夏の終わりに立って(令和7年8月)
夏の終わりはどこだろう?
バイパスを走る車の中、ふとした疑問を抱く。
遠映には入道雲が立っているが、もう既に夕暮れも深く覆い被さってきていた。
昨日で夏休みが終わった。
これは児童館近隣の小中学校の話。
私が義務教育を受けていた頃は夏休みの終わりと言えば8月31日だった。
夏休みの終わりと夏の終わりは思い出の中で重なる。
なんとか終わらせた宿題、庭で寝ている犬、窓から入ってくる生ぬるい風、台所で料理をする音、扇風機が送る風、午睡の微睡み。
それらはどこか懐かしく、そしてまた寂しい。
高校の夏休みはほぼ記憶にない。
多すぎる課題に連日の補習。
地方の進学校にありがちな詰め込みのおかげでなにもない休日期間は1週間ほどしかなかった。
そんな詰め込みから解放された大学では9月30日までが夏休みだった。
アルバイトに明け暮れ、それでいて暇な期間。
手に余るほどの自由とそれを使い余した怠惰。
甚平を着て下駄を履いて散歩した夕暮れ。
流石に空は秋を写し、どこからか微かな金木犀の匂いがしていた。
夏休みというものは不思議で、それから離れた社会人となってもなぜかやはり意識してしまう。
今の職に就く前、接客業をしていた頃、工場で朝も夜もなく二交代で働いていた頃、ふと夏休みの終わりを感じて、夏の終わりを感じて空を見ることがあった。
今年の夏休みを過ごした彼らにとって、どんな日々だっただろうか?
そんなことをあてもなく考えていた。
児童館の夏休みは忙しい。
朝から子どもの声がたえることはなく、狂乱に似た騒がしさの中で日々が過ぎる。
彼らにとってこの夏休みはどんな日々だっただろうか?
あの頃より少し夏休みが身近になった私にとって、それはどんな日々だっただろうか?
一日一日をしっかりと刻んでいるはずなのに、振り返ろうとするとそれは不思議と手から摺落ちるように曖昧になる。
彼らの夏は終わったのだろうか?
未だに暑い空気を振り払うように走る車内で考える。
今日から新学期が始まった。
明日から通常授業が始まる。
天気予報は向こう二週間の真夏日を教えていた。
私の夏はいつ終わったのだろうか?
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