20. 2362グラムの天使


──話は現在に戻る。


「バースプランに『赤ちゃんの写真をたくさん撮ってほしい』って、よつ葉さん、書いてたよね?」


「はい! そうなんです、よろしくお願いします!」


私はスマホの中の家族──両親と息子たちに別れを告げ、LINEを終了してから、スマホを助産師さんに託した。


その後、しばらく産後の余韻にぼんやりと浸っていると、娘と一緒にスマホが戻ってきた。


娘は、さっきも使われていた透明なコットにそっと寝かされる。


ぽや〜んと天井を見上げながら、口をぱくぱく、ぺろぺろ……

まるで、「ここがどこか、まだ分かってないよ?」とでも言いたげな表情。


(うわぁぁぁぁぁ!! ほんとの本当に産まれたての新生児! 可愛すぎるぅぅぅ!)

(しかも何その帽子! 先っぽにポンポン付いてるんですけどぉぉぉ!!)


戻ってきた娘は、真っ白な産着に、淡いピンク色の先に白いポンポンがついた帽子を被せられていた。


私は平静を装ってにこにこと娘を見つめていたが、心の中は大騒ぎ。


そんな私に向かって、助産師さんが声をかけてきた。


「よつ葉さん、ごめんね! お隣の妊婦さん、もうすぐ生まれそうなの。ちょっとそっちに行ってくるね!」


「あっ、はい……」


助産師さんはそう言い残して、慌ただしく部屋を出ていった。


LDR室に残されたのは、私と娘だけ。


相変わらず、ぽけ〜っとしている娘。


(可愛いなぁ。早く触りたいなぁ)


そんなことを思いながらしばらく眺めていたが、娘はただただ、ぽや〜んとしたまま。


私はふと、返ってきたスマホを確認することにした。


(うぎゃぁぁぁぁああああ!! かんわいいぃぃぃぃん!!)


そこには、次男のときにも見たような、赤子のヌード写真がずらり。


ありがとうございます!! 助産師さん!!

旦那くんが立ち会いできなかったのは残念だったけど、この写真だけは本当に、助産師さんにお願いしてよかった!!


私は思わず、感謝の祈りを心の中で捧げた。


写真の中には、人生初の体重測定──ベビースケールに乗っている姿もあった。


大股を開いて、大事なところが丸見えの娘。


つい、思ってしまう。


(よし。“アレ”はついてない)


元気に生まれてくれれば、男の子でも女の子でも、それだけで十分。

でも、選べるなら最初から女の子希望だったし──


男の子が複数いると、2倍じゃ済まない。騒がしさもアホな行動も、想像の斜め上を行く。


それは、もう十分に経験済み。


もし2人が3人になったら……と、内心おびえていた分、娘が女の子だったことに「嬉しい!」というより「ほっ」とした。


そんな娘の横に、表示されていた数字。


──体重、2362g。


あれ? 最後の健診では2500超えてたのに……ちょっと誤差あったかな。


妊娠37週未満は早産。体重2500g未満は低出生体重児。


わずかではあるけれど、娘はそのどちらにも当てはまってしまっていた。


今、隣にいる娘は服を着ているので、肌はもう見えない。


スマホの中の裸の娘──生まれたばかりなのに、胸にはプツプツと小さな湿疹のようなものが……


(あーあ……。この子も肌が弱そうだなぁ)

(やっぱりお兄ちゃんたちに似てるなぁ)


そんなことを思いながら、スマホと隣にいる娘を交互に眺め続けた──。


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