第3話 幕間・2| 叶え結びと封印の記憶──むすびはなぜ閉ざされたのか

第三話|封印とむすびの鍵


箪笥の奥。

重ねられた布の下に、それはあった。


少し色褪せた小箱の中。

きっちりと結ばれた精麻の結び──


祖母が「絶対に解いてはいけない」と言っていた、

『叶え結び』。


触れた瞬間、手がわずかに震えた。

胸の奥に、静かで深い流れが走る。


これは、ただの紐じゃない。

撚られた一本一本に、何かが宿っている。


記憶か、祈りか、それとも名もなき願いか──


私はしばらく言葉を失くしたまま、

その結びを見つめていた。


―――――


祖母は、生前こう言っていた。


「その結びは、封印の鍵なの。

だから、簡単に解いてはいけないのよ」


子どものころは、意味がよく分からなかった。

けれど今なら、少しだけ分かる気がする。


―――――


むすびと、封印された記憶


『むすび』という言葉には、

「産霊(むすひ)」という古い意味がある。


命を生み、天地を繋ぎ、

目に見えないもの同士を結ぶ力。


古代神話に登場する

『高御産巣日神(たかみむすび)』や

『神産巣日神(かみむすび)』は、

まさにその『むすひ』の力を象徴していた。


けれど──

時代が進むにつれて、

その力は少しずつ封じられていった。


―――――


なぜ、封印されたのか?


・縄文のころ、人々は自然や命との

 つながりを『むすび』として感じていた。


・卑弥呼の時代、むすびは霊的な統治の力だった。


・仏教の伝来により、

 目に見えない力は迷信とされ、静かに後退していく。


・武士の時代、むすびは家や血縁へと意味を変え、

 霊性を手放した。


むすびの力は、

あまりに自由で、

あまりに制御しづらいものだったのかもしれない。


だからこそ、

人々は自らその力を封じたのだろう。

知らず知らずのうちに。


―――――


撫子が手にした「鍵」


祖母が残した叶え結びは、

時を超えて撫子の手に渡り、

静かに目を覚まそうとしている。


けれど──

その封印は、ただ結びを解くだけでは開かない。


撫子は、これから『むすび』に秘められた

五つのエレメントと向き合うことになる。


風、水、火、言葉、血。


それぞれが、人と人、世界と世界をつなぐ見えない糸。


むすびを解くとは、

過去と未来を、祈りと責任を、つなぎなおすこと。


やさしさだけでは、届かない場所がある。


―――――


あなたにとっての『むすび』とは?


これは、物語の中だけの話じゃない。

現代を生きる私たちにとっても、問いかけは同じだ。


むすびとは、何を結ぶ行為なのか。

封印された力を、もう一度解いてもいいのか。


私たちは日々、何かを結び、

何かを閉じ、何かをほどこうとしている。


その手の中にあるものが、むすびの力だとしたら──


次にあなたは、何を結ぶだろう?


―――――


次回予告


次回、撫子の旅が動き出す。

その足元に落ちていた結びは、ほんとうに鍵だったのか。

それとも、まだ見ぬ扉の前触れにすぎなかったのか──

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