城塞都市トレンティの出会い
私たちは運命の恋に落ちたのですわ -1
ざっとアルマトラン連合国の地図を確認しておくと、まず、東の野蛮国との武力衝突地域に面しているのがヴィッターリス王国。トルエノ辺境伯領は、その最南部、五光湖に面する場所にある。その南側には同じく湖に面するブラウリーデ聖王国があり、さらに南下してルメスカロー王国と続く。この国は、昔アルマトラン王国と盟主の座を争った大国である。以上の国が、人間の住まう地域の最東に位置し、常に野蛮国と戦争している。
ヴィッターリス王国から西へ、細長く陸地が続いている。
安定した国境を持つ、ドマレス王国、ラーイル王国、ファルシャ王国を挟み、西側に連合国盟主アルマトラン王国がある。戦線からは遠いが、「人類を代表する国」として面積、国力、軍事力とも強い勢力を誇る。30年ほど前には、アルマトラン王国とヴィッターリス王国を繋ぐ魔力機関車も開通し、それを主導したのがアルマトラン王国だ。機関車を動かすのに必要な魔石。その鉱山のひとつも所有している。
そんな大国アルマトランの下に、小国地帯と呼ばれる紛争地域が存在する。いくつかの国が衝突を繰り返し、国境の定まらない不安定な政情で、バルザス海輸団の出身はこの地域だ。
そしてさらにその南部の大陸には自由都市ワルファラと呼ばれる、人間と異民族がともに暮らす町があり、ここはアルマトラン連合国の勢力圏には含まれない。オルジュ商会が訪れる最南端都市である。
そこからさらに南へ下ると異民族の国があるのだが、天然の要塞に阻まれ、その詳細は分かっていない。この国に住めなくなった者、アルマトラン連合国に住めなくなった者が集うことから、ワルファラには「はみ出し者の町」という意味があるのだが、近年、カジノなど観光業の振興により悪いイメージは払拭されつつあるようだ。
バルザス海輸団 は、ラーイル王国からヴィッターリス王国へ向けて、細い海を航海していた。それほど距離もないので、およそ二日間で、トルバニウス公爵領にある港湾都市グーンバルへ到着する。
ヴィサルティスには、それまでに整理しておきたい事柄があった。
ロアーナたちと四人で、船長室を占領して話し合う。
「君の提案では、伯爵家に新たな女主人……つまり君のことだけど、新しい人間関係を持ち込むことによって、母の勢力を削ぎ、誰が彼女の指示で動いているか確かめる、ということだったな」
「はい、そのように申し上げました」
あたたかいマグカップで両手を温めながら、ロアーナは頷く。
「侍女ちゃんはついてくるだろうし、」
「当然ですね」
とポーズを決めるシェナに「分かってるから、続きを喋らせてくれ」と釘を刺しておいて、ヴィサルティスは続ける。
「たぶんそのほかにも、何人か連れてくるつもりだよな。女性が嫁入りの際、実家から使用人を連れてくるのは慣習だし、君の人選に文句を言うつもりはない。ただ俺からも要望があって……シャノンとレック。あいつらも連れて行きたい」
もちろん本人たちの意志が一番だが、と前置きし、理由を話した。
「俺は母を避けていた。情けない話だが、真実から目を背けていたんだよ。だからなんとなく、みんな母の手下なんじゃないかと決めつけて、アースのように兄と親しくしていた人間しか信用できなかったんだ。シャノンたちなら、フェリオスや君のそばに、安心して置いておける」
シャノンは、無人島でも活躍した青いつば広帽子のこと。レックはその双子の弟で、クールで若干覇気に乏しい青バンダナのことだ。
ロアーナは、ヴィサルティスの気持ちに理解を示したが、ひとつ懸念があるという。
「あのふたりを引き抜いて、バルザス海輸団のみなさんがやっていけるでしょうか。海賊業を始めようとしていたわりには、ずいぶんとお粗末でしたが」
ジェレミー船長が聞いていたらプンプン怒りそうだが、四人全員がお粗末な事実を目の当たりにしている。
「レックのほうは、鍛えればいい戦士になるだろう。だがそれにも時間が必要で、現状、シャノンとレックがいたところで、ここの連中が弱いことに変わりはないよ」
前回乗船した際、アースクレイルとともにひととおり設備を見て回った。魔力推進装置は立派なものだったが、船長たちが使っていた銃は殺傷能力が低く、刀剣も古い量産品、砲台に至ってはすべてハリボテという有り様だった。この海域には本物の海賊が出没するのだが出会ったらどうすると尋ねると「全速力で逃げる」との回答が。
「そこでなんだが。バルザス海輸団に貸付して、傭兵を雇うのはどうだ? むろん、最初は採算が合わないとは思うが。
ロアーナは、細い指を唇にあてた。無意識の仕草のようだが、ヴィサルティスは少しドキッとしてしまう。いつも以上に大人びて見えるので。
「貸付は構いません。先行投資は行うつもりでしたから。ただ、バルザス海輸団のみなさんが、傭兵たちとうまくやれるかが心配ですし、やはり、シャノンたちの気持ちの確認が先ではありませんか?」
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