ムジカク少女はネバギバ男子に××する～小五からはじまる甘恋語

Story 41. うけとった思惑

――！　抱きあってる？

　と眉をひそめていぶかるが、

――！　あれか……

　と思いあたった。

「富（とみ）永（なが）が立ちくらみで倒れそうになった――アレか」

「立ちくらみ？」

「しばらくすわってたろ、立とうとしたらフラって」

「ふうん……」

　と歩（ほ）邑（むら）はいちおう納得したふうの返事をして――近くにあった、天然のスツールみたいな岩に腰かけた。

　そんなふるまいが、薫（かおる）には歩邑が不機嫌になったように思えて、

――怒ってんのか……

　と若（じゃっ）干（かん）あせった。

「ウ、ウソじゃないって」

「知ってる。薫はそんなウソつかない」

「そか……よかった」

　歩邑がボソッといった。

「よくない……」

――？ ？ ？

　なにがよくないのか薫には見当もつかなかったが、なんだか歩邑が泣きだしそうな気がして――よびかけた。

「皆（みな）川（がわ）――？」

「疲れちゃったな……」

　声がふるえていた。

――いわんこっちゃない……

　いつもの薫なら――予想どおりになったことで、歩邑にイヤミのひとつでもあびせるところだ。しかし山登りというイベントのさなかの今日は、支えてあげなきゃ――と、いまいちど気をひきしめた。

「もどらないとだね……」

　と歩邑は、いいきかせるようにつづけた。

――あんま元気ないのか……

　などと思案していると、お願いされた。

「……薫、起こして」

「あ、うん――」

　と、なにげなく応じて――歩邑のそばへ。

　見上げた歩邑が、両脇をすこしひろげる。

　思わずフッと、

「ちっちゃい子供みたいだな」

　ほほ笑ましくて、つい口にしてしまった。

　ぷうと頬（ほお）をふくらませる歩邑。

「子供だもん……」

　とだけいって、プイッとそっぽを向く。

――いつもはカッコイイ皆川が……

　スポーツ万能で、すっごい美人で、カッコイイ皆川が……

　歩邑を直視できずに、薫も顔をそむけた。

――かわいすぎるだろ……

　ってか、ぼくに……甘えてる？

　ちいさく咳（せき）払（ばら）いした。

「起こすぞ――」

　歩邑がコクッと首をタテにふる。

　足をひらいた薫は、腰をおとし――

「そーれっ！」

　想像よりずっと軽やかに、タン！　と立ちあがった。

「んじゃ、もど――」

　バサッ――

――ンん……？

　つつみこまれるような感覚。

――なんだ……？

　声がきこえた。すぐ近くで。

「……ち……み」

　吐（と）息（いき）とともに耳にかかる。

　歩邑のささやきが。

「……立ちくらみだよ」

――！

　心臓が止まりそうなくらい驚いた。

　ドクン!!――

　鼻歌まじりに誠（せい）也（や）が展望台に帰ってきた。

「っただきまー、ちがう！　ただいまー」

「あっれ～、歩邑ちゃんとモッチは？」

「おおっ!?」

　村（むら）瀬（せ）の質問に、誠也はわかりやすく動揺した。

　木（き）崎（ざき）がえんりょなくツッコむ。

「そのリアクションは、なくね？」

「いやー、サンドイッチのことであたまがいっぱいで――」

「わすれてたんだー」

「めんぼくない」

　ひまりのストレートで三球三振にしとめる。

　ご飯のことであたまがいっぱいになると、誠也はまわりが目に入らなくなってしまうらしい。お菓子にとらわれたひまり――の同類か。

　がやがやと誠也をかこんでおしゃべりしていると、くだんのふたりも帰ってきた。

「なんだ、なんだ～？」

　いかにも興味ぶかそうに歩邑がきいた。

　村瀬がにっこりする。

「誠ちゃんに一〇〇の質問！」

「モッチ、助けてくれ――」

　と泣きつく誠也。木崎はようしゃない。

「レススキルあがったんじゃね？」

　いっぽうひまりは、おっとりスタイルをつらぬく。

「サンドイッチの具は、なにが好みー？」

「――た、たまご？」

「なぜに疑問形――」

　薫までが質問者にくわわろうかという誠也の大ピンチを――歩邑の天然が救った。

「てりやきチキン！　みんな食べないの～？」

　！――

　歩邑のそのひと言（こと）で思いだした五人。

「はらペコった～」

「食べようぜ」

「ベンチの上でいいかな～？」

「このへんに――」

「具はなにかなー？」

「当てっこすっか」

　ワイワイがやがや――

　一〇時のおやつには遅すぎ、昼食には早すぎる――軽食タイムがやってきた。