第3話 葉っぱ名づけ大作戦
王子は大人モードに戻っていた。
仕事はできるらしい。
大量の決裁書を前に、一瞬の無駄もなく、判を押していく。
私は、相談役なので、それっぽい服装に着替えさせてもらった。高級な仕立てだ。
「まだお前の名前を聞いていなかったな。名は何というのだ?」
「ティアにございます。」
「ふむ、いい名前だな。では、ティア。早速だが聞きたいことがある。」
こうしていると美男子な王様なのに。今日はあれが出てこないといいが。
「どうしてお前だけ不幸なのだ?」
「それは私が死にたがりだからでございます。」
「では、どうして死にたがりなのだ?」
「それには100の理由があります。」
「100もあるのか!?たとえばどういう不幸があるんだ?」
「たとえば…ここの窓から一枚の葉っぱが見えます。でも、ただ「葉っぱ」というだけで、一枚一枚に名づけられてはいません。私には名前があるのに…と思うと、葉っぱを見るたびに、不幸になるのです。」
「ふーむ、よくわからん!ほんとにそんなことで悲しくなってしまうのか?」
「はい。左様でございます。」
王子は少し思案した様子だったが、何かひらめいたようで、目を輝かせた。
「簡単な話ではないか!名づけてやればよかろう。」
「こんな何千何万とある数に名づけるなどできません。名づけられない存在として、生きていることが不幸なのです。」
「いや、名づけるのだ!」
「え」
「とにかく、名づけるのだ!」
「いやいや無理ですよ!」
「無理ではない!まずはあの木からだ!」
「ええ!」
「じゃあ、あっちはジョンで、こっちはマイク!ほら、ティアもやるんだよ!」
こうして、葉っぱ名づけ大作戦と呼ばれたこの作戦は開始された。
そして、1000枚を越えたあたりから、停滞しはじめた。
「うーん。もう名づけられる名前が思い浮かばない…」
「もういいんです。同じ名前の人はいますし。あとは全部、ボブにしましょう!」
もう夕方だった。
風が吹いて、数枚の葉っぱが飛んで行った。それとともに、王子は絶叫した。
「ジョンとマイクが!」
王子はわーっと泣き出した。しまった赤ちゃんモード突入だ。
「どうちて、すぐいなくなっちゃうの?」
「これが葉っぱの一生なんです。やはり、葉っぱには名前はつけられなった。でも、王子に名づけられた葉っぱはきっとうれしかったでしょう。」
王子はしばらく泣いていたが、やっと泣きやんだ。
赤ちゃんモードにはまだ慣れない。でも…王子にこれだけ泣いてもらえたのだ。ジョンとマイクは幸せものだったに違いない。
私の気持ちもほんの少しだけ晴れたのだった。
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