとこが無いと言われる程優秀な食材である。
まぁ言っているのはおっさんだけなのであるが、
魔女みたいに伸びた不気味な鼻は、
香り高いニンニクになるし、
不衛生に見える尖った爪は、
刻めばみょうがの味わいで。
血を抜けば、ドロっとした高級ケチャップだし、
肉は砂肝のような味だが…
骨も良い出汁が出る。
あまり使う機会はないが、睾丸を斬れば、
濃厚なココナッツミルクも出てくる。
トゥエラの喜びそうな、
パイナップルを加えたピザを焼いた時などは、
甘く濃厚で大好評であった。
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今日の晩飯は、轢きたてで新鮮なゴブリンを使い、
濃厚ナポリタンを作ってみた。
常識があれば避けるところであるが、
その横に
味付けを変え、
ライスはバターたっぷりに誂えたことで、
家族達はライスをオカズにパスタを啜るという、
動画で配信したら炎上しそうなディナーとなった。
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