Story 40. ふみだした挑戦

 グゥゥ――


 食料をよこせと胃袋がさわぐ。せいの。


「うちのサンドイッチ、ねらってるっしょ~」

「めぐんでくんない?」

むらちゃんたちがくるまで、ダ~メ」


 リチギなむらはゆずらない。


 ち~ん――


 と、まるでコントのように、誠也は大げさにうなだれた。




「いっちばーん」「いっちばーん」


 歩邑とひまりが、なかよく展望台に到着した。

 階段をふり返ってニヤニヤ&ニコニコする。


 ガッシャ、ガッシャ、ガッシャ――


「おまえら~」


 みると左右の肩にひとつずつ、荷物をさげたかおるがのぼってくる。

 こめかみにいかりマークが――浮いている?


――すこしは元気になったみたいだな……


 歩邑とひまりが手をさしのべた。

 薫をひっぱりあげる――ためではなく、じぶんのカバンをうけとるために。

 薫の手が、むなしくくうをつかむ。


――ぐむー


「感謝だよ」「サンクス」

「さんばーん……」


 と落胆をみごとに全身で体現して――薫がのぼりきった。

 誠也がにこやかに、ねぎらう。


「おつかれさん」




 軽食をじゅんびしていたのは村瀬だけではなかった。

 歩邑がママ――パン職人であるママの特製サンドイッチを、薫がおにぎりをもってきていた。


 誠也がりきせつする。

 いますぐ食べたいのがほんだが、ハラがふくれると動けなくなってしまう。そこで――まずは数分でいける山頂を攻略し、もどってからみんなで食べよう、と。


「うち、のこる~」

「オレも」「わたしも」


 と村瀬・ざき・ひまりは待機をきぼうした。

 下山にひつようなスタミナを考えたのなら、賢明な判断だろう。


「そいじゃ、いきますか」


 薫と歩邑がうなずく。

 誠也がつけくわえた。


「一〇分たっても、もどんなかったら――先、食べて」

「はーい! 気をつけてね」


 と村瀬がちいさく手をふる。


よめかよ」


 木崎のツッコミに――村瀬は「うひひ」と、ちらり歯をのぞかせた。




「べっぴんさんせいー!」


 と誠也がたけびをあげる。

 登頂メンバーは、あっというまにテッペンにたどりついた。


「ってか、ここがいちばん高い?」

「なんかビミョーだよ」


 薫と歩邑は不満げだ。

 山頂をしめすくいみたいな標識が、林のなかの――ほんのちょっぴり高いだけの場所に、つきたてられているのが原因だろう。

 われらが誠也は――その標識をぐるっとまわると、


「メシメシ~♪」


 と上機嫌で、ひとり展望台にひき返していった。

 あっけにとられる歩邑と薫。


「サンドイッチに操られてる?」

「ぼくら……わすれられてる?」


 ハッと気づいた歩邑の――肩にちからが入った。


「あ、あのさ……」




 たっぷり休んだ木崎は元気をとりもどしていた。

 ポッケからひょいとスマホをとりだしていった。


「なあなあ、写真とらねえ?」

「なんでアンタと……」


 と村瀬がクレームをつける。


「記念だよ、キ・ネ・ン」

「せっかくだもんねー」


 ひまりの援護がいた。

 山からのちょうぼうをバックに、三人で記念撮影する。


 カシャシャシャシャシャ――


「一枚ぐらい、いいのが撮れんだろ」

「貸して」


 木崎のスマホをうばうと、村瀬は写りのチェックをはじめた。

 ひまりものぞきこんで、


はんは消してー」


 と楽しそうだ。




 薫の口からききたい――と思った。

 ふたりきりの、いましかない――と思った。

 薫とひまりの態度がふだんと変わらないことが――あのハグを気にとめなくていい、じゅうぶんすぎる証拠なのかもしれないけれど。

 歩邑がおずおずと口をひらいた。


「あのさ……見ちゃった……」


――なにを?


 とでもいいたげに、薫はキョトンとしている。

 歩邑はひとしきりモジモジしてから、つぶやいた。


「抱きあってるとこ……ひまりと……」


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