Story 20. 思いがけない参戦

「ひきつづき、第二部おやつタイムでーす」


 宣言とともにドッサリつみあげて、おやつをシェアした。

 ひまりは持参品をほおばり、しあわせをかみしめている。

 は駄菓子屋をオープンして、かおるにアピールした。


「あら、ボク。いらっしゃい」

「店のおばちゃんかよ――てか、くださいなー」

「ほら、どれにする~?」


 なんだかんだと乗ってやる薫はやさしい。


「ンん、マシュマロを――」

「おっと、予約ずみだった。ごめーん」


 佳奈は「ほれ」とむらにわたす。

 覚えててくれたんだ――と歩邑はよろこんで手をだした。


「じゃ、これ――」


 佳奈が「ん?」という表情で――いま食べたのは、薫がえらぼうとしたチョコだった。歩邑はチリタコスを開けようとしている。


「なら、こっちの――」


 佳奈が――またしても口に放りこんだ。

 そうしておいて薫に、不敵な笑みをおくる。

 いつもながら、からかいがいのある薫――と。


「お、ま、え」

「あっというまに売り切れ! 閉店――」


 こらえきれない薫がいった。


「いいや限界だ、押すね」


 パカッと水筒がひらき、「飲まずにやってられっか」と笑いを誘った。



  △ △ △



「ふーっ、ふーっ、ふしゅー」

「面白かった~」


 興奮のおさまらないひまりと、ひまりの反応リアクションを楽しんだ佳奈が“ねったい”エリアからでてきた。すこしおくれて薫と歩邑も。


――いきなり離していいのか?

 ひま佳奈コンビにみつかっても気まずいし……


 などと考えているうちに出口をすぎてしまった薫。

 歩邑も似たようなことを考えていた。


――もっとつないでたいな。恋人つなぎは……


 離す、あるいはつなぐ――と思考のベクトルは正反対だったが。

 ちなみに恋人つなぎとは、たがいの指をからませたつなぎかたである。


 歩邑はむすんだ手に、ギュッと力をこめた。

 ささやくように「ありがと」と耳打ちすると、名残なごりしそうに手をゆっくりとひらいてコンビのもとへ走る。


「つぎは“さるさる”エリアだってー」

「おー! 見にいくぞサルー」


 薫は右耳をおさえてほおを赤らめていた。



  ▽ ▽ ▽



 おのおの好きなポーズをとった記念撮影も難なくおわり、動物園に別れをつげた五年二組がバスにゆられている。


 車内は――ずいぶんと静かだった。

 半数ほどは元気をつかいはたして夢の世界をたずね、のこる半数の多くは車窓をながめていた。

 しゃべっている子供たちも配慮からかボリュームをしぼっている。


 歩邑は朝と同じ席にこしかけ、なんとなく景色をみていた――




 佳境をむかえたおやつタイムは、ちょっぴり刺激的だった。


「いちごミルク、ちょーだい」


 いちばん近い薫がトレーごともちあげ、さしだした。

 佳奈は「サンキュ」とひとつつまんで今度は、


「ポツキー、ちょーだい」


 とみぎどなりの歩邑のほうを向く。


 いままさに食べようとしていた歩邑は、それじゃあ――といっぽうの端を口にくわえ、つまんでいた手をはなした。

 ポツキーをピンとたてて、どうぞの意思をしめす。


 いきなりのポツキー対決。


「ぜんぶとっちゃる」


 そろそろと顔を近づけた佳奈は、もういっぽうの端をくわえるとみせかけて一気に引きぬく――いや、ぬけなかった。


――残念でした! おみとおしだよ~


 がっちりロックしていた。

 佳奈は「おぬしやるな」と称賛して、ぽきり折りとる。

 歩邑は「にひひ」とご満悦だ。


「勝ち負けってあんの?」

「とーぜん! 長いほうが勝ち」


 薫のギモンに答えたのは佳奈だ。

 ちなみに折れるしょは――より力を入れたがわのそばである。


「で、いまのは?」

「うちの勝ち」「あたしの勝ち」

「引き分けだねー」


 旅先だからか、いつにもまして大胆な歩邑が――不純なくわだてをめぐらせていた。


――薫も誘っちゃおうか、ポツキーゲーム。

 どんなふうに誘えば自然かな……


 想像だけで歩邑のドキドキが止まらない。



 第二対決は、ひまりの「わたしもやりたい」発言ではじまった。

 クラスを代表する美少女ふたりが、身を乗りだして一本のポツキーをくわえている。

 歩邑に大接近したひまりの顔が、じわりじわりとさらに近づく。


「くっついちゃうかもよー?」

「へーきだよ」


――女の子どうしだもん。

 ちゅーしちゃってもへーき!


 もし……薫だったら?


 妄想で歩邑がうろたえるより先に、いま一歩を欲ばったひまりが――パキと折ってしまった。おやおや。

 勝利した歩邑の耳にきこえてきたのは――照れくさそうな声だった。


「つぎはぼくだな……」


 名乗りをあげた薫はほおを染めていた。


――じぶんから……薫が?


 ドックン、ドックン、ドックン――


 はやがねを打つ歩邑の心臓が爆発しそうだ。


――ど、ど、ど、どうしよぉ……

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