21.「出ちゃいましたよ」そして、悪阻からの解放!


とりあえず、この子のパパへ報告を。

立ち会えずに働いている旦那宛に──母とのグループLINEへ送信する。


「出ちゃいましたよ」


そして、横にいる娘をパシャリッ!

私による“娘・初撮影”の記念すべき一枚を送った。


スマホと、隣にいる娘を交互に見つめながら、私は妊娠・出産の日々を思い返す。


妊娠は……本当に、毎回大変だった。


私はこれまで妊娠の度、つわりに散々苦しめられてきた。


第一子のとき──はじめての妊娠。


最初は「なんだかむかむかするなぁ……」くらいで、「もしかして、これが“つわり”ってやつ?」と疑う程度。

妊娠検査薬で陽性が出て、病院で「妊娠してます」と言われても、生理がちょっと遅れただけの感覚で、まだお腹が出てくるわけでもない。

だから正直、「本当に妊娠してるのかな?」という気持ちだった。


体調が悪いとはいえ、ようやく“変化”を感じたことが、ちょっと嬉しくもあった。


──が、それはすぐに後悔に変わる。


「なんか気持ち悪い……かも?」


から、あっという間に


「気持ち悪い!! おえええええ……っ!!(嘔吐)」


1日に何度もトイレへ。

なぜか理性が働いて、トイレ以外では吐けない私は、トイレに駆け込んでばかり。


軽く1日5回以上、トイレで嘔吐。


当然、3回も吐けば胃の中身は空っぽ。

胃液を吐き、やがては胆汁を吐き……喉はヒリヒリ。

常に二日酔いや船酔いのような状態が続く。


世界が……回ってる。

くらくらして、立っているのはもちろん、座っていても、寝ていても辛い。


「こ、これ……いつまで続くの……?」


スマホをぽちぽち。

『たまごクラブ』も買って、妊娠について調べまくった。


ふむふむ……うげぇぇ。


『妊娠5~6週頃から始まり、12~16週頃までに落ち着くことが多いです。しかし個人差があります。ピークは妊娠8~11週頃で、その後徐々に軽減していく傾向にあります』


……って、今はまだ5週目。

これがまだ続くどころか、ピークですらない……!?


ピークについてはその通りで、8週目くらいからのピーク時には1日10回以上吐くようになり、

接客業をしていた私は、お客様ひとり対応するごとにトイレへ駆け込むような日々だった。


妊婦は──食べ物にも飲み物にも、注意が必要だ。


タバコやアルコールはもちろんNG。

それに加えて、生ものもNG。

食中毒になると胎児に影響を与える可能性があるからだ。


生もの好きな私にはショックだった。


刺身、寿司、生ハム、ユッケ、馬刺し……ぜんぶダメ!?

ごはん食べたくないとき、「卵かけご飯なら食べやすいかも?」って思ったけど、生卵だめなの!?


──と思っていたが、そんな好き嫌いなどどうでも良くなるくらい、何も食べられなかった。


気持ち悪くて食べたくない。

でも栄養は摂らなきゃ……と頑張って食べても、美味しくない。

無理に口にしても、すぐリバース。


それでも、まだ“食べ物”ならマシだった。

一日くらい食べなくても、案外なんとかなる。


それ以上に困ったのが──水分。


水が……不味い。


飲むのはもちろん、口をゆすぐだけでも水の味が苦手でたまらない。

比較的飲めたのはフルーツティー。でも、それですら「できれば飲みたくない」レベル。


でも水分を取らないのは、本当にマズイ。


頑張って飲む──けど、飲めば吐く。


こうして、“何も食べたくないし、食べられない”状態は、15週目くらいでようやく落ち着いた。

……が、悪阻そのものは、なんと出産まで続いた。


第一子のときは、陣痛で苦しみながら、つわりで嘔吐するというコンボを食らった。


妊娠初期も中期も後期も、ずっと吐き続けていた。


そして、今回──三回目の妊娠も……。


──と、私はふと気づく。

わが子を眺めながら、心の中で叫ぶ。


「気持ち悪く、ない」


もちろん出産直後で体は疲れているし、だるさはある。

でも、この半年間ずっと苦しめられてきた“あの吐き気”が……ない!


ちらりと横のテーブルを見る。水分補給のために置かれたペットボトルに入った、水。


でも、水は不味いと思って口をつけてはいなかった。


そっと手を伸ばし、その“水”をひと口……



不味くない!? 水が……おいしい!!



私は、わが子の誕生に感動しつつ、

長きに渡る体調不良から解放された喜びを、全身で噛み締めていた──。


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