第8話  やわらかな光と 三つのまなざし。



ニギハヤヒ様の

『約束の眼差し』。


ニニギ様の

『ためらいの炎』。


ウマシマジ様の

『見届ける微笑』。


雷鳴が、

遠くで鳴り響く。


――――――――――


三つの影が、

境界を越えて

光の中に消えていく──


長男・ニギハヤヒ。

次男・ニニギ。


そして最後に、

小さな決意を抱えた

三男・ウマシマジ

(宇摩志麻治命)。


「兄さんたち……」


少し間の抜けた顔で

立ち尽くすウマシマジ。


けれど、

胸の奥には

熱いものが

確かに湧き上がっていた。


(どうしよう、どうしよう……

でも、行かなくちゃ)


足が、

自然と前へ出る。


――――――――――


──残された母、瀬織津姫。


その場に静かに座り込んだ

彼女の背中には、

空になった巣のような

寂しさが重なっていた。


けれどそれは、

ただの別れではない。


火を託す、

その祈りの瞬間だった。


――――――――――


彼女は手のひらに、

翡翠の勾玉を

そっと取り出す。


柔らかな光が揺れる。

火ではなく、

水のような淡い光。


「とうとう、

この日が来てしまったのね……」


震える指で

勾玉を撫でながら、

一粒の涙が、

頬を伝って落ちた。


「可愛い子どもたちよ──

どうか無事でいておくれ。


たとえ魂が

どれほど撚れても……

この翡翠の勾玉が、

あなたたちの

『帰る場所』になりますように──」


――――――――――


火は、旅に出た。


雷に導かれ、

未来を撚るために。


水は、

火の帰り道を守るために──

ひとつの石に

姿を変えた。


翡翠の勾玉。


それは、

火を送り出した

母の最後の祈りだった。


――――――――――


──そして、物語は静かに続いていく。


風とともに、

ツバメが空を舞う。


残ったのは、

空になった巣と、

小さく撚られた紐だけ──。


――――――――――


【お知らせ】

毎日投稿は本日まで。

次回の更新は **六月二四日(火曜日)**予定です。

これからは週一で、『撚り』ながらお届けします。


※この物語は、

日本神話をもとにしたフィクションです。

実在の信仰・伝承とは異なる

創作表現を含みます。

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