第9話 幕間・5|むすびの火が、未来を照らすとき
※「むすびの記憶」シリーズは、物語と考察を交互に隔週更新しております。
本編と共に、世界観やキャラクター背景をじっくりお楽しみいただければ幸いです。
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焚き火のぬくもりの向こうで、
撫子は天狗の横顔をじっと見つめていた。
「ねえ、天狗さん。
さっき『神々の火』って言ってたけど……
火って、どこから来たの?」
天狗はしばらく黙っていた。
火を見つめ、ゆっくりと口を開く。
「……お前は『火』を、
ただの燃えるものだと思ってるかもしれない。
でも、本当はね──
火は、空から落ちてきたんだ」
「空から?」
「うん。昔の人は、そう呼んだ。『天の火』って。
でも本当は、『未来から灯された光』だった」
撫子は目を見開く。
「未来……? 火が?」
「そう。
人がまだ星のことも知らなかった時代に、
ある者たちは、『希望』としての火を持って、過去へと降りてきた。
それはね、ただの炎じゃなかったんだ。
意思だった。
光よりも速く、祈りよりも深く──
『繋ぎ直す』ための火」
「……じゃあ、その火を持って来たのが……ニギハヤヒ様?」
「そうだ。ニギハヤヒは、火を『持って降りた者』だった。
でもそれは、ただの『贈り物』じゃない。
背負うものでもあり、『燃やし尽くす覚悟』が必要な火だったんだ」
撫子は膝の上で手を握りしめた。
「……その火って、使うたびに消えていくもの?」
「いや、消えない。
火は『渡す』ことで、増えるんだ。
信じた者が次に火を灯せば、それは『連なっていく』……
まるで麻の撚れのようにな」
「撚れ……」
「そう。過去と未来、あの人とこの人、誰かと誰か。
それぞれの祈りや痛みが、火を通して撚られていくんだよ」
天狗は、ゆっくりと撫子の方を見た。
しばし黙り、そしてふと口元をゆるめて言う。
「もう『君』じゃないな。今は『お前』か──」
撫子は少しだけ頬を赤らめ、
でも何も言わず、焚き火を見つめ続けた。
天狗は、静かに語り続ける。
「だからね。
神々の火っていうのは、『未来に希望を残す者たち』の火なんだ。
この世界が何度も壊れそうになったとき、
誰かがその火を持って過去へ降りてきて、撚り直してきた。
それが──『むすびの火』」
撫子は、焚き火の小さな炎を見つめながら、そっとつぶやいた。
「……わたしたちは、その火を『受け取った者』なんだね」
天狗は、にやりと笑ってうなずいた。
「そう。お前もな。
ニギハヤヒの火は、まだ終わっちゃいない。
お前の中にも、ちゃんと受け継がれてる」
撫子はしばらく黙っていた。
そして、焚き火の炎に手をかざして、そっと目を閉じた。
――――――――――
(風の音が、静かに吹き抜ける)
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※この物語は、日本神話をもとにしたフィクションです。
実在の信仰・伝承とは異なる創作表現を含みます。
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