第21話:手のひらの温度

「確か、押し入れの奥の方に入れてたはず…。これじゃなくて、これでもなくて…」


 そう言って、ベッドの上に服の山ができあがる。

 山の高さが30cmを超えようかというとき、目当てのものが見つかった。


「あった!」


 そう言って私が手に取ったのは浴衣。


 紫を基調とした生地に、アクセントで黒の模様が入った少し大人っぽい意匠。


 これは以前モデルの撮影で使用したもので、私がいたく気に入ってしまったものだから撮影後に格安で譲ってくれたものだ。


「よかった、傷んでないよね」


 生地の傷みや汚れがないことを確認し、ほっと安心する。


 私は今日、この浴衣を着て好きな人に告白する。

 つまり勝負服なのである。


「お母さん、浴衣着るの手伝ってー!」


 撮影の時は着付けてもらったが、正直あまり覚えていなかったのでここはお母さんに甘えることにした。


 お母さんは喜んで着付けを手伝ってくれた。光に色々な服を着せるのが楽しいと、以前に言っていたのでこれもその一環なのかな?


「光、これつけていきなさい」


「わあ、綺麗な髪留め…!これどうしたの?」


「お母さんがお父さんとの初デートのときに着けていった髪留めよ」


「そんな大事なもの借りていいの?」


「光にとって今日は大切な日なんでしょ?だからこれはお守り。」


 そう言って、お母さんは優しい手つきで髪留めで私の髪を結ってくれた。


 やっぱりお母さんには隠し事ができないなあ…と思う。


「お母さん…ありがとう。すごく嬉しい。」


 私は涙が零れるのをギリギリのところで耐えていた。


「光の大好物作って待ってるから、ほら行っといで」


「うん!行ってきます!」


 手を振るお母さんに見送られて、私は家を出た。


 私のことをわかってくれている家族がいる。


 私を大切に思ってくれている人がいる。


 それだけで何でもできそうな気がした。



 電車で一駅行ったところで降りる。


 夏祭りは大きな公園にメインの会場があって、その他にも街全体に屋台が出ている大掛かりなものだった。


 街は人でごった返していた。

 どこを見ても人、人、人。首都圏のお祭りはどこもこんな感じだ。


 駅前で和人くんと待ち合わせをしていた。時刻は16時58分。約束の17時まであと2分。


 改札から出てくる人たちを眺めながら、私は心を落ち着けようとした。


 風鈴の音が遠くから聞こえてくる。

 お祭りの音だ。


 子どもたちの笑い声、屋台の呼び込みの声、にぎやかな話し声。

 それら全てが混じり合って、街全体が祭りの熱気に包まれているのがわかる。


 私の心臓も、その熱気に合わせるようにドクドクと速く鳴っていた。


「天野!」


 聞き慣れた声に振り返ると、和人くんが改札から出てきた。


「和人くん!」


 手を振って駆け寄る。


 和人くんは…いつもの制服姿ではなく、白いシャツに黒のパンツという普段着だった。

 髪も少し整えているみたいで、いつもより大人っぽく見える。

 でも、その表情はどこか緊張しているように見えた。


「浴衣、似合ってる」


 和人くんが小さな声で言った。


「ありがとう」


 私は頬が熱くなるのを感じた。


「じゃあ、行こうか」


「うん」


 私たちは並んで、お祭り会場へと向かった。


 メイン会場に着くと、私は思わず声を上げた。


「わあ、すごい人!」


 提灯が無数に吊るされた会場は、まるで光の海のようだった。

 赤い提灯、白い提灯、青い提灯。

 それらが夕闇の中で温かい光を放っている。


 屋台がずらりと並んでいて、焼きそば、たこ焼き、りんご飴、わたあめ。香ばしい匂いと甘い匂いが混じり合って、お祭り特有の雰囲気を作り出している。


「何から見る?」


 和人くんが聞いた。


「えーっと…」


 私は辺りを見回した。射的の屋台、輪投げ、金魚すくい。

 懐かしい遊びがたくさんある。


「あ、あれやってみたい!」


 私が指差したのは、金魚すくいの屋台だった。


「金魚すくい?」


「うん!子供の頃からやってみたかったの」


 実際には、モデルの仕事で浴衣を着る機会はあっても、お祭りに来る機会はほとんどなかった。

 友達と遊ぶ時間もあまりなかったし、いつも大人たちに囲まれた撮影現場にいることが多かった。だから今日は、普通の高校生としてお祭りを楽しみたかった。


「じゃあ、やってみようか」


 和人くんも微笑んでくれた。


 金魚すくいの屋台に向かう途中、私は和人くんの横顔を見つめていた。

 夕暮れの中で、提灯の灯りが和人くんの顔を優しく照らしている。


 いつもは教室の隅で黙々とPCに向かっている彼が、今は私の隣を歩いている。それだけで、胸の奥が温かくなった。


「難しいな、これ」


 金魚すくいを始めた和人くんが苦戦している。ポイが破れて、金魚が逃げていく。


「私もやってみる」


 私も挑戦してみたが、案の定すぐにポイが破れてしまった。


「あー、だめだった」


「俺も全然だめだ」


 私たちは顔を見合わせて笑った。


 その瞬間、私は改めて実感した。和人くんと一緒にいると楽しい。


 特別なことをしているわけじゃない。

 ただ一緒に笑っているだけ。


 でも、それだけで世界が輝いて見える。

 この気持ちが恋なんだなあ。


「次は何にしようか」


 和人くんが聞いた。


「んー、あ!わたあめ食べたい」


「わたあめ?」


「子供っぽいかな?」


「そんなことないよ」


 和人くんは首を振った。


「天野が食べたいなら、買おう」


 その優しさが、また私の胸を温かくした。


 わたあめの屋台で、私はピンクのわたあめを選んだ。


「大きいな」


 和人くんが苦笑いした。


「でしょ?」


 私は嬉しそうに答えた。


「一緒に食べる?」


「いいのか?」


「もちろん」


 私は和人くんにわたあめを差し出した。


 和人くんが遠慮がちに小さくちぎって口に入れる。


「甘い」


「そうでしょ?」


 私も一口食べた。ふわふわのわたあめが口の中で溶けていく。

 子供の頃に食べた時と同じ、懐かしい甘さだった。


 でも今は、和人くんと一緒だから、もっと特別に感じる。


「和人くん」


「ん?」


「楽しい」


 私は素直に言った。


「俺も」


 和人くんが答えた。その言葉を聞いて、私の胸はさらに温かくなった。


 それから私たちは、色々な屋台を回った。

 射的では、和人くんが見事にぬいぐるみを当ててくれた。


「すごい!」


 私は手を叩いて喜んだ。


「まぐれだよ」


 和人くんは照れながら言ったが、その表情は満足げだった。


「これ、天野にあげるよ」


「いいの?ありがとう!」


 私は小さなうさぎのぬいぐるみを大切に抱きしめた。

 和人くんがくれた初めてのプレゼント。たとえそれが射的の景品でも、私にとっては何より大切な宝物だった。


「嬉しい。大切にするね」


 輪投げでは、私が挑戦したが、全然うまくいかなかった。


「くー、全然入らない」


「投げ方にコツがあるんじゃないかな」


 和人くんが後ろから私の腕を支えて、投げ方を教えてくれた。その時、和人くんの体温を感じて、私は顔が真っ赤になった。


「こうやって、手首をスナップさせて…」


 和人くんの声が耳元で響く。近い。すごく近い。私の心臓が破裂しそうなくらい速く鳴っていた。


「天野?」


「あ、うん!やってみる!」


 私は慌てて輪を投げた。見事に棒にかかった。


「やった!」


「すごいじゃないか」


 和人くんが笑顔で言った。でも私は、輪投げが成功したことよりも、和人くんに教えてもらったことの方が嬉しかった。


 お祭りも終盤になり、空には星が見え始めていた。提灯の灯りも、昼間とは違った幻想的な美しさを見せている。


「花火、始まるかな」


 和人くんが空を見上げて言った。


「もうすぐだと思う」


 私も空を見上げた。


そ の時、ドーンという大きな音と共に、空に大きな花火が上がった。


「わあ!」


 私は思わず声を上げた。赤い花火、青い花火、金色の花火。次々と夜空に咲いては消えていく。


「きれい…」


 私はこの瞬間を、ずっと忘れたくないと思った。


 和人くんと一緒に見た、特別な夏の夜。


 私の初めての、本当のお祭り。


「和人くん」


 私は花火を見ながら呟いた。


「ん?」


「今日は本当にありがとう」


「こちらこそ。楽しかった」


 和人くんも答えた。


 花火が最後の大きな音を立てて、空に散っていく。お祭りの終わりを告げるように。



 帰り道、私たちは並んで駅へと向かっていた。


 手には射的で取ってもらったうさぎのぬいぐるみ。心には今日の楽しい思い出がいっぱい詰まっている。


 でも同時に、ある決意が私の中で固まっていた。


 今日という日を、ただの楽しい思い出で終わらせたくない。

 和人くんに、私の本当の気持ちを伝えたい。


「和人くん」


 私は駅まであと少しというところで立ち止まった。


「ん?」


 和人くんが振り返る。


「ちょっと、話があるの」


 私は小さな公園のベンチを指差す。街灯が一つだけあって、優しい光を投げかけている。


 和人くんは少し戸惑ったような表情を見せたが、頷いてくれた。


「分かった」


 私たちはベンチに並んで座った。


 夜風が涼しくて、浴衣の袖を優しく揺らしている。


 虫の声が静かに響いて、お祭りの喧騒から離れた、穏やかな時間が流れていた。


 でも私の心臓は、これから言おうとしていることを思うと、ドクドクと激しく鳴っていた。


「それで…話って?」


 和人くんが聞いた。その声にも、少し緊張が混じっているのが分かった。


 夜風がそっと頬を撫でていく。


 街灯の光が地面に影を作って、二人だけの小さな世界を演出していた。遠くから聞こえるお祭りの余韻も、もうほとんど静寂に変わっている。


 私は手のひらに汗をかいているのを感じながら、深呼吸をした。お母さんがくれた髪留めが、街灯の光で小さく光って見えた。


「…ごめんね、最近私のせいで部活の雰囲気悪かったよね」


 準備していた言葉が、急に頭から消えてしまって、なんとか言葉を絞り出した。


 私の言葉に、和人くんが驚いたような表情を見せた。


「え?そんなことは…」


「ううん、あったよ」


 私は首を振った。


「私、三上さんに嫉妬してて…それで変な空気になっちゃって」


 言うのが恥ずかしくて、声が小さくなってしまう。


「和人くんも三上さんも、何も悪くないのに。全部私が勝手に…」


「天野…」


 和人くんが心配そうに私の名前を呼んだ。その優しい声に、私の心はさらに苦しくなった。


 虫の声が静かに響いている。まるで私たちの会話を見守っているみたいに。


「…でもね」


 私は顔を上げて、和人くんを見つめた。街灯の光が、和人くんの瞳を優しく照らしている。


「和人くんはきっと…はっきり伝えないと気づかないと思うから」


 私の声が震えてしまう。


「…この場で伝えようと思うんだ」


 和人くんの表情が、少し緊張したものに変わった。きっと私の真剣な口調を感じ取ったのだろう。


「何を…?」


 私は大きく息を吸った。もう後戻りはできない。


「私は和人くんのことが…好きです」


 和人くんは目を見開いて、私を見つめていた。


 口を少し開けて、何か言おうとしているけれど言葉が出てこないようだった。


 私の心臓が、今にも破裂しそうなくらい速く鳴っている。


「恋人になって…、お付き合いして…。ずっと一緒にいたいと思ってます」


 私は一気に言った。


「天野…」


 和人くんがやっと声を出した。でもそれ以上の言葉は続かない。


「もっと和人くんのこと知りたいし…、もっと私のことも知ってほしい」


 私は続けた。


「…だから、私は自分でも嫌になるんだけど、三上さんに嫉妬してる」


 私の声が震えた。言うのがこんなに恥ずかしいなんて思わなかった。


「でも、三上さんが悪いわけじゃないって分かってる。三上さんはとてもいい子だし、本当に大切な後輩だと思ってるの」


 和人くんが私の話を真剣に聞いているのが分かった。その瞳には困惑と、そして何か別の感情も浮かんでいるように見えた。


「でもね」


 私は和人くんに向き直った。


「三上さんに嫉妬はしてるけど、三上さんと仲良くしないでほしいとは全然思ってないの」


「え?」


 和人くんが困惑したような表情を見せた。


「むしろ、みんなでもっと仲良くなりたい」


 私は笑顔を作ろうとしたが、緊張でうまくいかなかった。


「私が伝えたかったのは…、私とももっと一緒にいて、仲良くしてほしいってこと」


 和人くんは何も言わなかった。ただ、私を見つめていた。その瞳には、驚きと戸惑いと、そして…


「和人くんには…和人くんのペースがあって、今も必死に何かと戦って…前に進もうとしてるのは分かるの」


 私は続けた。


「問題解決部のこととか、自信をつけたいって…頑張ってることとか、全部…見てるから」


 和人くんの表情が少し変わった。私がそこまで彼のことを見ていたことに驚いたのかもしれない。


「だから…急かしたくない。今は…返事もいらない」


 私は一度、大きく息を吸った。


「ただ、私の気持ちだけは伝えたかったんだ」


 私は立ち上がった。


「だから、これからは私の方から、和人くんに…好きになってもらえるように…ぐいぐい行くから…覚悟しておいて!」


 私は笑顔で言おうとしたが、顔が熱くて恥ずかしくて、うまく笑えなかった。


「天野…」


 和人くんがようやく口を開いた。


「…こんなことを天野に言わせてしまって、つらい思いをさせてしまって、本当にごめん」


 和人くんは俯いた。


「そんなこと…ない」


 私は首を振った。


「和人くんは何も悪くないよ」


「本当に情けないんだけど…今はまだ、天野の隣に立つ自信がないんだ」


 和人くんは正直に言った。


「天野はモデルもやってて、成績も優秀で、みんなから愛されてて…俺みたいな奴が隣にいても、釣り合わない」


「そんなことない」


 私は強く言った。


「和人くんは私が一番困ってた時に助けてくれた人なの。nullさんとして、そして黒瀬和人くんとして」


 和人くんの言葉に、私の胸が締め付けられるような気がした。


「天野がそんなふうに思ってくれてるのは本当にうれしい」


 和人くんは私を見上げた。そして震える声で言った。


「…俺も天野のことは本当に特別な存在で、大切に思ってる」


 その言葉で、私の心は少し軽くなった。


「だから…必ず返事をするから、もう少しだけ待っていてほしい」


 和人くんの声には、真摯な響きがあった。


 私は微笑んだ。


「…うん、分かった」


 私はベンチに座り直した。


「でも、待ってる間も私からはアタックし続けるからね!」


「え?」


 和人くんは驚いた。


「だって、和人くんに好きになってもらわないと、告白されないでしょ?」


 私は楽しそうに言った。


「そ、それは…」


 和人くんが慌てた。私のアタックって、一体どんなことをするつもりなのだろうと思っているのが顔に書いてある。


「あ、でも…その…」


 私が急に恥ずかしそうになった。


「アタックって言ったけど、具体的に何をすればいいのはまだ未定だから…!」


 その言葉に、和人くんは思わず笑ってしまった。


「何笑ってるの」


 私は頬を膨らませた。


「いや、天野らしいなと思って」


「らしい?」


「すごく真面目で一生懸命だから」


 私の頬が少し赤くなった。


「でも、本当にどうすればいいんだろう…恋愛マニュアルとか読んだ方がいいのかな」


「そんな大げさな…」


「あ!そうだ」


 私は何かを思いついたように言った。


「えっと…まずは、これから二人で一緒に歩く時は手を繋ぐとか?」


「手を…?」


「あ、でも恥ずかしいかな…」


 私も顔を赤くしている。


「いや、その…別に恥ずかしくは…」


「本当?」


 私が期待するような瞳で和人くんを見つめた。


「じゃあ、今から練習してみる?」


「え?今?」


「うん」


 私は立ち上がって、和人くんの前に立った。


「ほら、手出して」


「天野…」


「だめ…?」


 私の上目遣いに、和人くんは抗えなかった。


 和人くんは恐る恐る手を差し出し、私の手とつながる。


 体温が手を通して伝わってくる。

 36度の体温が今は何よりも熱く感じた。


「わあ…」


 私が小さく呟いた。


「どう?」


「その…すごく恥ずかしい」


 私は顔を真っ赤にしていた。


「俺も」


 和人くんも正直に答えた。


「じゃあ、このまま少し歩いてみる?」


「え?」


「練習だよ、練習」


 私は楽しそうに言った。


 私たちは手をつないだまま、公園の中をゆっくりと歩き始めた。

 街灯の光が道を照らしている。


「なんだか、恋人みたい」


 私が小さくつぶやいた。


「まだ恋人じゃないけど」


 和人くんは苦笑いした。


「明日からは学校でももっと積極的にいくから」


「え?」


「お弁当一緒に食べたり、放課後も一緒に過ごしたり」


 私はどんどん話が弾んでいく。


「あ、でも三上さんも一緒だから、三人で仲良くしようね」


「そうだな」


 和人くんは微笑んだ。


 明日からの学校生活が楽しみになってきた。


「でもさ」


 私は急にいたずらっぽい笑顔になった。


「和人くん、三上さんとの方が仲良しになっちゃったりしない?」


「え?」


「だって、共通の趣味もあるし、同じような性格だし…」


 私はわざと心配そうな顔をしてみせた。


「そんなことないよ」


 和人くんが慌てて否定する。


「本当に?私より三上さんの方が話しやすいとか思ってない?」


「天野…」


「冗談だよ」


 私はクスクス笑った。


「でも、ちょっと本気だったりして」


「もう勘弁してくれ」


「あ、そうそう」


 私が何かを思い出したように言った。


「今度の休日、また一緒にお出かけしない?」


「もちろん行くよ」


「今度は映画でも見に行こうか。三上さんも誘って」


「三上も?」


「だって、三上さんとももっと仲良くなりたいもん」


 私は笑顔で言った。紛れもない本心だ。


「でも、その後は二人きりの時間もほしいな」


 私は恥ずかしそうに言った。


「天野…」


「だめ?」


「だめじゃない」


 和人くんの頬も赤くなった。


「嬉しい」


 私は本当に嬉しそうに笑った。


「あ、もうこんな時間」


 私が時計を見て言った。


「本当に帰らないと」


「そうだな」


 手を繋いだまま、私たちは静かな夜道を歩いていく。遠くから聞こえてくる夜の音が、私たちを優しく包んでいた。


 和人くんの返事はまだもらえないけど、でも確実に私たちの関係は変わったと思う。これまでの曖昧な関係から、もう一歩前に進んだ。


 私の気持ちは伝えた。


 和人くんの気持ちも確認できた。


 あとは、和人くんが自信を持てるようになるまで、私が支えてあげればいい。


 私は和人くんの隣を歩きながら、未来への希望で胸がいっぱいになった。

 きっと大丈夫。私たちなら。


 手を繋いで歩く感覚が新鮮で、恥ずかしくて、でもとても幸せだった。


 繋いだ手から伝わる熱は何よりも熱くて優しくて、まるで二人の心が直接触れ合っているみたいだった。


 今日という日を、私は一生忘れることはないだろう。


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