同封MP3音源の書き起こし - ⑤
卒業論文は結局、水産学の方で書くのかい。そうか。それはそれで良いだろう。うん。間に合うならそれで。あー、そうか。まあ温情だね。
ではこちらの方はどうするのか、決めているのか。うん。ふむ。うん。そうだね、それが良いだろう。一部は俺にくれよ。とりあえず記録として取っておく。うん。溝口先生と、永井と、俺だ。とりあえず四部作ればそれで良いんじゃないか。えー、溝口先生も強情だな。まあ確かに実績にはなるから良いんだが。いや、うん、それなら、それで。うん、そうしてくれ。大学の図書館に納めるとなると、六部必要か。予算は何処から。うん、じゃあ溝口先生が全部どうにかしてくれるんだな。わかった。なら俺は手を出さない。良いね。それで溝口先生と合意は取れてるんだろ。まあ明日の会議で直接聞くよ。場合によっては一筆もらう。そういうのは大事だよ。書面で残しておくのは。だって言った言わないの口約束なんて面倒だろ。俺は面倒なことが嫌いなタチでね。
それで、校則の方はどうなる。うん。まあ、妥当なところだな。【N教】のことを書くならこれくらいが良い。校則との絡みもまあ良いだろう。もう少し校則について考察をして欲しかったかな。まあその辺は溝口先生の分野だ。俺じゃない。【個人名E】の暴走というていで書くのは、案外キツかったんじゃないか。まあ精神的にもくるモノだと思うよ。あまりあの人の悪い話を聞くようなことはなかっただろうし。
うん。傘ジジイって別称がつくのだって、地域に根付いていたというか、認識されていたと見るべきだ。
良いかい、何某かの対処だとか、理解不能な危機に対する防衛方法などというものはね、何かよくわからんがやらないと気持ち悪いくらいの認識に刷り込めれば成功なんだよ。校則に入れるというのは、そういうことだ。そもそも信仰の行為とはそういうものだろ。日本語話者なら飯を食うときにいただきますごちそうさまを言わないと気が済まない。それをしない人間を目の前にするとマナーがなってないとか、育ちが悪いのだろうと憶測する。そんなことをしたところで飯がうまくなるわけでもないし、海外の人間であればそんな呪文を唱えることなど無いのに。なんというか、そういうのは文化なんだよ。いただきますごちそうさまは保育園やら小中学校やらで教えられるだろ。それを教えろという規則も法律もないし、多様性だとか謳われてている現代にいたっても宗教的な文化的な側面もあるのに、政教分離に注意しておきながら、何故かこういうのは続いている。本来、【個人名E】のやり方も、そういうものであるべきだったんだ。この地域の文化。そういうもの。だから最初は、地域の歴史や文化の継承の一つとして校則に組み込むことを提案した。だがそれらは阻止された。誰も考えなくとも良いほど擦り込むことは不可能だった。あれだけの人間が協力したというのにだ。
これはね、俺の考えなんだが。やはり【個人名E】以外にいたんじゃないか、別の方向で対処しようとしていた連中が。いや俺は知らんよ。あー、アイツも似たようなこと言ってたか。
【個人名E】が初期に投じた校則が、【N教】における身代わりだとか回避の方法をピックアップしたものだと考えるとしよう。すると、他にいくつか違う視点で投じられた校則がある。
一つは防御。金属類の装着だとか背中を見せない服装、校門前の水まきがそれだ。もう一つは監視。サマースクールもそうだが、そもそもこの辺りの小中学校は児童生徒を管理しようって気概が強い。最近は都会じゃ当たり前になりつつあるらしいが、公立の小学校で制服があるってのは珍しいんだよ。あぁいや、別に悪いってわけじゃないんだ。勿論、そのうちその辺は改善すべきだが。それはそれとして、今は必要なんだよ。
防御の方は良い。ああいう類いは金属を嫌う。そして背中は入り込む隙になる。淡水を撒くのはアイツらが苦手とするものだからだ。
で、監視の方は、少しまあそうだな、説明が難しいが。簡単に言うと、目を合わせるんだよ。人間が見ている、大人が見ているということが重要なんだ。こういう言い方をするのはあまり褒められたことではないが、要するに子どもの所有権を誇示するということだ。あっち側に拾われないためのもの。こちらに縁があるのだと示すモノ。制服なんかそうだ。●●小学校の制服を着ているというだけで、見た目にはその小学校の児童であるという所属を示すことになる。所属を示すと言うことは、誰が所有権を持つかを明らかに出来る。もちろん学校が児童生徒を所有しているなどと言う気は無い。もちろん親にだって子どもの所有権はない。人間に所有権というモノが発生する方がおかしい。それが人権というモノ。だが人権などというものは人間の習性の明文化に過ぎない。つまり人間以外には適用されないんだ。いや知能が畜生以下であるというわけではない。寧ろ我々と似た知性を持っている。だが根本的にアイツらは人間ではない。人間ではないと言うことは、こちらとは全く異なる習性を持つということだ。君も生物学の末端を学んだというのならわかるだろう。生存競争というものがある。我々はアイツらと生存競争をしているわけだ。互いに、互いを絶滅させよと。何故なら我々は互いに別種の生き物であって、考えも習性も異なっているのだから。
(沈黙)
あいあ、いや、まあ、忘れてくれ。
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