胸を打つ、その瞬間。

みず

第1話

書いては消して、書いては消して。

目の前にある志望理由書は書き始めから一時間は経った今も白紙のままだ。


高校三年生の夏、外の空気も周りの空気も暑苦しくて、息が吸いずらい。この時期はもう部活動も引退しているため、全員が進路活動に精を出し、自分の進路と向き合っていた。

私は大学進学を目標にして、日々の勉学も学校生活も部活動も励んでいた。そのおかげか成績はそこそこであり、志望校の判定もCやBと悪くはない。人間関係も特別揉めた経験はなく、良好に築けている。何も迷うことなんてない。不安になることなんてない。このままいけば普通に進学できて、普通に学校生活を過ごし、そのまま、普通に……。


"普通"だから分からなかった。

「自分の趣味や特技は何ですか?」

「自分の長所は何ですか?」

そんなこと聞かれたって私のことなんか分からない。なにか秀でてることなんか無いし、才能があったって埋もれるようなものしかない。

いつまで経っても白のままの紙っぺらを、まるで自分の心をトレースしたようだとなぞる。


「なんか、足りない。」

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胸を打つ、その瞬間。 みず @am_4o0

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